仕事にも適性があるように、結婚にも向き不向きがある。

どんな爽やかイケメンでも、高学歴・高収入のハイスペ男でも、残念ながら“結婚に向かない男”は存在し、数々の婚活女子を絶望させている。

一時の恋愛を楽しむのなら問題はない。しかし結婚したい女が、結婚に向かない男に割いている時間はないのだ。

この連載では、婚活中のアラサー女子から寄せられた情報を基に、東京に数多生息する “結婚に向かない男”の生態を紹介していく。




【今週の結婚に向かない男】

名前:典明
年齢:36歳 (当時34歳)
職業:外資系投資銀行
住居:青山一丁目

【報告者】

名前:美希
年齢:32歳 (当時30歳)
職業:広告代理店
住居:乃木坂


結婚に向かない男File No.1:隅々まで拘りすぎる男


「2年前の話です。そうですね…振り返ってみれば、最初から嫌な予感はあったかもしれません」

リッツ・カールトン東京の『ザ・ロビーラウンジ』で、今回の報告者・美希はゆっくりと語り出した。

洗練された仕草で前髪をふわりとかきあげる。そして姿勢をピンと美しく保ったまま、ほんの少し眉間にシワを寄せた。

広告代理店の営業として働く美希の横顔には、美しさの隙間に隠しきれぬ聡明さが滲んでいる。よく通るハリのある声も聞き取りやすい。

才色兼備そのものの彼女に心惹かれる男は、さぞ多いことだろう。

しかし今回の報告は、そんな彼女の“パーフェクト感”が招いた悲劇だった。

「初めてデートした夜、彼に言われたんです。君みたいな人をずっと探していたって」

東大卒・外銀勤務という理想的なスペックをもつ彼・典明との出会いは、友人の結婚式だった。新婦側と新郎側でそれぞれ二次会幹事に選出された美希と典明は、打ち合わせで顔を合わせるうち自然と距離を縮め、恋仲に。

だがそれから3ヶ月。熱烈だったはずの典明が突如として音信不通になったというのだ。


典明が急に態度を変えた理由とは。理解しがたい“結婚に向かない”男の生態


「最初に異変を感じたのは、初めて彼の家にお邪魔した時でした」

その夜、ふたりは典明がお気に入りだという代官山『TACUBO』でディナーを楽しんだ。

彼は美希の華美過ぎない、しかしセンスの良いファッションやアクセサリーをしきりに褒めたという。

「彼自身もオシャレな人で。メンズブランドには詳しくなくて忘れてしまいましたが、好きなブランドが決まっていて、いつもそこでまとめ買いするんだと話していましたね」

スタイルのある人なんだな。美希は典明をそんな風に評していた。少なくとも、この時点では。

そして帰り道。彼の方から「付き合おう」と言ってくれ、良かったら家に来ないかと誘われた。

「いい大人ですし、勿体ぶる必要もないと思って行くことにしました。それに、どんな家に住んでいるのか見てみたかったんです。住む部屋って、その人のライフスタイルや価値観が透けて見えるじゃないですか」

典明が暮らすのは、青山一丁目にあるシンボリックなタワーマンション。

間取りこそ1LDKだが、広々としたその部屋に足を踏み入れようとした瞬間、美希は自分がある失敗を犯したことに気がついたという。

「まだ残暑が残る9月だったから、素足にサンダルだったんです、私。家に上がる予定もなかったから、靴下を持っていなくて」

美希は仕方なく、そのままスリッパを履こうとした。すると典明が「待って」と声をあげたというのだ。

「彼、急いでリビングから何をとってきたと思います?…除菌ウェットティッシュ。これで足の裏を拭いてって言われて」

潔癖だったのか…!

しかし、少し度が過ぎている気はするものの、どこまでを許容できるかは人それぞれだ。別に彼が悪いわけではない。

美希は自分にそう言い聞かせ、素直に従ったという。

「ただ…そのとき彼が私を見て、幻滅したと言わんばかりに小さくため息をついたんです。それに気づいたのが、最初に感じた嫌な予感でした」

そしてその予感は家に上がったあと、確信へと変わった。




結婚に向かない男の、並々ならぬ拘り


典明の部屋は、まるでモデルルームだった。

家具も家電もすべてモノトーンで統一されている。オシャレだとは思う。センスも良い。しかしまるで生活感がなく、本当にここで暮らしているのかと疑いたくなるほどだ。

「座ってね」と言われてもどこに腰を下ろすのが正解かわからず、美希は部屋の隅で遠慮がちに佇む。

所在なげにしばらく部屋を見渡したあと「そうだ」と思い出し彼に声をかけた。

「手を洗いたいから、洗面所借りてもいいかな?」

そうして典明に案内されてたどり着いたバスルームで、美希は驚きの光景を目にするのだった。

「タオルはここにあるから、新しいものを使って」

説明しながら収納棚を開ける典明。どうやら彼は、一度使うたびにタオルを洗うらしい。

そして開かれた棚の中を一目見て、美希は思わず「わっ」と声を上げてしまった。

そこには、すべて同じブランド(コンランショップのものだった)で統一された真っ白のタオルだけが、整然と並べられていたのだ。

「俺、ここのタオルしか使いたくないんだよね」

美希が若干引いていることに気づいていないのだろう。誇らしげな表情で、典明はそう言った。


ファッションもライフスタイルもこだわりのある男。一見、“理想の彼氏”にも思えるが…?


違和感を覚えながらも、美希はその夜、彼の家で一晩を過ごした。

「さらに驚いたのは、シーツまでシワひとつなく糊がかけられていたこと。クリーニングに出しているそうです」

しかし生活感のない部屋も、統一されたバスタオルも、クリーニングされたシーツも、何も悪いことではない。むしろ世間的には理想の男部屋で暮らすハイスペ男に違いない。

素直に「素敵!」と思うことができないのは、自分が屈折しているからなのかも…。美希はそんな風に思い、彼のライフスタイルを尊重しようと考えた。

東大卒のエリート外銀男というのは、日常生活もこのくらいストイックでなければ務まらないのだろうと。

「それに、並々ならぬ拘りも悪いところばかりじゃないんです。例えば彼、すごい料理上手で。休みの日にプロ顔負けの手料理を振舞ってくれたりもしました」

美希は典明との関係を続けていこうと、精一杯の歩み寄りを見せた。しかしそんな努力も虚しく、典明はあっさり美希を見限ってきたのだ。




音信不通になった理由


「彼が私に冷めた理由なら想像がつきます」

美希はそう言って再び前髪をかきあげると、嘲笑うような表情を浮かべた。

「一度だけ、彼が私の家に来たことがあったんです。その時のことは、もはや黒歴史ですね。とにかく気まずかった」

なんでも典明は、美希の家にある日用品に事細かく苦言を呈してきたらしい。

こんなくたびれたバスタオル早く捨てなよ、そんな安物のリップクリーム身体に悪いよ(彼はオーガニック物を愛用していた)、キッチンマットって実は不衛生だよ、等々。

「うるせー!と思いましたよ、正直。でも私、意外に言い返したりできなくて。それに彼、別に間違ったことを言ってるわけじゃないから…」

聡明な女性である美希は、そんな風に自分を納得させたという。

しかしこの日を境に、急に典明と音信不通になった。

「おそらく彼は、私を自分と同じ人種だと思い込んでいたんでしょうね。その…私ってどうやら完璧主義に見られがちだから。でも実際は想像と違った」

自分の価値観と相容れないものはただ排除する。美希との関係の終わらせ方も、まさに彼のライフスタイルそのものだった。

「数日間は私から何度か連絡したけど…なんとなく理由もわかったし、追いかけてもムダだと思ってやめちゃいました」

それから典明とは一度も連絡を取っていないが、共通の友人から聞いた話では未だ結婚する気配はないという。

「彼とうまくいく女性っているのかしら…。同じように潔癖の人なら合うのかな。もしくは何も主張せず、すべてを彼に合わせてあげられる人とか。でもそれってモラハラ夫ですよね」

一方、今年32歳になった美希には現在、別の彼氏がいる。

「典明ほどのハイスペ男じゃないけど…同い年で、IT系のスタートアップをしてる人。一緒に家でぐうたらできて、めちゃくちゃ楽ですね。今の彼となら、結婚してもいいかなって思ってます」

今となっては、典明が美希をあっさり見限ってくれたことに感謝すべきかもしれない。

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