リニューアルした東京都足立区 大平湯

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日本人の生活に古くから結びついてきた身近な入浴施設「銭湯」は、大衆の憩いの場として時代とともに変化を遂げてきた。しかしながら、近年、老朽化や代替わりの問題、家庭用風呂の普及などを理由に、年50軒ペースで銭湯が減少し続けているという。

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日本の銭湯の歴史を振り返るとともに、時代やライフスタイルの変化に対応する21世紀の銭湯に焦点をあて、その魅力を知ろう!という、連載企画第二弾は、今まで15軒もの銭湯の設計に携わってきた銭湯建築家・今井健太郎さんとともに21世紀の銭湯について考える。

■ 一般銭湯のリニューアルが増加!活躍する銭湯建築家とは

歴史をたどれば奥の深い銭湯も、近年では後継者問題や設備の老朽化などにより店舗数が減少しているのが現状。しかしながらその一方で、最近、若い世代からも支持を集める一般銭湯はリニューアルも増えてきているのだ。そのような時代の流れの中で生き延びていく銭湯のリニューアルに携わり、注目を集めるのが建築家の今井健太郎さんである。

今井さんが建築士として初めて銭湯を手がけたのは2001年こと。業界誌である「1010」で連載した、銭湯文化の未来を見つめ様々なアイデアを展開する「夢銭湯」という記事が注目を集めた。

そして、その記事を読んだ五反野・大平湯のオーナーからリニューアルをオファーされたという。それから現在まで、手がけた銭湯の数は15軒。大平湯を含め、都内の多くの銭湯が今井さんによって新たな命を吹き込まれた。実際どのような経緯で銭湯建築家になったたのだろうか。

勤めていた設計事務所を出て、独立を目指していた20代の頃、風呂なしのアパートに住んでいたという今井さん。毎日近くの銭湯5、6軒をローテーションで通う生活をしていたという。

「銭湯も散歩も好きで、なんとなくフィールドワークとして、都内の銭湯をまわり始めました。ある時、京都から友人が来るので北千住の大黒湯に行きました。その時に、異様な存在感を放つ仙人のような常連客と出会ったことが銭湯をテーマに活動してみようと思いついたきっかけです」。

しかしながら、その際に直面したのは銭湯建築には通常の設計資料というものの事例がないということ。そのため、一からフィールドワークで研究したことを自分で資料として落とし込んでいく作業から始めたそうだ。

その努力の結晶であるスケッチや図面を見せていただいた。その緻密なスケッチは作品のように美しく、銭湯好きの今井さんならではの細やかな発見が記載されていた。

シンメトリーや丸い形を好む今井さんのデザインは、丸い鏡や丸型の富士山の壁画、曲線を生かした浴槽の配置など、どこか柔らかいイメージを彷彿させるデザインが生きている。

また、銭湯の持つレトロなディテールを残しながらも、1人1人の洗い場を広くする設計など、時代とともに求められる快適さを加えた空間を生み出している。今は、現代、都内では珍しい木造の銭湯の設計を進めているそうだ。

そんな今井さん、自身が設計に携わった銭湯にもよく行くそうだ。

「湯船に浸かっていると直にお客さんの声が聞こえるんです。常連客がここが良くなったね、とか会話しているのを聞くと嬉しいですね」。

リニューアル後は、お客さんからもたくさんのお褒めの言葉が聞こえてくるようだ。

先述の夢銭湯の一節で「モノや情報が氾濫し、精神や心の在り方が問い直されるようになってきた現代において、設備に頼るだけではなく、空間の演出を工夫し日常的な癒し(心を洗う)空間を提供する事が、21世紀の銭湯の役割となってゆくことでしょう」と述べる今井さん。銭湯のリニューアルは、こうした時代のニーズに応え、銭湯の普及に大きな役割を担っている。

現代において、ワンコインでたっぷりとしたお湯に浸かれるコストパフォーマンスも、銭湯の素晴らしい価値のひとつでもある。忙しい平日、さっとシャワーで入浴を済ませていた人も、一度、銭湯に目を向け、その気持ち良さを体感してみてはいかがだろうか。【ウォーカープラス編集部】