「なんで分からないの?」「あーもう、忙しいのに……」仕事で忙しいときやイライラしたとき、部下や後輩についネガティブな口調で語りかけてしまう人も多いのでは?

お小言や文句ばかり口にしていると、幸せが逃げていきそう……。

「幸福学」を研究している、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司(まえの・たかし)先生によれば、「ネガティブワードは幸せを逃す」そう。どうすれば怒りをコントロールしてごきげんに仕事ができるか、方法を教えてもらいました。

【第1回】残業がなくなれば毎日充実するの?

カチンときたら即やるべきこと

--前回は、幸福学の基本と、働く時間と幸せの関係についてお聞きしました。今回は、仕事中につい発しがちな「ネガティブワード」の対処法についてお聞きしたいと思います。

前野隆司さん(以下、前野):はい、どうぞ。

--忙しいときに人が小さなミスをしたり、話が通じなかったりすると、ついイライラしてネガティブな言葉を発してしまうことがあります。怒っても仕方がないと、頭では分かっているんですが……。

前野:これは、練習が必要ですね。練習すると、日常生活でほとんどネガティブな言葉を使わずにすみますよ。荻野淳也さんという、ビジネスパーソン向けにマインドフルネス(瞑想)を教えている方に習った方法をお伝えしましょう。

【1】まず、相手に対して「何で!?」と怒っている場面を想像してみる。
【2】ひと呼吸して、「怒りそうになっているな」と自分の感情を客観的に見つめる。
【3】ネガティブじゃない言い方って何だろう?と考える
【4】怒るのではなく、「そういうやり方もあるんだね。今度はこういうやり方でやってみたら?」という助言に変えてみる。

というように、イメージトレーニングをするんです。これは、僕自身も効果を感じました。

--どのような効果を?

前野:妻に対して「何で!?」と言いそうになったときに「あ、イメトレと同じ状況だ!」と思い、深呼吸をして、ポジティブな言い方をしようとしたらできました。よく啓蒙書などで「ポジティブになりましょう」と書いてありますよね。文章だけ読んでいると「よし」と思うけど、いざその場面に遭遇したら実践できないことが多い。だから練習しておく必要があるんです。練習するとコツがつかめて、面白くなってくるんですよ。それを忘れずに続けると、どんどん上達するんですね。

あと、僕の場合は、妻に対して「こういうことを習ってきたんだよ。だから今日から実践するよ」と宣言して、「それはいいね」と共感してもらえたのが良かったですね。そうすると、次にイラッとしたときに「あ、深呼吸が足りないんじゃないの?」なんて言われて「確かに」と深呼吸をしてクールダウンすることができる。怒りそうになったときに深呼吸したら「わかった、わかった」と言ってもらえたこともありました(笑)。

「怒りの感情」が寿命を左右する

--その「深呼吸」を仕事の場でできたらすごくいいですよね。

前野:そうですね。言葉には、「非常に失礼」から「ものすごく優しい」までの間に何段階もあって。普段からネガティブな言い方をしがちな人は、やっぱり練習する必要があると思います。それこそ練習講座みたいなのがあるといいですよね。

--その講座、受けたいです! すぐに怒っちゃうんですよね……。仕事でもプライベートでも、ちょっと関係が近い人だとキツい言い方をしてしまう。それで幸せを逃がしているな、という気になります。

前野:この間「怒り指標」というデータを見たんですが、怒り指標が高い人と低い人では、余命が違うんですよ。25年後生存率でみると、あまり怒らない人は98%くらい生き残っているのと比べて、怒りやすい人は、20年後に生存率が13%おちた(87%までおちた)んです。年を取るとだんだん丸くなっていくといいますけど、怒りのコントロールがちょっとずつ上手になっていくんだと思うんですよね。長生きするためにも、怒りをちょっと抑える練習をしたいですよね。

--寿命にも関わるなんて……。今日からでも練習しなきゃ。

前野:色々な練習ができると思いますよ。ロールプレイをやってみるのも効果的です。以前、ある会社の研修に協力したんですが、参加者の中に、ものすごく怖い上司として知られている専務がいたんですよ。そこで、部下と上司の役割を反対にするロールプレイを行ってみました。部下の人が「申し訳ないですが、専務の怒り方を再現します!」とか言いながらやっていたんですが、それを見た専務が「こんな言われ方したら確かに嫌だよなあ……」と反省して。それから少し改善したということがありましたね。

会社で怒ってしまうという方は、遊びのつもりで同僚や後輩とロールプレイをやってみたらどうでしょう? それによって、コミュニケーションが変化するかもしれません。それから精神医学では、怒っていると感じたら、語尾に「思った」とか「考えた」というのをくっつけるといいと言われています。「イライラするなぁ〜」より「私はイライラしたと思った」の方が冷静ですよね。

感情の乏しい「能面女子」にオススメの練習法

--全然怒っていないのに、「怒ってるの?」と聞かれてしまうこともあります。いつも険しい顔をしているのか、嬉しいとか喜んでいるとかもいまいち伝わらない……。

前野:場のムードを満喫した方が幸せというデータがありますから、感情を抑えない練習をした方がいいですよ。皆で食事するときに「ああ〜、おいしい!」と声に出す人と、何も言わずに黙々と食べる人がいるじゃないですか。ふだんは後者のタイプだとしても、無理やり大げさに言う練習をするといいと思います。「今日はノリがいいね」とか言われるかもしれないけど(笑)。

--大げさな人って、うざったいなと思うこともあるんですけれども、やっぱり羨ましいですね。

前野:のびのびしていて幸せそうですよね。オムロンの笑顔測定器って知っていますか? ある女子学生はニコッと笑うだけで100点が出るのに、僕は思い切り笑っても95点までにしかならなくて、一生懸命笑顔を作ったことがありました。普段から笑顔を作っていないと、筋肉も退化するんですよね。そうすると、感情を表現する力も弱まってしまう。感情が伝わりにくいと、幸福度も低くなりますから、もっと思い切って笑ったり驚いたりしてみてください。

次回は、仕事とプライベートの両立で本当に幸せになれるか?について伺います。

(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)