「私、清水富美加は幸福の科学という宗教に出家しました」。

出家先の会見に集まった報道陣に配布されたという本人直筆のコメントには、ひときわ大きな文字で、そう書かれてあります。大きく書いて、主張したい気持ちなのでしょう。少なくとも、今現在は。

毎日がギリギリの状態の中、「出家したい」と言ったらマネージャーさんにも「意味がわからない。やめてくれ」と言われました。ともあります。

そりゃ、22歳の女の子から、仕事辛い、出家したい と言われたら、しかも、ずっとそばで見守りながら一緒に仕事をしてきた(つまり仲良し)人なら、「意味わからん」と言うと思う。一般の人間には、出家という発想がそもそもありませんから。

もともと、富美加さんは文学的センスのある言葉を紡ぐのがうまい人です。ブログでも写真集のエッセイでも、繊細な心の機微を、読んでいる側までキュンとなるような文章で綴っています。「出家」という表現を、感受性の高い、ふみかす独特の言い回しと思ったのでは、というような気がします。

でも、彼女はもともと信者で、出家というもの(もの?)が自分の人生のごくごく近くにあった。だから、するっとそういう気持ちになったのだろうし、それをさくっと拒絶されたことで「もはや現世に味方なし」と思ってしまったのかもしれないと思う。

周囲でも「お給料が5万円だったんでしょうー」「水着の仕事がイヤだったんだってね……」と、ネットで報道されている富美加さん出家ニュースの記事をなぞる会話が繰り広げられています。

仕事をしている女性なら、「休みなしで働いて月5万なんて、ありえないでしょ」と思うし、ビキニを着てセクシーポーズで微笑む仕事を喜んでやっている人よりもイヤだと思う人のほうが共感しやすい。富美加さんは辛かったということが、わかりやすい事例といえます。

でも、それは過去の話です。言われたほうとしては、「えー、今更その話?」となるんじゃないかと思うし、うすうす、私たちも、「ま……仕事って、辛いこともあるし……」「あたしはパケホーダイかよ、っていうくらい、どんどん理不尽なこと言いつけられることって仕事だと普通にあるよね……」と思わなくもない。だから、富美加さん(側)としても、共感が得られそうなわかりやすい話として持ち出しただけじゃないかという気がします。別に、そんなことはもはやどうでもよく、とにもかくにも、今、無理、限界、ってことなんでしょう。

やるだけやって、頑張って、もう無理、なら仕方ない

自分は、彼女の行動を、壊れてしまう前に、苦しい場所からひとまず逃げるという選択肢が見つけられて本当によかった、と思っています。

ニュース情報番組などでは、発言権のある方々が「仕事をバックレるなんて無責任」「仕事に穴を開けるなんでプロとして失格」と口々に言っています。それを聞くと、ああ、世の中の正義はこっちなんだよな、とガックリきてしまいます。

取ってきた仕事をやってくれなければ利益が出ない、むしろ損失が発生するから困る、という雇用側の気持ちはわかります。先日も、同業者が「アシスタントの女性がサポートしてくれることを見越して仕事を取ってきたら、“もうここは卒業します”と言って辞められてしまった。自分がいなくなったら私が困るだろうなという気持ちにはなってくれなかったらしい。あるいは、そんなことはどうでもいいと思ったのか……」と肩を落としていました。そう、雇用側としては、代替案も提示されないまま、急に辞められるのは困るんです。困るから腹も立つし、無責任すぎると言いたくもなります。

でも、第三者まで「無責任」「プロ失格」「人間としてクズ」と非難するのはどうなんでしょう。そんなことだから、そんな認識が世の中に浸透しちゃっているから、苦しくて辛くてもうダメだって心が悲鳴をあげているのに、身動きが取れずに命を絶ってしまったりという人が出てしまうんじゃないかと思うんです。やるだけやって、頑張ったけど、もう無理です、って本人が言っているんだからもうそれは、しょうがないです。もっと頑張れるでしょ、とか、ほかの人はあなたよりもっと大変な思いをしてるわよ、とかいうのは、関係ないもの。人がいうことじゃないと思う。限界値は他人には絶対にわからないですから。

清水富美加という魅力ある女優さんがいなくなるのは残念です。芸能界を引退するわけではなく、出家先が、オファーがあれば女優の仕事を受ける可能性もあるというコメントもありましたけど、もう、変なフィルターがかかってしまって普通には見られないと思う。自分はもう、お、清水富美加が出るから番組を録画しておこう、とかいうことにはたぶんならない。でも、そんなことはどうでもいいんです。きっとまた、魅力的な女優さんは次々でてくるから。そして、昔サー、清水富美加って女優、いたよねー。私、結構好きだったんだよねー、って言うだけだから。
「あなたの代わりはいくらでもいる」と思っている人たちのことなんて、気にする必要ない。自分が生きやすい場所で生きればいいんだと思います。だからやっぱり、苦しい場所からひとまず逃げるという選択肢が見つけられて本当によかった、と思うのです。

頑張ってきたけどもう限界ってわかっているのに、人に迷惑をかけるから辞められない、というジレンマは、さらなる不幸を招くことになると思うのだけど。

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