浮気や不倫をしても妻は人前ではニコニコ。それが日本で賞賛される「すてきな奥さん」の姿という現実。

9月15日に発売された週刊誌で、女性との密会が報じられた歌舞伎俳優・中村橋之助さん。その妻、三田寛子さんが翌日の16日に行なった騒動についての記者会見の態度が「妻の鏡」「あっぱれ」と話題です。

雨の中、集まった記者を「濡れてしまって大丈夫ですか?」と神妙な顔でまず気遣い、「お騒がせして申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げた三田寛子さん。

会見中の約10分間、困った顔をしたり、苦笑いしたりしつつも、終始ほんわかと、にこやかな表情を崩さない。そんな彼女の姿を見て、女性の知人は「三田寛子さんってかわいらしい人なんだね」と感動していました。もの静かでソフトな雰囲気。こういう女性になれるものなら……と独身アラフォー女性は我が身を振り返るのです。気が強くて、仕事でも声を荒げてしまったり、不愉快な気持ちをそのまま態度に出してしまったり。三田さんとは真逆です。

かわいらしいだけではありません。夫の浮気が発覚しても、人さまの前では愚痴をこぼしたり怒りの感情を出したりせずに笑顔を貫く、その態度。エレガントです。当人の橋之助さんが、会見で三田さんから「きつく、きつく叱られた」と話していたり、アイドル時代に学園ドラマに共演したという薬丸裕英さんが、三田さんから届いたLINEを紹介したりしているので、夫の不倫を本気で何とも思ってないわけではなく、そうとう傷ついて怒っているのだろうと勘ぐったうえで、「ぐっと堪えてこの姿」というのが、さすがだと思う理由です。

会見内容は、先に触れた薬丸さんへのLINEの内容と重なる部分も多く、お子さんの全員の名前や襲名披露の件、舞台情報なども盛り込まれていました。だから、そうとう練られたものだと思います。うちの親などは、この会見を見て、久しぶりに歌舞伎が見たくなったらしく、「ネットで今から取れる舞台はないか調べてくれ」と連絡をしてくるほど。謝罪会見ではありましたが、タレントとしての三田寛子さんの好感度アップとともに、舞台の宣伝としても機能したのです。歌舞伎の世界を底から支える梨園の妻、という立場からしても最上級の会見だったのではと思います。

そして、この最上級会見に出てくるのが、「私にも至らないところがあったと反省している」です。

夫が不倫や浮気をしたときに、自分にも要因があったと言える妻というのは、日本古来の独特な理想の妻像の典型なのでしょう。しみじみそう思ったのは、三田さんが会見でこの発言をしたときに、するりと聞けたからです。

最近離婚を発表された乙武さんの不倫騒動のとき、当時奥様だった方が「私にも至らないところがあった」と文書での謝罪をしていました。そのときは、「はぁ? 奥さんは3人の子育てをやって、きちんと家を守っているのに、なんで夫が勝手に浮気したことを妻が謝らなくちゃいけないわけ?」と周囲で大ブーイングが起ったものです。加えて、その“至らない点”が、たとえば、彼のシャツのボタンを留めてあげるときにも、子供が騒いでいると気がそっちに向かってしまって、彼への対応が雑になってしまった」というようなこともおっしゃっていたというニュースなどを見て、「え!? そんだけ? 妻がちゃんと世話してくれないから拗ねてるってこと!?」と、ありえねー……という感情が沸騰していました。

でも今回は、「古くからある日本の言い回し」として耳に入ってきたのです。それは、三田寛子さんは歌舞伎の世界で生きている人で、そこは伝統的を受け継いで成り立っている世界だから、と心のどこかで思っているせいでしょう。

滅私して夫を支え、家族を支え、家の繁栄と歌舞伎のために人生を捧げる。そんな三田さんの生き方に「妻として私にも至らない点があった」という謝罪の言葉は、とてもマッチしているような気がしたのです。現代とは一線を画す、独特で特殊な世界で、夫婦のあり方も一般的ではないんじゃないかと思っているからこそ、「また妻が自分のせいだって謝るの!?」と思うこともなく、むしろ耳心地よく聞こえたのです。

もし、三田さんに「至らなかった点」があるんだとしたら、ひとつだけ。この襲名披露という大切な、世間から注目されている時期にも浮気をしちゃうかもしれないご主人に、「今は絶対にまずいからおとなしくしていてね」とクギを刺せなかったことでしょうか。25年夫婦を続ける中で、この人って大事な時期という認識が甘い人なんだよなとか、そういうことはわかっているはずなので……。でも、それは、妻として母として、役割をきちんとこなさなかった、至らなかったということとはまったく違う次元の話です。

つまり、妻が「私にも至らない点があった」というのは、実際本当に至らない点があったわけではなく、思っているわけでもなく、そういう風に言うのが流儀、みたいなものなのじゃないでしょうか。なのに言葉だけがひとり歩きして、「夫が浮気や不倫をするのは妻が至らないせい」という風潮が生まれ、それに「至らないってなによ!」と女性たちが反発している。

妻が至ろうが至らなかろうが、夫婦仲が円満であろうが険悪であろうが、浮気する人はするし、しない人はしないのです。妻が至らないからではありません。

ではどうして、浮気をする人は浮気するのでしょう。ファンがいて、その人たちの支援で成り立っているビジネスをしている人たちは仕事上のリスクも大きいですし、一般の人だって、離婚されたり、慰謝料を請求されたり、子供から軽蔑されたり、家庭が崩壊したりしかねません。なのになぜ? 実際のところを聞いてみたいと思います。

「あなたは妻が至らないから浮気するんですか?」 その2ではあずき総研で行なった浮気夫への本音インタビューを紹介します。

■プロフィール

 白玉あずき

東京都出身。清泉女子大学卒。学生時代より活字メディアに携わり、四半世紀にわたり女性のおしゃれと恋愛とダイエットについて考察、記事にする。現在は雑誌や単行本の編集、制作に加え、女性コンテンツのプロデュースやディレクションなど多分野で活動。最近の生きるテーマは社会貢献と女性支援。