トム ブラウン 2027年春夏ウィメンズ──蝶が羽化するように、クラシックは変容を続ける

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クラシックを受け継ぐとは、その形を変えずに守り続けることでしょうか。

グレーのスーツ、シャツ、プリーツスカート。厳格なテーラリングとユニフォームというコードを出発点に、そのプロポーションを崩し、緻密なディテールを加えながら、トム ブラウン(Thom Browne)は25年以上にわたって新しいフォルムを生み出してきました。2027年春夏ウィメンズコレクションで、その絶え間ない「変容」は、自然界のメタモルフォーゼと重なります。

Courtesy of THOM BROWNE
舞台となるのは、春を迎えた「トムのガーデン」。そこでは昆虫や植物が目を覚まし、やがて繭が形づくられ、蝶が羽化する。最後に姿を現す花嫁もまた、初めての飛翔を待っています。

Courtesy of THOM BROWNE
クラシックな服を一つの完成形として固定するのではなく、変わり続けることで次の時代へつないでいく。今季の幻想的な庭には、トム ブラウンが長く続けてきたクリエイションそのものが映し出されています。

幾何学的なテーラリングに、有機的な生命が入り込む
コレクションの始まりに置かれたのは、鮮明なコントラストです。昆虫や植物が持つ鮮やかな色彩と有機的なフォルム。その対極には、マドラスチェック、グリッドチェックのピケ、チェックのカシミア、フェイクファーのインターシャといった、幾何学的な秩序があります。構築的なテーラリングにはプリーツやアシンメトリーな装飾が加えられ、規則正しく引かれていた線の内側へ、少しずつ自然界の生命が入り込んでいきます。

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ジャカードのバッタは、刺繍された草むらに潜む。スパンコールのハエや蛾はオーバーコートやプリーツスカートを舞い、蟻はゴールドのブリオン刺繍糸とレッド、ブラックのインターシャとなって現れます。チェスターフィールドコートでは蜂が巣を育み、蝶の羽の刺繍とトンボのジャカードはモザイクのような表情をつくり出します。

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それらは単に昆虫の姿を服の上に描いたものだけではありません。ウールのスイスドット、ラフィアのトリミング、多様なツイード。緑の牧草地やピンクの花畑を思わせるツイードもあれば、オーガンザやグログラン、誇張されたプーフヤーンを織り込んだものもある。視覚だけでなく、素材の凹凸や厚みまで使って、庭そのものが服の表面に育っていきます。

昆虫を「描く」のではなく、服そのものを身体へ
やがて、その関係はさらに深くなります。メッシュ、シルク、ツイード、オックスフォード、チェックを組み合わせた服は、テントウムシ、ゾウムシ、タンジービートル、ゴライアスビートルといった甲虫の身体へ。インターシャのビキニと身体の構造に沿ったカラーブロッキングは、シルバーラメのアマガエルやネイビーのウールツイルで表現されたヤドクガエルの不規則な模様へと変わっていきます。

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アクセサリーも、この庭の生態系から切り離されてはいません。ピンク、オレンジ、グリーン、イエローのバッタ型クラッチ。ペブルグレインレザーとパテントレザーを細かく切り替え、万華鏡のような甲虫の身体を表現したアタッシェケース。レザーの蝶の羽をまとったテヴィオットのフレームバッグ。

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プラットフォームヒールやパンプスには、パテントレザー、ペブルグレインレザー、ポニー、スエード、クリスタルが組み合わされ、蜂やトンボ、イモムシへと姿を変えます。

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ここで起きているのは、自然界のモチーフを装飾として引用することから、服やバッグ、靴そのものを生き物の構造へ近づけていく変化です。トム ブラウンが長く続けてきたプロポーションへの問いが、今季は人間の身体だけでなく、昆虫や植物、両生類の身体へと広がっています。

ブラックウィドウから蚕へ。そして繭がつくられる
庭は次第に、より幻想的な世界へと変わっていきます。ブラックウィドウは、ブラックのシルクダッチェスサテン、シルクモアレ、モヘアをまとい、その身体には特徴的な赤い印が浮かびます。

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ツーボタンのホルターベストドレスはコオロギの外骨格を形づくり、オイルドレザーのモトジャケットは、シルクテーラリングの中でハエの身体へ。対照的に蚕は、ブラッシュド仕上げのホワイトアルパカウールのスポーツコートとティアードプリーツスカートによって柔らかく表現されています。

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そして、繭が形づくられます。丸みを帯びた重厚なウールのスポーツコート。その表面には、これから現れる姿を予告するように蝶の羽がアップリケされています。

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ここで「変容」という今季の物語が、最も明確な形を取り始めます。昆虫になるためにテーラリングを捨てるのではありません。スポーツコートやプリーツスカート、ベストドレスといったトム ブラウンの語彙を保ったまま、その構造、素材、プロポーションを変えることで、別の生命へと姿を変えていく。繭は、その変化を包み込む装置でもあります。

蝶が羽化する。テーラリングは次の姿へ
そして、蝶が羽化します。レオパードレースウィング、エメラルドスワローテイル、アリゾナヘアストリーク、パープルエンペラー、スカーレットモルモン、ラジャ・ブルックス・バードウィング、ロスチャイルド・バードウィング、アポロ、サフォ・ロングウィング、ペインテッドレディ。コレクションノートに一種ずつ名前を記された蝶たちは、それぞれ異なる色彩と模様をまとって現れます。

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腰の低い位置に配されたプリーツのハンカチーフヘムスカートは、ハイネックのワンピーススイムウェアの周囲で旋回するように揺れる。昆虫の硬い外骨格や繭の重さから解放されるように、シルエットにも動きが生まれます。その繊細な舞いが迎え入れるのが、コレクション全体を貫いてきた「metamorphosis=変容」です。

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トム ブラウンにとって変容とは、過去を消し去って別のものになることではないのでしょう。チェックは残る。テーラリングも、プリーツも、スポーツコートも残る。しかし、そのプロポーションを変え、異なる素材を組み合わせ、ディテールを積み重ねることで、見慣れたユニフォームはそれまでとは違う姿へと生まれ変わります。

花嫁は、初めての飛翔へ
フィナーレに姿を現すのは、花嫁です。クロップド丈の二重織りシルクダッチェスサテンのジャケットからは、顔を縁取るようにインターシャのウィングパネルが立ち上がります。その下には中綿入りのシルクベルベットのコルセット。オフホワイトのフロートヤーン・ジャカードとシルク・モガドールによるアシンメトリーなプリーツスカートが、後方へ長く尾を引きます。

Courtesy of THOM BROWNE
コレクションノートを締めくくるのは、

「やがて、彼女は初めて飛翔する…」

という一文です。

庭に春が訪れ、昆虫が現れ、繭がつくられ、蝶が羽化し、最後に花嫁が翼を得る。その物語をたどった先で見えてくるのは、トム ブラウンが25年以上にわたり続けてきた、クラシックに対する一つの態度です。変わらないために、形を守るのではない。受け継いできたコードを残しながら、そのプロポーションを問い直し、素材や技法を重ね、別の姿へと変容させ続ける。

2027年春夏、トム ブラウンの庭で羽化した蝶たちは、クラシックが過去にとどまることなく、次の時代へ飛び立つための姿なのかもしれません。

Courtesy of THOM BROWNE