「あなたは世間一般では、特別かわいいわけじゃないからね」。TBS紀行バラエティ番組『クレイジージャーニー』で一躍有名になったフォトグラファーのヨシダナギさんは、小学生のときに母から衝撃の事実を告げられます。しかし、同時に伝えられた「武器」が結果的に人生を切り開いていくことに。

【写真】アフリカでの撮影で少数民族に混じり、愛嬌ある笑顔を見せるヨシダさん(全15枚)

家の中では絶対だった母が突きつけた現実

モロッコに撮影に行ったときに現地の人たちと記念撮影

── 今やフォトグラファーとして世界で活躍されていらっしゃいますが、ヨシダさんの人生はお母さんの影響も大きく受けているそうですね。子どもの頃は、ヨシダさんにとってお母さんはどんな存在でしたか。

ヨシダさん:母が家の中では一番強かったし、母の意見が絶対でした。それがイヤとか苦しい感じも全然なかったですし、当たり前のこととして過ごしていました。母は明るく社交的な人で、物静かで自分の言葉でうまく表現できない私とは真逆なタイプです。母が敷いたレールの上を歩いていれば大丈夫だと思っていました。母が周りに私の話をするときに「この子は何もできない子だから」とよく言っていましたが、私も「そうだな」くらいにしか思わなかったです。

── お母さんから言われた言葉で、今でも強烈に印象に残っている言葉があるそうですね。

ヨシダさん:母は物事をハッキリ言う人ですが、私が小学生のとき、母が私を見て突然、「あなたは自分の娘だからかわいいけど、世間一般で見たら、ブスではないけど特別かわいくもないからね。あなた普通ね」と言われたんです。確かに普通の顔だよね、と認めざるを得なかったし、自分でも薄々気づいてはいましたが、母に唐突に言われたときは衝撃でした。

でも、母のことを否定的に見たことはなかったです。母も私を傷つけようとして言っているわけではないだろうな、と思っていましたし。

── そんなお母さんですが、ヨシダさんが中学2年生のときに離婚されます。当時、お母さんからどんな説明を?

ヨシダさん:完全に事後報告でした。中学2年生の夏休み、朝早い時間に起こされてリビングに呼ばれると「パパとママ、離婚しました。ママが出て行きます」と突然、聞かされたんです。小さい頃から両親がケンカしている姿を見たことがなかったのでびっくりしました。

でも、いがみ合っている人同士が一緒にいるより、お母さんはお母さんの、お父さんはお父さんの人生を充実させたほうがいいんじゃないかなと思って。親も子どものことを考えなかったわけではないと思うんです。それでも離婚を選んだのなら、子どもが「離婚しないでくれ」と言ったところで、親の負担になってしまうと思ったんですよね。

── すごく冷静に受け止めていらっしゃるように感じます。両親から離婚の報告を受けた瞬間もそこまで落ち着いて考えられましたか?

ヨシダさん:冷静だった気がします。なぜかというと、私は小さい頃から夜寝る前に、「人はなぜ生きてるんだろう」「人は死んだらどうなるのかな」って、考えることがあったんですね。その流れで、「もし親が離婚したいと言ったらどう思うのか」というのも想像したことがあったんです。

理想としては、私がもし結婚するなら両親揃って送り出してもらえたら嬉しい。でも、生きていればどうしようもできないことってあるよな。もし親から離婚したいと言われたら、ふたりの気持ちを尊重しよう、という結論にベッドの中では落ち着きました。なので実際、親から離婚の報告を聞いたときもすんなり受け入れられたし、とくに理由も聞きませんでした。

離婚後は父方に引き取られて、暮らすことになりました。離婚のストレスもあったでしょうし、家の中はピリピリして、私はいつも父の顔色をうかがいながら過ごしていました。父は飲食店で働いていたので帰宅も終電前になることが多く、帰ってくるときは寝たふりをしていましたね。

母が授けた「お守りのような」もうひとつの言葉

西アフリカのニジェールに行ったときに少数民族の人たちと撮影

── 離婚後はお母さんが家を出たそうですが、母と娘の関係性は変わりましたか?

ヨシダさん:離婚して母が家を出て行った手前なのかわかりませんが、あまり私に干渉しなくなりました。今は何かあれば連絡しますし、ちょうどいい距離感で付き合えていると思います。それに、母から言われた言葉でもうひとつ印象的な言葉があるんです。

── どんな言葉ですか?

ヨシダさん:母は私のことを「特別かわいくもない」と言いましたが、逆に自分の強み、「武器」も教えてもらいました。母から「うまく話せなくてもいいから、いつもニコニコしていなさい。あなたの笑顔はすごく愛嬌がある。その笑顔は絶対おじさんには刺さるから。将来、あなたに優しくしてくれて、あなたに仕事やお金を落としてくれるのはおじさんだから、これぞと思ったおじさんには笑顔で接しなさい」と。

その言葉をずっと覚えていて、自分の顔の造形が気に入らなくても、笑顔でカバーすればいいと思ってここまでやってこれた部分もあります。個性のある私のことを受け入れてくれる人が、きっといるだろうって。今は世界中の少数民族のもとを訪れていますけど、アフリカでもアマゾンでも変な人と思われたらこっちのものだと思ってしつこくニコニコしています。

母の言葉は一部を切り取るとセンセーショナルに聞こえますが、ちゃんと「あなたは自分の娘だからかわいいけど」という前置きがありました。そして、「あなたの笑顔はすごく愛嬌がある」という言葉は、お守りみたいになって、私の人生をうまく回してくれているような気がしています。

取材・文:松永怜 写真:ヨシダナギ