――不安なときは、旦那さんに相談したりしましたか?

あいり:普段から、私の想いは夫の前で話しているので、妊娠期間中もサンドバッグのように私のモヤモヤを黙って聞いてくれていました(笑)。お腹の張りがあって料理ができないときは、出前やコンビニご飯などで甘えさせてもらっていました。そのあたりは、夫はすごく理解があったと思います。

◆無痛分娩を選んだ理由

――出産は無痛分娩だったそうですが、選んだ理由はありますか?

あいり:痛みが怖かったからというのが一番の理由です。あと、年を取ってからの出産だったので、産後の体力が不安だったということもあります。もちろんリスクもあるので賛否両論があるのは知りつつも無痛分娩を選びました。

――実際に経験してどうでしたか?

あいり:いろいろな方が仰っているとおり、メリット、デメリットがあると思いました。その病院の方針や、お医者さんの腕によってもかなり違いがあるんだろうなと思います。

私が出産した大学病院は、ギリギリまで麻酔を入れずにまずは陣痛を起こさせて、陣痛の感覚が短くなって分娩台に上がるところで初めて麻酔の管を背中に入れるという方法でした。そのため、無痛にしてもらうまでが長かったです。

家で朝方4時ごろに少しだけ破水して病院に行くとすぐ入院。水と軽いパンだけ食べると、ほどなくして陣痛がきました。ズドーンとくる重みと痛み。看護師さんは「まだまだ!」と仰って、苦しみながら朝から夕方まで院内を歩き続けました。入院してから12時間がすぎた頃にやっと分娩台に移動。麻酔を入れた瞬間フッと陣痛を感じなくなりました。でも麻酔を入れたら陣痛が弱まってしまって、「このままだと出産が進まないから」と言われて、麻酔を止めたんです。

私の場合は、高齢出産ということもあって子宮口が固くなっていたらしく、なかなか開かなかったみたいです。破水した日の夜は「一回寝ましょう」と言われて、分娩室で一晩過ごしまたのですが麻酔が切れるとまた陣痛がやってきての繰り返しでこの一晩もかなり辛かったです。

――旦那さんは励ましたりしてくれましたか?

あいり:それが、コロナ禍だったので立ち会いどころか病院に入れなかったんです。「私の苦しんでいる顔を一生覚えておいて!」と言うところとか想像していたんですけどね(笑)。だからずっと一人きりでした。朝にパンを食べたきりずっと飲まず食わずだったのでお腹が空きすぎて吐き気もありましたし、背中に麻酔の管が入っているのでトイレにも行けず、2〜3時間に1回尿を出すために尿道にカテーテルを入れるのもつらかったですね。

分娩台に上がって20時間ほど経ち、陣痛が強いものの子宮口がほぼ開かず「赤ちゃんの体力や感染症が心配なので、あと1時間で子宮口が開かなかったら帝王切開しましょう」と言われました。それから、先生がすごい力で子宮口をこじ開けてくれたんですが、それがものすっごく痛かったです。

◆無痛分娩で体力を温存するどころか……

――かなり大変なお産でしたね……。

あいり:そこからがまた地獄でした(笑)。麻酔を入れてくれたので陣痛や会陰切開の痛みはなかったのですが、いきむたびに目玉は飛び出そうだし、先生がお腹の上に乗って全体重をかけて押しているし、身体も呼吸もとても苦しかったです。それでもなかなか出てこなかったので最後は吸引分娩になったのですが、最初に分娩台に上がってから出産するまで、33時間かかりました。無痛分娩で体力を温存するどころか、すべての力を使い果たしました。

産まれて少ししてから、泣き声が聞こえてきて安堵で涙が溢れました。が、それも束の間で息子は黄疸と低血糖をおこしているとわかり、一瞬顔の横で息子を眺めて写真を撮っただけですぐにNICUに連れていかれました。残った私は出産での出血量が1.5リットルあり、そのまま分娩室で輸血しました。出産後の晩、真っ暗な中で心電図のモニターだけが光っていている様子を眺めながら「あれは幻だったんじゃないかな?」と赤ちゃんが生まれたことがまだ信じられないような思いがありました。