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身体機能の低下や、さまざまな症状に関わっていると言われる「老化細胞」。この老化細胞が体内の組織に蓄積すると、炎症を引き起こす物質も多くなり、老化現象につながると考えられています。

この連載では、老化細胞研究の第一人者である順天堂大学大学院医学研究科循環器内科の南野徹(とおる)先生に、細胞が老化する仕組みについて伺った回をご紹介します。聞き手は「生命科学アカデミー」のHIROCO学長です。(全4回の第1回)

がんの増殖を防ぐために細胞を老化させる

――老化治療の最前線を走る南野先生のお話を伺いに、順天堂大学へやって来ました。まずは、先生の専門分野と研究内容について教えてください。

南野:私の専門分野である循環器の病気は、動脈硬化や心臓病など、ほとんどが老化と関連するものです。これらの病気を改善する薬は、既にいろいろ開発されていますが、老化そのものにアプローチすれば循環器の病気を根こそぎ治せるのではないかと考えて、老化細胞の研究を始めました。

――老化細胞の研究を始めて20年以上になるそうですね。

南野:もともとは、細胞の老化に関与する染色体の一部の構造である「テロメア」に興味を持って、約30年前に研究を始めたのが始まりですね。その後、20年間ほどかけて、細胞の老化といろいろな病気との関係を研究し、最近、ようやくそれらを治療に結びつけられるところまできました。

――テロメアの長さと寿命は比例しているんですよね。

南野:そうそう。よくご存知ですね。

――テロメアが短くなると、細胞が老化して死んでしまうのでしょうか?

南野:そうなんです。ちょっと難しい話になりますが、テロメアのDNAは、TTAGGGという短い配列がリピートして輪になるような構造をとっています。このリピートによって染色体を守っているんですが、細胞が分裂すると、それらが少しずつ削れて短くなっていくんです。ものすごく短くなると、分裂が停止する仕組みになっています。

――なぜ分裂が停止してしまうんですか?

南野:がんの増殖を防ぐためですね。がん細胞というのは、放っておくと無限に増殖していってしまいます。それを止めるために、私たちの体には、細胞が老化して分裂できなくなるような仕組みが備わっているんです。

「老化細胞」の発見につながったある研究

――先生の研究対象が、テロメアから老化細胞へと発展していった経緯は?

南野:私が研究を始めた頃は、まだ「老化細胞」という考え方が一般的ではありませんでした。細胞が老化するというコンセプトは、「ヘイフリック限界」を基にしています。

――ヘイフリック限界……?

南野:1961年に、レナード・ヘイフリックという生物学者が、培養細胞を作る過程で「ペトリの上で繰り返し細胞を分裂させると、そのうち分裂が止まる」ことを発見したんです。当時は、単なる培養細胞に関する発見であり、生物の老化や病気とは関係ないと思われていました。

しかしその後、多くの研究者によって「実は私たちの体内でも同じような現象が起こっている」ことが証明されていくんですね。分裂が止まり老化した細胞は、血管や心臓、内臓脂肪などに溜まっていきます。

――そうして、病気を引き起こすんですね。

南野:その通りです。老化細胞が溜まると、動脈硬化になったり、糖尿病になったり、心不全になったりします。そういうことを、多くの研究者が証明して「老化細胞は体に悪影響を及ぼす」といったコンセプトが、この20年くらいの間にようやく確立されました。

さらに、老化細胞を除去したり抑制したりすれば、病気が治るかもしれないということがわかってきたため、現在、研究が急速に伸びています。

――老化細胞は、何も手を施さなければ、体の中に溜まっていく一方なのでしょうか?

南野:老化細胞は、「サイトカイン」と呼ばれる炎症分子を放出し、それによって白血球を呼び込んで、自身を食べてもらうようシグナルを出します。なので、理論的には、体内で少しずつ白血球に食べられて、いなくなっていくはずなんです。

ただ、何らかの原因で白血球の食べる力が弱くなると、消えるスピードより増えるスピードの方が早くなり、体内に溜まっていく。同時に、サイトカインだけをどんどん放出するようになると、慢性炎症が起こって、さまざまな臓器の老化につながっていくんです。

これが、私たちがいま考えている細胞老化の仮説です。この仮説を、20年くらいかけて証明してきました。

――ありがとうございます。次回以降、老化細胞の研究について、より詳しく踏み込んでいきたいと思います。

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