私、愛されてる?:「夫はATM」と割り切れない妻。愛のない夫へ突きつけた禁句とは?
あなたは、「夫から愛されている」と断言できますか?
結婚3年目。少しずつ、少しずつ「マンネリ」に陥ってしまったとある夫婦。
熱烈に愛されて結婚した筈なのに、幸せになるために選んだ夫なのに…。
狂い始めた2人の歯車は、果たして元通りになるのだろうか。
これは、東京の至る所に転がっている、
「いつまでもいつまでも、幸せに暮らしました。」の後のストーリーです。
夫の愛情を取り戻そうと奔走する専業主婦の真希。日舞のお稽古で出会った魅力的な人物に、思わぬ刺激を受け夫に本音をぶつけるが、夫の反応は薄かった。

ー返事、遅れてごめん。今夜話そう。
健介からのLINEの返信が来たのは、実家に泊まった翌日、姉の友人が主宰するお菓子教室に飛び入りで参加させて貰っている時だった。
ゆったりとした時間の中でお菓子作りに没頭していると、自分と健介の間にある深く大きな溝のことを、少しだけ忘れることができる。
クリームを入れた固めのシューの上にチョコレートで作った蝶や花を飾りながら、真希は愛らしい姪の麻里子の反応を想像し自然と笑顔になった。
誰かの笑顔のために食事やお菓子を作るのが、どれだけ幸せなことなのかを再認識する。自分の料理は、長いこと人を笑顔にしてない、ということも。
「真希ちゃん、凄く上手だわ。」
姉の友人に声をかけられる。この辺りでも有名な資産家の夫を持つ姉の友人達は、皆恵まれた主婦ばかりだ。
レッスンの最中、姉が何気なく口にする“記念日に振る舞われた夫の手作りディナー”や夏のバカンス先といった話題から、姉が義兄から大切にされているという生活が透けて見えた。
そんな生活で満たされた姉の笑顔の眩しさは、時々真希を窒息しそうなほど苦しくさせる。
ー比べてはいけない。
そう頭では分かっていても、自分に関心を失い会話すらままならない自分の夫と、ここにいる妻達の夫との差はあまりにも明白である。
幸福な女達の集まりの中にいて、違和感を感じたらお終いだと真希は思った。
ついに夫と向かい合う真希。2人の行方は?
違和感を放置し、広がった致命傷。
結婚してしばらくは健介の仕事がそれほど忙しくないこともあり、2人でよく外食に出かけていた。
子供のいない2人は身軽であったから、話題の店があると聞けば、すぐに健介が真希のためにと東京中の美味しい店を予約してくれたのだ。
「お先にどうぞ、真希。」
そう言って、芝居掛かった様子でドアを開けてくれた健介。『レストラン ヒロミチ』といったフレンチの名店や鉄板焼き、イタリアンに鮨、そしてカジュアルなビストロも2人で数え切れないくらい訪れた。

あの頃が夫婦としていちばん幸福だった、とタクシーの中でまどろみながら真希は考える。
エントランスのライトが敷地内の庭を照らす頃、六本木一丁目に着いた。真希は、いつの間にか寝てしまったらしい。
「お帰りなさいませ。」
このマンションに帰り着くたびに、孤独感を感じるようになったのは一体いつからだっただろうか。
父親に似たこの初老のコンシェルジュと会話を交わした後は、エレベーターでも、そしてがらんと広いリビングでもほぼ1人なのだ。
無音の自宅で、自分にまとわりついてくれた麻里子や実家のメンバーとの賑やかな時間との落差を感じ、微かに胸が痛む。
何しろ最近の健介は、家にいてもろくに喋らない。
たまに口を開くと思えば会社の愚痴か、最低限の共有事項。今注目の若手経営者の妻といえば聞こえは良いが、イメージほど贅沢をさせてもらっているわけではない。
愛情のない夫を「生活費をくれるATMだと思えば良い」という意見があるのも知っている。
だが、真希の家族カードの明細は健介によって細かくチェックされ、実家の母がしていたように値段を気にせず産直の食材ばかりを購入していたら露骨に嫌な顔をされたこともある。
「水菜が350円...?もう少し賢い買い物はできないのか?」
それ以来、真希は通うスーパーを変え、交際費や洋服代は出来るだけ独身時代の貯金をおろして使っているのだ。
愛情の溢れる家庭であれば、金銭的な自由度が減ったところで文句はない。
だが、孤独な上に夫に気を使いながらお金を遣う今の生活と比べれば、父親の庇護のもとにいた時の方がよっぽど自由な生活をしていたではないか、と考えてしまう。
その時だ。
ガチャン、と遠慮がちに玄関を開ける音がした。声はしないが、健介が帰ってきたのだろう。
だが次の瞬間、真希は夫の発言に耳を疑うことになる。
夫が発したあまりにも理不尽な言い分とは?
「何が不満なんだよ」
「それで、話って。」
目の前で不機嫌そうな表情を崩さない夫を見ると、自分をあれほど熱心に口説き落とした男と同一人物とは、とても思えなかった。
「話も何も、健介は今の状態が分かってるの?
ここ暫く、私たちろくに会話もしてない。私が話しかけても上の空だし、こんなんじゃ結婚してるって言える状態じゃないと思うの。だからそれを改善したい。」
たとえ離婚をしたとしても受け入れてくれる家があるという安心感が、真希を強気にさせた。
子供もいない今、健介と真希を繋ぐべき愛情が確認できなければ、2人を繋ぐものは新婚時代の幸せな想い出と世間体でしかない。
「あのさぁ。」
夫は不機嫌さを隠さずに続ける。
「俺の会社の状態とか、社長としての重圧とかさ、真希分かってんの?
会話がないのは悪いけど、俺は1秒でも長く会社のことを考えてたいんだよ。こんなくだらないことで、貴重な時間を使ってるのもハッキリいって馬鹿馬鹿しい。」
くだらない。たしかに夫は、自分との話し合いをくだらないことだと言い切った。
真希は傷つくほどに、自分の顔が能面のように無表情になってゆくのを感じた。

「そんなにくだらない関係なら、今すぐにやめればいいじゃない。そしたらもう、私のことで色々煩わしい思いをしなくて済むわよ。」
真希は、夫ときっぱり別れてやり直す新しい人生を想像した。この家を出る。孤独な毎日と理解のない夫に我慢するのはやめるのだ。
「そんなこと言ってないだろ。そもそもこんな風に何不自由なく生活してるのに、何が不満なんだよ!」
夫の目が一瞬悲しげになったような気がしたが、もう健介が以前のように自分のことを愛していないのは明白だ。
そうなれば、この夫と別れるのは造作もないことのように思える。会話もなく、自分の都合だけで妻を抱く夫。
自分の精一杯の働きかけには応じず、仕事の忙しさを盾に歩み寄りを拒否した男。
そんな男にこれ以上気を使う必要はないと思えば、遠慮していたことも容易く口にできた。
「ねぇ、別に何不自由ない生活じゃないのよ?だって私、結婚する前よりも随分とお金に不自由になったもの。」
健介は顔を真っ赤にして出て行き、それから家に帰って来なくなった。
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世間知らずの真希に突きつけられる、容赦ない現実とは...?

