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去る10月13日に崩御したタイのプミポン国王(ラマ9世)。現役君主としては世界最長の70年間にわたって国の発展に尽くし、社会安定の要として君臨しつづけてきた王の死に、タイ国内は深い悲しみに包まれています。
その死を受けて、タイ国内のアーティストたちが次々と追悼曲を発表しています。今日はその中から特に聴かれているだろう曲を紹介します。

 

わずか4日後に緊急リリース。その歌声が心に沁みる名曲
ポー・プミポン(父・プミポン)   by エート・カラバオ


数ある追悼曲の中でも特に良く耳にするのがこの曲。今年で活動35週年を迎えた国民的バンド・カラバオのリーダー・エートが崩御からわずか4日後にリリースした曲です。

アコースティック・ギターとブルースハープによるシンプルな曲にエートの歌声が優しく響いて、心に沁みます。

歌詞の意味は、

父は国土の隅々まで、マングローブ林やジャングルの中まで歩いて回って国民の声を聞いて回った
タイの社会に希望をもたらすため、
様々なアイデアを考え出しては実行していった
そのおかげで国民は幸せで快適な生活を手に入れることができたが、
10月13日、その体は天に召されてしまった
タイにとって、国民にとっての父なる王、父なるプミポン国王
私たちは父の足跡を辿って生きていきます

というもの。

英語版もリリースされています。

 

カラバオはプレーン・プアチーウィット(生きるための歌、タイのフォーク・ロック)というジャンルにおける大御所的存在で、政治問題や貧困、環境問題といった社会性の高い歌をリリースし続けてきました。

2004年末のスマトラ沖地震による津波でタイ南部が大きな被害を受けた際も、発生当日に被災者を慰めるための歌「サップ・ナムター・アンダマン」(アンダマンの涙を拭う)という曲をリリース、チャリティーソングとして被災者の救済にも寄与しました。

 

新人から大御所まで、さまざまなルークトゥン歌手がカバーする
ラオ・スー・ラーン・ファン(孫子に言い伝える)   by サラー・クンナウット


ルークトゥン(タイの歌謡曲)の作曲家として30年以上活動を続け、新人から大御所までさまざまな歌手に楽曲を提供してきた師匠、サラー・クンナウットが作詞・作曲した追悼曲です。

歌詞の内容はというと、王様の写真の前でロウソクを灯し、泣き続けるお爺さんに対し、孫が「どうしてそんなに涙が止まらないの?」と尋ね、それに答える形でお爺さんが「タイ国民がいかに王様を愛してきたか」を説明する、というもの。最後は「父=王様を愛しているなら、私たちはこれから団結し、愛し合っていかなくては」と締めています。

この曲はスラー氏の所属するルークトゥン専門レーベルGrammy Goldのさまざまな歌手によってカバーされ、全部で一体いくつのバージョンが存在するのかわからないほどになっています。

 
Grammy Goldの男性歌手複数によるカバー

 
同じく女性歌手複数によるカバー

 
トップクラスの人気を誇る女性歌手、ターイ・オラタイによるアコースティック・バージョン

 

歴史の転換点を自覚させる流行語を歌に
チャン・グート・ナイ・ラチャガーン・ティー・ガーウ(私はラマ9世の治世に生まれた)   by セーク・ローソー


ロック部門の追悼曲なら、やはり国民的ロックスター、セーク・ローソーによるこの曲を真っ先に紹介したいところ。

崩御の直後、タイ国内のSNSにはその死を悼み、嘆き悲しむメッセージがあふれましたが、それとほぼ同じく大量に流れたのが、曲名にもなっている「私はラマ9世時代に生まれた」という言葉。

プミポン国王は現王朝・ラッタナーコーシン王朝の9代目、つまり「ラマ9世」となります。その治世は70年にも及ぶため、今生きているタイ人のほとんどがラマ9世時代に生まれているのですが、この言葉は「この時代に生まれてよかった」「国父・プミポン国王の子供で良かった」ということを誇らしげに掲げたもの。

歌詞は、「私はラマ9世の治世に、タイの国土の上で生まれた。父の愛の下に生まれた。
しかし10月13日、私の心は壊れてしまった。
太陽は輝きを失い、暗闇に包まれてしまった。

この曲はお父さんの曲です。
ただお父さんに聴いてほしい
たとえ流れる涙が国土を覆い尽くしたとしても
お父さんに届くまで歌い続けたい
お父さんを愛しています、と」といった内容です。
セーク・ローソーは90年代にロックバンド「ローソー(LOSO)」のリーダー&ボーカルとしてデビューし、バンド解散後もソロで活動を続けているロック歌手。

かつて麻薬吸引写真が出回ったり、元奥さんに対するDV疑惑が流れるなど、悪い意味でもロックスター的なイメージの強い人なのですが、ここぞという時に聴く人のハートをがっちり掴む歌を作るところはさすがといえるでしょう。

 
今回は代表的な追悼曲を3曲紹介しましたが、タイ国内では今も有名・無名を問わずさまざまなアーティストが次々と追悼曲を発表しています。
(Youtubeで上記3曲の関連動画を辿ると聴くことができます)

 
今タイは国内全体が追悼ムードに包まれています。
外国人にとって、タイ人の心情は頭では理解できても、感覚で理解できない部分があるかと思います。そんな時、これらの追悼曲を聴けば、そこに込められたアーティストの思いや歌声からうかがい知ることができるかもしれません。

 
(text : fuku)

タイエンタ!〜音楽・映画でタイをもっと満喫〜
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