『なかよし』(講談社)『りぼん』(集英社)と並び三大少女コミック誌のひとつである『ちゃお』(小学館)。

思春期真っ盛りの少女の機微を描いた『水色時代』、肉親の死を乗り越えスケーターとして成長する少女の姿を描いた『ワン・モア・ジャンプ』など、夢中で読みふけっていたことを思い出します。愛読者だった方にしてみれば、『ちゃお』は少女時代を共にしたいわば親友のような存在ともいえるのではないでしょうか。

さて、そんな『ちゃお』ですが、2014年3月号の付録「ライトボックス」が豪華すぎると昨年ネット上で話題を呼びました。好きな先生の漫画をマネすることができるこの付録に、本来のターゲット層である女子小学生はもちろん、手軽に漫画家気分が味わえると10年、20年ぶりに『ちゃお』を購入する大人が続出したそうです。

大人も思わず欲しくなってしまう付録は一体どこでどのように生まれているのでしょう。そこで訪ねたのは、小学館の『ちゃお』編集部。付録担当を3年務める植田優生紀さんにお話をうかがいました。

    おまけの域を超え、今や売上を左右するシビアな存在に

――三大少女コミック誌といえば『りぼん』『なかよし』、そして『ちゃお』というのは昔から変わりませんね。それぞれの発行部数を見ると、りぼんは約20万部、なかよしは約13万部、そして『ちゃお』は約54万部(参照:日本雑誌協会 算定期間2014年7月〜2014年9月)とぶっちぎりの数字を誇るわけですが、コミックの質もさることながらやはり付録のクオリティーやセンスも勝因のひとつだと思います。

植田優生紀さん(以下、植田):付録にはかなり力を入れています。最近では、文房具から雑貨、ファッション小物まで各誌が知恵を絞って豪華な付録を付けていますので、限られたお小遣いをやりくりして『ちゃお』を毎月買ってくれる読者のためにも「絶対に欲しい!」と思ってもらえるようなキャッチ―なものを考えています。さらに、「(親に)買ってもらえるものは付録にしない」というのが付録担当としてのモットーです。

――私の記憶にある付録といえば、たとえばレターセットや手帳などで、最近のものと比較してみると当時はあくまで“おまけ”というくらいの立ち位置でしかなかったように思えます。

植田:実は、2001年に日本雑誌協会が規定を変更するまで、付録にできる材質は紙製品のみと制限されていました。今、紙だけで付録を作れと言われたらゾッとしますけど、当時の編集者さんたちはかなり苦労されたと思いますね。2001年以降の『ちゃお』読者とそれ以前の世代で付録に対しての印象が違うのには、そういう理由があると思います。

――なるほど。今ではおまけどころか付録そのものが売上部数を左右するほどになりましたよね。ところで、付録は一体どこでどのように生み出されるのですか。

    ときには海外で付録のヒントを得ることも

植田:月に1度、編集部員がそれぞれ見つけてきた可愛いものを10点ほどずつ持ち寄る付録会議というものがあります。今回はバッグ、次回は文房具、とあらかじめお題を出しておくのですが、それでも1回につき100個以上の商品が会議室を埋め尽くします。その中からヒントを得たり、あとは香港の文房具市場まで足を延ばしてヒントを得たりすることも。

その後、デザインの方向性が決まると、何社かに見積りを出してもらいます。実は、付録制作においてもっとも苦労するのはこの段階。限られた予算の中、いかにコスト面ですり合わせできるか、いつも頭を悩ませていますが、売上に直接影響することなので妥協はできません。

――付録が完成するまでどれくらいの期間を要するのでしょう。

植田:原案から実際に形になるまで4か月ほどかかります。それでいて、常に半年先の付録まで決めなくてはいけないため、さまざまなことが同時進行している状態です(笑)。万が一ライバル誌とかぶっていることが判明した場合は急遽差し替えることもあり、気が抜けません。

    60万人もの女子のハートを掴む大変さ

――『ちゃお』の付録は、ピンクや水色など女の子が好みそうなパステルカラーのものが多いですよね。

植田:たしかにピンクは多いですね。『ちゃお』の一番の敵は“地味”ですから(笑)。かといって、あまりにもぶりっこな感じも厳禁で、そのさじ加減には注意しています。目標とするのは、雑誌がズラッと並んでいる中でも目について、思わず「可愛い」と口にしてしまうような、万人受けするアイテムですね。

本来ドンピシャのターゲットは小4・小5なのですが、中には小3の読者もいれば中1の読者もいます。そうなると、付録がごく一部の子にしか使えないものでは読者は離れてしまいますよね。

――なるほど。現在の発行部数は約60万部ということですが、60万の読者を飽きさせないために心がけていることを教えてください。

植田:『ちゃお』の新規購買率というのは毎号3%ほどで、つまり97%の方は継続的に買ってくれていることになるのですが、この97%の方をいかにライバル誌に奪われないようにするかが重要になってきます。そこで、継続読者の方たちに次号も楽しみにしてもらうため、予告コーナー(※次号付録の紹介ページ)にできるだけ情報を盛り込み、女子の心をくすぐるような内容に仕上げています。

たとえばこれからの話ですと、2月3日に発売される2015年3月号では卒業シーズンに入ることを意識し、「トモカツふろく」と題して友達のプロフシートを収納しておくプロフ帳をメインとした内容を予定するなど、季節ごとのイベントというのは付録を決定する上で不可欠のファクターです。

もうちょこっとちゃお編集部にお邪魔していきます

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(井上こん)※編集協力/プレスラボ