お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指すこの連載。今回の相談は、岬ゆう子さん(仮名・37歳  メーカー勤務)からの質問です。

「ある程度資産に余裕があるので、30歳で購入したマンションのローンの繰り上げ返済を考えています。繰り上げ返済には種類があるときいたのですが、どういうことですか?また、繰り上げ返済ができる金額に決まりはありますか?教えてください」

前回に引き続き、今回も繰り上げ返済についての質問です。ひとり暮らしの女性で家を購入する人も増えてきました。バリバリ働けるうちにローンの返済を終えたいと考える人も多いようです。繰り上げ返済を賢く利用するコツを森井じゅんさんに聞いてみましょう。

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繰り上げ返済には様々な方法がある

先週も繰り上げ返済についてお話しましたが、今回はもう少し細かい部分をお話していきます。

先週お話した通り、繰り上げ返済はローンの元金返済分を前倒しで支払うことで利息負担を減らし、総返済額を圧縮することができるというものです。そして、ひと言で繰り上げ返済といっても、様々な方法があります。まず、返済する規模で、2つにわけることができます。

ひとつ目は、全額繰り上げ返済です。

これは、住宅ローンの返済中に残高の全額を返済してしまうことです。状況や残りの返済額にもよりますが、これはかなりハードルが高いかもしれません。

もうひとつは、一部繰り上げ返済です。これは毎月の決まっている返済額のほかに、元金の一部を前倒しで返済することです。この一部繰り上げ返済は、繰り上げ返済の効果をどのように享受するかという点から、さらに「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類に分けることができます。

期間短縮型は毎月の返済額はこれまでと変えずに、今後返済する期間を短縮する方法です。

一方、返済額軽減型は今後の返済期間を変えずに、毎月の返済額を減らします。

両者ともに利息負担を減らし、総返済額を減少させる効果がありますが、期間短縮型の方が利息がかかる期間が短くなるため、より効果が大きいです。

また、借入時に退職後までの長期間にわたる返済予定を組んでしまい、後からやっぱり退職前に返済を終わらせたいと考えた場合にも期間短縮をおすすめしたいです。単純にどうしてもはやくローンから解放されたい!という方も期間短縮型でしょう。

結婚、出産を考えている人に向いている繰り上げ返済は…

一方で子育てなどを含め、人生にはお金のかかる期間があります。「今は一定の繰り上げ返済に充てる資金はあるけれど、これからお金がかかってくる」、もしくは「今後の収入減が予想される」というようなときには、毎月の返済額を減らす返済額軽減型を検討してみていただきたいです。

繰り上げ返済できる額と手数料は?

そして、繰り上げ返済を考えたときに気になるのが、「いくらあれば繰り上げ返済ができるのか」と「手数料はどれくらいかかるのか」でしょう。

私が相談を受ける中でも、たくさん貯金をしてからでないと繰り上げ返済はできないと考えている人の割合が多いです。確かに以前は、繰り上げ返済は100万円から、といったような金融機関も多く存在しました。しかし現在ではネット銀行をはじめとして、1円から繰り上げ返済ができるところも出てきています。

また、手数料についてはネット上で一部繰り上げ返済を行なう場合、ネット銀行や大手金融機関でも手数料がかからないところが増えています。全体として繰り上げ返済のハードルは下がってきていますね。いずれにしても、ご自身のご利用の金融機関について確認してみてください。

繰り上げ返済よりも増額返済がお得?

安定した収入がある方であれば、毎月コンスタントに繰り上げ返済を行なうことも考えるかもしれません。この場合には、繰り上げ返済ではなく、それ以上に効果の高い「返済額を増額する」という方法があります。

例えば、1年で24万円貯めて繰り上げ返済をするよりも、月2万円を増額返済することで、より早く元金部分を減らすことができます。それにより、まとめて繰り上げ返済をするよりも、大きな利息軽減の効果が得られます。増額返済を受け付けていない金融機関もありますので、ご利用の金融機関で確認してみてください。

繰り返しになりますが、繰り上げ返済や増額返済の最大のメリットは利息負担の軽減です。これは金利が高ければ高いほど効果も絶大です。しかし、今の住宅ローン金利は昔よりも大幅に低いものになっています。現在の金利を考えてみると、必ずしも繰り上げ返済が最優先とは考えられないとも言えます。前回お話した住宅ローン控除との比較はもちろん、資産運用をしたいと考えている場合などもこれにあたります。

繰り上げ返済による利息負担の軽減よりも、資産運用等による利益の方が大きければ、繰り上げ返済は後回しにしてもよいでしょう。ただ、資産運用といっても様々ですし、リターンを求めればリスクもあるので注意が必要です。

繰り上げ返済の優先で他のローンの利息負担が増える場合も…

また、お子さんがいて、子供の進学費用などまとまったお金が必要になるケースも、繰り上げ返済の優先がリスクになる可能性があります。繰り上げ返済をしたがために、手持ちが足りず教育ローンやその他の借入などに頼った場合を考えてみましょう。

通常、住宅ローンの金利は低く設定されているので、その他のローンの金利の方が高くなってしまいます。つまり、繰り上げ返済による利息負担の減少よりも、他のローンの利息負担の増加の方が大きくなってしまうのです。これでは本末転倒です。

逆に、繰り上げ返済の資金がないからといって、利息負担の減少を即諦める必要もありません。現在は非常に金利が低い状況ですが、以前の割高な金利水準で住宅ローンを組んでいる場合、借り換えを行なうことで大きな利息の軽減となることもあります。

自分がどのように住宅ローンと付き合っていきたいのか、今後の出費の予定は、そしてローンの借り換えの方がお得なのか、しっかり考えてシミュレーションをしてみてください。

「せっかくマンションを買ったのに、ローンを払っているうちは自分の持ち物のような気がしない」とローン返済を急ぐ女子も。



■賢人のまとめ
返済総額を減らすために一部繰り上げ返済をするなら、短期期間型がより効果が高いです。一方、大きな資金が必要になる予定があったり、収入が減る可能性がある場合には、返済額軽減型を検討してみてください。また、繰り上げ返済ではなく、それ以上に効果の高い「返済額を増額する」という方法もあります。前回の住宅ローン控除を含め、どれが自分にとっていちばんメリットがあるか、しっかりシミュレーションしてみてください。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。