「アロマ」と言うとみなさん何を思い浮かべるでしょうか? 「アロマテラピー」という言葉から「癒し」や「リラックス」というワードが真っ先に思い浮かぶ人もいるかもしれません。

「アロマ」=「香り」は人の好みもそれぞれなので、趣味の領域と考えられがちですが、企業も「香り」に注目。店舗やモデルルームなどに「香り」を取り入れたり、「働き方改革」に活用されたりするなど、アロマの可能性が広がっています。

なぜアロマが働き方改革に関係あるの? アロマの可能性って? そもそも香水と何が違うの?

というわけで、世界最大級のデザイン見本市「ミラノサローネ2017」でミラノDesignアワードを受賞したPanasonicDesign×GO ONの展示で、網香炉のアロマ調香を担当するなど、業界でも注目されているアロマ調香デザイナーの齋藤智子さんに話を聞きました。

「香り」は“ご法度” 「怖い絵」展でアロマが販売された理由は?
「香り」が苦手ならアロマで取り入れて “引き算”で考える香りの哲学

実はいろいろな場面でアロマが使われている?

--前回は「アロマ」とは何か? というお話を聞きました。今回は、企業との取り組みについて伺えればと思います。企業からはどんなオーダーがくるのでしょうか?

齋藤智子(以下、齋藤):企業さまからご要望をいただくのは空間を心地よくする香りや、イベントなどを印象付ける香りが多いです。

例えば歯医者さんではやっぱり患者さんは「不安」「怖い」という気持ちで来られる方が多いので、気持ちが楽になってなおかつちょっと楽しいというか、気持ちが上がるような香りを受付にセッティングするということでアロマを活用しています。

ほかにはマンションのモデルルーム。部屋を見に来てくださったお客様がお帰りになった後に「そう言えばあの香りがすごいよかったよね」と印象に残ればいいなと思って。また、香りをノベルティや冊子につけることで、お客様が自宅で冊子を開いたときに香りがフワッと漂いますよね。そうすると「またあそこに見に行ってみようかな」と思ってもらえれば嬉しいなと。

ほかには、先日の「怖い絵」の展覧会の香りや、「ケツメイシ」やアイドルのコンサートをイメージした香りなどイベントの香りも増えています。これは待ち時間も楽しく、とか記憶に残るイベントの印象付けや、テンションを上げたいというようなイメージでした。

変わったところで言うと学習塾からのオーダーもありました。生徒さんの集中力をアップするような「香り」を作りました。

--えー! それはいいですね。私も欲しいです(笑)。

齋藤:きっと「スイッチが切り替わる」という意味でも効果的なのかなと。「ここに来てこの香りがすると勉強モード」のような。

--いろいろな場面でアロマが使われているんですね。あまり意識したことなかったです。でも、確かに「この匂いどこかで嗅いだことある」と思ったときに過去の記憶がブワーッと蘇ってくることがあります。

齋藤:香りと記憶は連動していると言われているので、そういったところをうまく使っていければと思っています。

アロマ調香デザイナーになった理由

--そもそも齋藤さんはなぜ、アロマ調香デザイナーになろうと思ったんですか?

齋藤:新卒で「キユーピー株式会社」に入ったんですが、5年間勤めたあと結婚を機に退社しました。「香り」に関しては、父の家が京都というのもあって、祖母の家に行くとお香やお線香の香りがして身近に「香り」があったというのが原体験でありますね。

結婚後にアロマのスクールに通って、自宅でアロマの空間でベビーマッサージをするということもやっていたんですが、まだまだアロマ1本でやっていくのは難しいなという模索の時期もあったんです。

そんな時期に「日本アロマフレグランスコンテスト」というのがあって入賞したんです。香りはそもそも一定の評価が難しく、コンテストもあまりないのですが、これは審査する方がアロマ界では重鎮の方たちだったので、「あ! もしかしたら香りを作るのに向いているのかもしれない」と思い、そこからアロマのブレンド学やアロマ空間デザインなどを学びました。

一通り学んで、さてこれからどうしようかというときに、ベビーマッサージを教えていた生徒さんが理学博士で「何かやるときはお手伝いしますよ」と言ってくれたんです。ならばということで、彼女ともう一人、女医さんを迎えて3人で一般社団法人「プラスアロマ協会」を立ち上げたんです。それが4年前のことですね。

--理学博士と女医さんがいるって心強いですね。

齋藤:そうですね、アロマと言うと「癒しだよね」「癒されるよね」で終わってしまうところにもどかしさを感じていたんです。

感覚的だけではない科学的根拠(エビデンス)の部分も合わせていければアロマの可能性も広がりますし、もっと多くの人にわかりやすく伝えることができると考えました。

アロマ=癒しで終わらせたくない

--確かにエビデンスがあるとぐっと説得力が増しますよね。

齋藤:そうですね。エビデンスを取ることでもっとアロマの可能性が広がる。確かな部分で可能性が広がるという部分で少しずつ広めていき、香りを上手に使う場所が増えるといいなと思っています。いろいろな企業や学校、行政とつながれればいいなと思います。

もちろん、個人の方向けにもより多くの人にアロマの可能性を知ってほしい。毎日ちょっとずつ取り入れることで心地よくなればいいなと。ちょっとした香りで「これだけ集中できる」「リラックスできる」というのが分かると、より取り入れやすくなりますし、それを伝えられる人の育成もやってきたいですね。

--なるほど。ほかに今後の展望はありますか?

齋藤:各地の森林とかの蒸留施設をまわりたいです。今、森の木を使うという大学教授やNPO団体と一緒に他のプロジェクトにも関わっているので、そういう意味でも、視察も兼ねて現場に足を運び、実際にどういうふうに木や植物を使い、香りを抽出しているのかをみたいです。

また、地域活性ではないですが、やっぱり現場でがんばってらっしゃる農家の方たちの気持ちを汲み取って、そういうのも精油に入れたいと思っています。天然の精油なので高いんですが、現場で植物や木を育てている方々の気持ちが伝わるような香りを作っていきたいです。

※次回は1月9日(火)公開です。


(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:河合信幸、東京・表参道の「パーク・コーポレーション」本社で撮影)