キャリアのプロとして、転職活動中の個人や人材を求めている企業をサポートするキャリア・コンサルタントという職業。

「キャリアのプロでも自分のキャリアでは失敗することも……」というリアルな体験談を語っていただいた前回に続き、今回は「30代女性の転職」というテーマで、ご自身の経験も踏まえた親身で実用的なアドバイスを聞いていきます。

今回、座談会に参加したのは、こちらの4人。

五十嵐(仮名):新卒で大手人材コンサル、今年で12年目。現在1人目の育休中。転職経験なし。
玉木(仮名):新卒で損害保険(一般職)、その後、大手人材コンサルに転職。現在40歳で結婚して3年。
新田(仮名):新卒で海外の高級ブランドに入社して販売を担当。大手人材コンサル、アパレルPRを経て、人材系ベンチャーに転職。現在、次のステップに向けて充電中の既婚31歳。
神崎(仮名):新卒で大手銀行(一般職)、その後、大手人材コンサル、証券会社を経て、2社目の大手人材コンサルへ。社会人17年目、独身。

30代女性の危うい転職パターン

--前回はみなさんの転職失敗談をいろいろと教えていただきました。後半では、ご自身の経験も踏まえて、30代女性に向けて具体的な転職のアドバイスをいただければと思います。

神崎:キャリア・コンサルタントとして30代の女性を担当していると、よく「営業がイヤになっちゃったから、事務職やりたい」「結婚や出産をしたあとも働き続けたいから、事務職やりたい」という人が結構いるけど、危うさは感じますね。

新田:ああ、そういう30代女性は結構いますよね。

神崎:自戒も込めて言うと、条件だけを考えて転職すると失敗します。前回、「場所」「知名度」「年収」にこだわって転職に失敗したという話をしましたが、私の経験で言えば「成功した転職」は、条件だけ見れば、全然よくありませんでした。年収は下がる。勤務時間は延びる。朝10時から夜10時の勤務でトイレ以外ほとんどデスクを離れられないくらい忙しい。しかも、最初は契約社員からのスタート。でも、仕事自体はすっごく楽しかった。だから自然とがんばれて、1年足らずで無事に正社員になれました。

--確かに、条件だけ聞けば、まず行きたいとは思わないかもしれませんね。

五十嵐:結局、今の自分が何を一番優先するかだと思うんです。特に女性は、人生のフェーズ、フェーズで優先したいことが大きく違ってくる。

新田:そうそう、20代と30代では明らかにプライオリティが変わりますよね。

神崎:実は私、最近ある会社の内定を蹴ったんです。そこは業界でも注目されているベンチャーで、理念が素晴らしいんですけど、求められるコミットが半端じゃない。内部の人にヒアリングしてみると、みんな300%仕事で全力疾走みたいなんです。全員がすごい熱量を持ってがんばってる。

それを聞いて、正直「無理」って諦めました。理念には共感するけど、今はプライベートを重視したい。20代とかなら「300%仕事!!!」もありえたかもしれない。だけど、30代後半はそのフェーズじゃないな、って。「やりがい」は欲しいけど、今の会社でもそこそこ満足してるので、内定を蹴ることにしました。

新田:わかります! 20代は仕事300%でもよかったんです。でも30手前になると「バリバリ働けるのも、あと2、3年かな」と感じるようになって。「やりがい」だけでなく、「プライベートと両立できるか」という点もプライオリティが高くなってくるんですよね。

「環境依存度の高い人」は要注意

--今の自分が何を一番優先するかをちゃんと自覚していないと、転職はなかなかうまくいかない、と。他に、こういう点に注意しないと、30代の転職は難しくなるよ、というポイントはありますか?

神崎:そうですね、たとえば「環境依存度が高いままの人」は、転職活動で苦戦するかもしれないですね。

玉木:つまり、自分が今の職場に満足できないのは、人間関係、労働時間、上司、年収、会社の将来性など、“環境”に不安や不満があるから、と説明しちゃう人ですね。

新田:「営業成績が出せていないのはチャンスをもらえてないからだ」と言っちゃうと、「環境依存度が高い人だな」って思われちゃうかも。要は自分を変える努力をしない人と見られちゃうんですね。

五十嵐:「環境依存度が高い人」というのは、要は問題が起きた時に自分以外の他人や環境のせいにしちゃう人なんです。これは、採用側も結構気をつけて見てはいるんですが、一次面接だと結構バレずに通過しちゃったりしますね。さすがに二次面接、三次面接だと見抜かれちゃいますけど。

キャリア・コンサルタントとしては、これから転職活動を始める人には、業界でも有名な「面接でめちゃくちゃ掘ってくる企業」から受けるようにアドバイスします。最初の面接からかなり突っ込んだことを聞いてきて、その人の中身がバレバレになる企業を受けさせて、一度凹ませてから、本格的に準備をさせる。

新田:準備は大事! 「なんで今の会社じゃ、やりたいことができないの?」というところを突っ込まれた時に、環境のせいにしないで説明できなきゃダメですね。

玉木:とはいえ、自分以外の要因のせいにしない人は実際いないと思うんです。度合いの問題。もし、本当に全部を自分で引き受けてたらウツになっちゃう。要は面接で「環境のせいにしないように見せる」準備が必要なんです。

「効率的にやりたい」という30代のワナ

神崎:それ以外のポイントとしては、30代こそ「素直さ」が大事ですね。転職して新しい環境に入った時に、それまでのプライドや価値観を捨てて、ゼロから吸収できるかどうか。20代ならこれが自然とできるんですが、30代になると案外難しい。一定の成果を前職で残しているから、以前と同じやりかたでやろうとする人が多いんです。

新田:特に名前もあるいわゆる“いい会社”から転職してくると、意外にしんどそう。最初はもてはやされるけど、やっぱりプライドと成功体験があるから、素直になれない。ベンチャーでも大手からの転職組ほど苦労していた印象です。

神崎:確かに、大手からベンチャーは苦労するかも。大手にいた時の成果って、結局自分以外の大勢に支えられた成果なんです。自分の実力だけじゃない。でもそのことに気づかずに、転職先のベンチャーで成果を出せずグチをこぼす人は結構いますね。

新田:支えてもらえない環境での、「理想の自分」と「現実の自分」のギャップに苦しむ。大手から自信満々でベンチャーに来た人が、おどおどとして小鹿みたいになってたりする(笑)。

五十嵐:ただ、「本当にすごい人」は転職先でもびっくりするくらい謙虚だったりしますけどね。素直になれないのは、中途半端にスキルがある人かも。

--手厳しい!

神崎:でも、ホントにそう(笑)。中途採用だと、どうしても「失敗できない」って突っ張ってしまいがちだけど、中途だって最初の1、2ヵ月はいろいろ失敗してもいいと思うんです。わからないことは素直にわからないと聞けばいいし、ある程度チャレンジと失敗を経験しないと成果は出ませんよね。

玉木:仕事ができる人ほど効率化を考えちゃうけど、転職直後は「量が質を生む」と心得たほうがいいですね。「なんで今さらこんなこと?」と思うような仕事もとりあえずやってみる。「最短距離で正解を見つけよう」と考えちゃうのも、社会人としてそこそこ経験を積んできた30代が陥りがちなワナですね。

神崎:そうそう、最短距離を見つけようとするクセがついちゃってる。

これは30代の転職に限らないけれど、とにかく転職先では年齢を捨てること。「年下になんか、聞けない」って思ってたら、何も学べない。20代のうちに転職を経験している人は、そのへんのハードルは低い。ところが、最初の転職が30代だと、前職でリーダーをやったりマネジャー的地位に就いてたりする人も少なくないから、苦労しちゃうみたい。

産むまでに「替えのきかない人」になる

--女性は人生のフェーズによって、「仕事に求めるもの」の優先順位が変わってくるということでしたが、やはり30代となると、妊娠・出産はどうしても意識すると思います。この点については、どういうアドバイスが?

神崎:今はそうでもないですけど、私、ちょっと前まですごく子どもが欲しかったんです。だから、30代前半で契約社員としてキャリアを積んでいた時は、「◯歳までに結婚して、◯歳までに正社員になって、◯歳から妊活して、◯歳で出産して復帰して……」みたいな詳細なスケジュール表を作ってました。20代の転職では全然考えなかったけど、30代になると「子ども」という要素が確実に入ってくる。

新田:わかるーーーー!!! スケジュール、引きますよね。

子どもはすごく欲しいわけじゃないけど、気にはなります。結婚もしてまわりから「産むの?産まないの?」みたいなことを言われるようになったし。

神崎:妊活するなら、絶対に正社員になってからって決めてたもん。

新田:妊活を始めるまでに、しっかり仕事で力をつけとけないといけないし。

五十嵐:ですよねー。産んでからだと時間も制限されるから、力をつけるのは難しい。つけるなら、絶対に「産むまで」です。

神崎:要は「産休・育休から戻ってきてほしい」と思ってもらえる人材になれるかどうか。この話は個人のクライアントにもよくするんです。産むつもりなら、それまでに「替えのきかない人材」になっていないと難しいですよ、と。

新田:そうなんですよね、転職活動中の女性は、その企業に産休や育休の実績があるかどうか、ワーママがいるかどうかという点を気にするけど、制度があることと、それを実際に自分が使えることは別だから。

神崎:制度は、今いる人のためのものであって、これから入るあなたのためのものではありません、と。実際に産む時になって、権利を行使できるほどの人材になれているかどうか。

新田:ホント、そう。でも、わかっていない女性は多くて、キャリア・コンサルタントから言われて、「あ!そっか!」と驚く人がかなりいます。

大手ならすでに制度が整っているけど、ベンチャーだとこれから制度を作っていく段階にあったりする。その時に「この人のために制度を導入しよう」と思ってもらえるかどうか。

神崎:ベンチャーはそうですね。実際、あるベンチャーでバリバリ活躍している女性のために、産んでも働き続けられる制度を整えようとしているという話を聞いたことあります。その女性はまだ妊娠さえしていないんですけど。

新田:ベンチャーは、その女性が会社に貢献してくれるのであれば、新しい制度を導入することにはすごく柔軟ですよね。

--なるほど、「産むまで」が勝負ということですね。その点に関しては「とりあえず産んでから、考えよう」というような意識の女性も少なくないかもしれません。ご自身も転職で失敗を経験されているからこその、親身で実用的なアドバイスの数々、本当に参考になりました。本日はありがとうございました。

ウートピ編集部