「編集長、産むことのメリットとデメリットを教えてください」今年で33歳になるワーカホリックなプロデューサーに、ワーママ編集長(私)が詰め寄られたことからスタートした本企画。今回のテーマは、「産むと、夫婦の関係は良くなるのか?悪くなるのか?」です。

私(左)と海野P(右)

恋愛感情の儚さを知っている大人だから…

海野Pから再三にわたり書いてほしいと言われながら、なかなか書けずにいたテーマがありました。

それは「産むと、夫婦の関係は良くなるのか? 悪くなるのか?」という問題です。

32歳にしてすでにバツイチである海野Pは、ひどく恐れているのです。つらい離婚を経験したのち、ようやく掴んだ幸せな関係が、子供を持つことで壊れてしまったらどうしよう……と。

恋愛感情がいかに脆くて儚いものであるか、痛いほどわかっている大人なオンナ海野Pは、かくして、まるで吝嗇家(りんしょくか)の老婆が「カリカリ梅」を一粒一粒惜しみながらしゃぶり尽くすように、パートナーとの蜜月関係を日々慈しみながら過ごしています。

そして、「努力は万難に打ち克つ」と信じている海野Pのことですから、恋愛感情を持続させるための努力も決して怠りません。

例えば、

「毎日何回も『大好きだよ〜♡』って普通に言葉でちゃんと伝えますよ」

とのこと。マジで? すげーな、やっぱバツイチは違うな、と私なんかは恐れ入ってしまうのでした。

そこまで努力できるなら、大丈夫じゃないの?、産んでも恋愛感情はちゃんとキープできるんじゃないの?と、それで話を終わりにしたい私なのですが……。

このテーマについて書けない理由

「産むと、夫婦関係は良くなるのか?悪くなるのか?」という問題について、私が書きづらい理由は、まあ、いろいろとあるのですが、一つには、私と夫が紆余曲折ありながらも今年で16年目のつきあいになる点が挙げられます。

18歳で出会い、まだ学生だった23歳の時に結婚、その後京都での専業主婦生活を経て東京で編集者としてのキャリアをスタート。離婚騒動と別居を経て元サヤという、やや特殊なバックグラウンドを持っているため「恋愛感情が消えちゃったらどうしよう……」という海野Pの切実な悩みに応えられる自信がないのです。

とはいえ、ウートピの読者層であるアラサー女性は海野P同様(もちろん、バツイチではないと思いますが!)、社会人になってからつきあい始めた恋愛相手と結婚して、やがて子供を持とっか?どうしよっか?と迷い始めるケースがマジョリティだと思いますから、この連載で取り上げる以上、できるだけそういう方々の参考になるような話を書いていきたいと思います。

「ひとりで生きる」苦しさや楽しさを味わった上で

想像するに、きっとすごく幸せなんでしょうね。

20代で社会に出てからいろんな経験をして、ようやく見つけた人生のパートナー。

黒のマジックで塗りつぶしてしまいたいような稚拙な恋、安物の指輪ケースの中に死ぬまで大切にしまっておきたい不器用な恋、ただただセックスに明け暮れていた淫らな恋……と、いろんな恋愛と失恋を繰り返したのちに選んだ人。

ヒリヒリするような孤独も、今となっては笑い飛ばせるような浪費も貧乏も怠惰も、「ひとりで生きること」にまつわる苦しさと楽しさを味わい尽くした末の選択。

ひとりの大人として価値観が固まり始めるアラサーという年頃で、「この人と一緒に生きていきたい」と思えた人と、「子供を持ってもいいかも……」と悩めること自体、それはそれは幸せなことなんだろうなあ、と。

この連載では「産まない人生でしか味わえない楽しさが絶対にあるはず」「産まない人生も断然あり」ってことを手を替え品を替え伝えています。同様に、せっかく「この人と一緒に生きていきたい」って思えるほどのパートナーが見つかったのなら、ふたりきりでしか味わえない人生を満喫したら? と私なんかは素朴に思うんです。

子供を持つにしても、「(ふたりの生活に)なんか、ちょっと飽きたかも? マンネリかも? 何か刺激が欲しいかも?」と思うくらいのタイミングでいいんじゃないの?と。  

ふたりきりの、あの時間は、ひとたび産んでしまえば、もう戻りませんから。

0、1、2歳で別れる夫婦は多い

正直、みんな、産んでしまえば、仲はよくなさそうです。

特に0、1、2歳児を抱えている夫婦は。

土日に子供を連れて公園やら美術館やらショッピングモールやら、その他いろいろな行楽地や商業施設に出かけても、傍目にラブラブな子連れの夫婦って、まず見かけません。手をつないでいたり、エスカレーターや何かの行列で相手のうなじのあたりをふと愛おしそうに眺めていたりするような、“まだ恋してるんだな”って感じの子連れの夫婦って、まあ、皆無といっていい。それが率直な印象です。

だいたいみんな、ため息をついたり、しかめ面したり、怒鳴ったりしてます。

実際、別れて片親になった(死別も含まれますが、原因は「≒離婚」と考えられます)時の、子供の年齢を調べてみると、こんな数字が出てきました*。

0~2歳 31.0%
3~5歳 24.9%
6~8歳 13.9%
9~10歳 10.0%
12~14歳 7.1%
15~17歳 3.3%
18~19歳 0.3%

これは「末子」の年齢なのですが、「ひとりの女性が人生で産む子供の数」は現在1.46人**ですから、ちょっと乱暴ですが、ここでいう「末子」はほとんど「第一子」と考えることができそうです。

この統計だけでは結論は出せないけれど、「第1子が0、1、2歳の頃に別れる夫婦が多い」という予想は立ちます。それに離婚って、「別れようよ」「うん、そうしよう」みたいにトントン拍子にいくはずがないですから、片方が言い始めてからもう片方が数年ごねて、第1子が3〜5歳になった頃にようやく決着というケースも少なくないだろうなあ、と想像してしまいます。

*平成23(2011)年の厚生労働省による「全国母子世帯等調査結果報告」
**平成28(2016)年に厚生労働省から発表された2015年の合計特殊出生率

ラブラブに戻れる夫婦の共通点

反対に、0、1、2歳の危険地帯を乗り越えて、「またラブラブに戻ったよ〜」という夫婦も私のまわりに何組かいますが、やっぱりみんな努力してます。

月に一度は子供を預けてふたりで一日出かける。子連れでは絶対に入れないようなレストランやバーに入る。ショッピングをしても子供用品は一切見ない。子供のことは会話に出さない。朝、子供を送り出したら必ずセックスをする。

などなど、ふたりでルールを決めて、一度険悪になってしまった関係を意識して修復しています。その意味では、どんなに絶望的な状況にあっても努力できる海野Pなら大丈夫でしょう(と、やっぱり冒頭と変わらぬ結論が出てしまうのでした)。

「誰でもいいから種だけ欲しい」って言うけれど

先日、この連載を愛読してくれているという30代後半の女性と久しぶりに再会した時、彼女がこう言いました。

「とにかく子供が欲しくて婚活してたんです。でも、今の彼氏ができて、なんか、このままふたりの時間を楽しんでいてもいいかな、って思えるようになって」

その言葉を聞いた私が、「うん、それがいいと思うよ」と答えたのは言うまでもありません。

アラサー以降の女性と話していると、「子供が欲しいから相手を見つけたい」「相手は誰でもいいから、とにかく子供が欲しい」と口にする人は少なくありません。ま、平たく言えば、「種だけ欲しい」ってことですね。

精子だけ提供してもらって子供を持つ「選択的シングルマザー」という選択肢も、まだまだ現実的とは言えませんが、一応ありますし。でも、ホントに種だけでいいの? そんなの、一時の気の迷いじゃないの? 「子供が欲しい病」に罹ってるだけなんじゃないの? と、「シード系女子(註:かつて編集部に「種だけ欲しい人」をそう命名したスタッフがいました)」の話に危うさを感じてしまう私なのでした。

ときどき夢想すること

今回の「産むと、夫婦の関係は良くなるのか?悪くなるのか?」という問題の結論としては、「たいてい険悪になるけど、努力次第でまたラブラブになれるみたい」という何ともつまらない話になってしまいます。

ただ、今、こうして2歳児を育てながら、独立して自分の会社を回しつつウートピの編集長もやるという、本当に毎日働いて寝るだけの生活をしていると、時々夢想してしまいますよ。

来世は、好きな人と、海野Pが日々砕心しているように蜜月関係を可能なかぎり、できれば死ぬまで引き延ばして、子供なんかつくらずに、仕事による自己実現願望なんか捨て去って、ただただふたりの快楽のために、とことん貪欲に生きてみたいものだなあ。

それって、きっと、最高じゃん、と。

(ウートピ編集長・鈴木円香)