女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちのエピソードです。

今回、お話を伺ったのは、ヨガインストラクターだという並河沙織さん(仮名・35歳)。彼女は女優の吉瀬美智子さんに似ている日本風の美人。川魚を思わせるしなやかなボディーはヨガをやっているだけあり、メリハリが合って健康的。男性から恋愛対象にされやすい雰囲気を、全身から醸し出しています。しかし、毛玉だらけのグレーのニットワンピを着ており、そこには食べこぼしの茶色いシミがついています。ノーメイクでボブの髪もボサボサ。バッグは合皮の黒のトートバッグで、角がところどころ擦れています。

彼女は中堅大学卒業後、ベンチャー企業に勤務します。毎日、単純なデータ入力に追われ、仕事の意味が見いだせず退社。好きなことを仕事にしようと思い転職を繰り返すうちに、年収は120万円まで落ち込み、今に至ります。今は彼と同棲しているので、家賃を払わなくてもいいのが救いだとか。

「今はヨガインストラクターとして、セミナーやレッスンなどで収入を得ていますが、不安定だし、謝礼は少ないし。スポーツクラブと契約するには経験も足りないので、細々とリピーターの人を相手に個人レッスンをしています。今は月の収入は10万円くらい。食費を払うので精一杯。彼は一応公務員なのですが、私のほかに本命がいます。私より不美人のバツイチ女ですが、話していて安心する相手だそう。いつ出て行けと言われるかわからず、びくびくしつつ生活しています」

沙織さんと話していると、敬語の姿勢を崩さず、“私なんて”と常にへりくだっています。最初は謙虚な人だと思うのですが、話すうちにその慇懃無礼さに、苛立ちに似た気持ちを覚えます。

「あ、そうですよね。私、中学時代に強烈なイジメに遭ってから、なんとなく人が怖いんです。都内から千葉に引っ越して、地元のヤンキーカルチャーになじまなかったことが原因ですね。学校に行くと、男子からスポーツバッグを取られて、ボールみたいに蹴られてボロボロにされたり、女子からは徹底的に無視されたり。私のことをかばってくれる人は同級生には皆無でしたね。太っていたから、教科書にはバカとか豚とか臭いとか、太いマジックで書かれました。先生に相談に行くと、“みんなふざけているだけだろ”と言われました」

虫入り給食を食べさせられるなど、聞いているだけで胸が苦しくなるようないじめを経験

「モノは壊される、給食に消しゴムのカスや虫を入れられるなどが辛かった。親や教師に相談しても、“いじめられるのは、沙織が太っていて、気が弱いからだ”と言われるに決まっています。母はなんとなくいじめを察知して、中2の時に、武道の教室に通わせてくれました。でもそこは社会人の男性が多い教室で、同じ教室の人からセクハラを受けたりしましたよ。さりげなく胸を触られたりして、ホントに嫌だったな……。決定的なことがあったのは、中学2年生の時なのですが、親に言っても“お前が弱いから悪い、恥ずかしい”などと言われてしまうので泣き寝入り。体験の悲惨さの割には、イジメている女子より大人になった気持ちになって、みんなを見下すようになったかも」

同級生を見下すからいじめられたり、無視されたりする。教室でもおかしな行動をとるようになり、同級生に対して敬語で話すようになる。そしてますますいじめられるという負のループにハマり、学校に行かなくなります。

「中3から1年間引きこもりをして、夜間の高校を受験して通うも中退。18歳のときに高卒認定試験の予備校に通って、集中的に勉強して合格。勉強しすぎて10kgも痩せました。その後、大学受験にも合格しました。もともと勉強が得意なので、辛くはなかったかな。大学はみんなと同じ22歳のときに卒業したのですが、このときに、父が自殺をしたんです」

原因は会社をリストラされ、再就職先がブラック企業だったこと。

「父は大手のメーカーに勤務していたのですが、大規模リストラの対象になってからうつ病になり、復職と休職を繰り返しているうちに、本格的に体調が悪化し、退職。それからある会社に入ったのですが、年下に罵倒されたり、ムリなノルマを課せられるなど、ブラック企業で追い詰められたみたいですね。借金もあったし、妻である私の母親とは家庭内別居状態だし、私は彼氏の家に入り浸ってほとんど帰ってこなかったから」

父の死と就活の失敗などが重なり、沙織さんは自分に自信が持てなくなり、恋愛依存になってしまいます。

「大学受験のとき10kg痩せてから、急に男の人がちやほやしてくれるようになって、“痩せてかわいくなれば愛してもらえる”と痛感したんです。誰よりも私を大切に思ってほしい、守ってほしいと思います。“エッチ=付き合う”だと思いこんでいて、彼女にしてもらったと思ったら、実は遊ばれていたというケースがずっと続いています」

22歳から13年間のひどい恋愛が、現在の貧困状況を招いていると自覚しつつも、愛されたい願望は止まらない……〜その2〜に続きます。