女性はもっと太るべき? 「痩せすぎ」が招くリスク

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執筆:井上 愛子(保健師、看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


太っていることは生活習慣病を招き、重大な病気につながることがよく知られています。

ところが「太りすぎ」だけでなく「痩せすぎ」もまた、身体にとっては悪影響を与えてしまうのです。

痩せすぎはなぜ問題なのか、詳しくみていきましょう。

どこからが痩せすぎになるの?

痩せすぎといっても、体重ではいくつから痩せすぎになるのでしょうか?その基準となるものが「BMI(Body Mass Index)」と呼ばれる身長と体重から計算する肥満指数です。

<BMI = 体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)>

このBMIの数値は22が最も病気になりにくい数値で、18.5以上〜25未満が普通体重になります。25以上から肥満、そして、18.5未満が低体重とされています。つまり、BMI18.5未満となる場合は痩せすぎといえます。

日本人女性は痩せすぎ?

健康にとっては理想的なBMIは、22です。

しかし、美容からみた体重の場合、この数字ではやや「ぽっちゃり」とした体型にみられることがあります。

若い女性にとって、痩せていることが理想的な体型という傾向にあるようです。平成27年の国民栄養調査では、日本人女性全体の11.1%、20〜29歳の女性の22.3%がBMI18.5未満という結果でした。

この結果は、前年度よりも痩せている人が増えている傾向にあることを示しています。なんと若い女性の5人に1人は痩せすぎているのです。

痩せすぎが与える身体への影響

痩せすぎはどうして身体に影響を与えてしまうのでしょうか。痩せすぎが引き起こす、身体への不調やリスクについてみていきましょう。

免疫力の低下、感染症のリスク


ダイエットの敵とされる脂肪は過剰であれば健康に影響を与えますが、本来であれば体温の保持やエネルギーの貯蔵など、大切な役割があります。

また筋肉も体温保持の役割があります。

痩せすぎで皮下脂肪や筋肉が少ない状態では、外気温から身を守る術(すべ)が無くなり、免疫力が活発に働いてくれる体温を維持すことができなくなります。

また痩せすぎは、ダイエットなどによる栄養不足も背景にあり、免疫力の低下につながると考えられます。

疲れやすいなど体力レベルの低下


筋肉は身体を動かすためには欠かせないものです。さらに、筋力が減ることは体力の低下にもつながります。

また筋肉には心臓が全身に送った血液を心臓へ戻すポンプの役割もあります。そのため、筋肉量が少ないことは全身の循環不良も引き起こします。

痩せている、筋肉がない状態は疲れやすいだけでなく、循環不良から疲れがとれにくいことにもなるのです。

貧血・肌荒れなどの健康障害


痩せた状態は栄養不足も引き起こしている場合が多く、その中でもビタミンや鉄分が不足すると肌荒れや貧血などの健康障害を引き起こします。貧血状態では、細胞に十分な酸素と栄養を運ぶことができずに、疲れやすい・身体がだるいといった自覚症状がみられます。

また貧血が長く続くと、必要な酸素・栄養を確保するために、身体へ十分な血液を送ろうと心臓に負担をかけることにもつながります。

無月経・婦人科疾患のリスク


痩せすぎの中でも、とくにBMIが17を下回ると、女性ホルモンの分泌が乱れるといわれています。その結果、生理不順、重い生理痛といったことを引き起こすことがあります。


生理不順は無排卵や無月経にもつながるほか、「子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)」などの婦人科系疾患のリスクを高め、将来的な不妊の原因にもつながります。

低出生体重児のリスク


母体が痩せすぎている場合、妊娠時に必要な栄養が十分に確保されません。そして、早産でないにも関わらず、低出生体重児(2500g未満)のリスクが2倍になるといわれています。

また、適正体重で生まれた子どもと比較して、成人してから生活習慣病のリスクが6倍になるともいわれています。

骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスク


「骨粗鬆症」とは、長年の生活習慣などにより骨密度が低下し、骨がスカスカになって骨折しやすくなる病気です。骨は18歳ごろをピークに、年をとるごとに骨密度は少しずつ減っていきます。

無理なダイエットや栄養不足によって、骨をつくるためのホルモンやカルシウムが不足し骨密度は低下してしまいます。

とくに女性は、閉経後に女性ホルモンの分泌の変化から骨密度が一段と低下します。加齢とともに骨粗鬆症のリスクを高めることにつながります。

糖尿病のリスク


糖尿病ときくと、食べ過ぎ、太っていることでなるイメージを持つ人が多いでしょう。

ところが日本人は、欧米人に比べて血糖値を下げるインスリン分泌能力が低いため、太っていなくても糖尿病になりやすく、痩せていても糖尿病になるリスクを持っています。

痩せるための無理なダイエットでのバランスの悪い食事、欠食といった不規則な食生活がインスリンを分泌する膵臓へ負担をかけます。そして、インスリン分泌機能が低下し、糖尿病になりやすくなるのです。

このように痩せすぎは身体と健康にさまざまな影響を及ぼします。

とくに若い女性は、「痩せている=理想的な体型」というイメージを持つことが多いかと思います。しかし、痩せすぎや、無理なダイエットや極端な食事制限によって体重を減らすことは、今の健康、そして将来の健康に大きな影響を与えるのです。

痩せすぎによる健康障害や不調を防ぐためにも、自分の適正体重を知り、健康的な身体を目指すようにしましょう。


<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社とらうべ社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供