夫婦でもあり、仕事仲間でもある関係って、単なる夫婦、単なる仕事仲間とどう違うの? 自由で楽しそうな感じもするけど、毎日24時間ともに暮らす煩わしさや経済的なリスクなど、大変なことも多そう。仕事の分担、家事の分担、子育ての分担……。二人三脚で歩む夫婦ユニットならではの“決まりごと”とは?

今回は、「うめ」というユニット名で活動している漫画家の小沢高広(おざわ・たかひろ)さんと妹尾朝子(せお・あさこ)さんにお話を聞きました。

〈漫画家・うめ〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:ケンカをしたら、「その日のうちに解決する」こと。
二つ:相手が仕事をしている時に別のことをする場合、「一声掛ける」こと。
三つ:相手が休んでいるのを、「ずるいと思わない」こと。

一見すると、単なる夫婦にも、単なる仕事仲間にも、当てはまりそうなうめさん夫婦のユニット三ヶ条。同時にどんな関係性でも、守り続けていくのは意外に難しそうなルールでもあります。なあなあにならず、日々三ヶ条を守り続けられるのは、実は夫婦ユニットだからこそなのです。

問題点はログをとって、即解決

――“漫画家・うめ”という夫婦ユニットは、いつどのように誕生したのですか?

小沢高広さん(以下、小沢):うめの結成は2001年ですが、結婚したのはその数年後です。僕は知り合いのデザイン事務所でちょっと手伝いをしたり、自宅でwebを作る仕事をしたり、フリーランスでいろんな仕事をしていたんですけど、ある日漫画家を目指していた妹尾を一人前にして食べていこうと思いついたんです(笑)。

妹尾朝子さん(以下、妹尾):その頃、私がひとりで描いていた漫画で何度か賞をとっていたんですが、ちょっと行き詰まっていて。小沢はそんな私を見ていて育てれば何とか自分が食べていけるだろうと思ったみたいです。

小沢:ようするにある種のヒモですね(笑)。それで一緒にシナリオを作る練習をしていたら、たまたま僕が書いたものがおもしろくできたので、妹尾が絵を描いて、ちばてつや賞に応募したら大賞いただいて、そのまま連載です。

――最初の作品で賞をとるなんてすごいですね。現在はどのような役割り分担で仕事をされているんですか?

小沢:僕がシナリオ、妹尾が作画担当というのは最初から変わりません。まずは一緒にネタ出しをして、それを元に僕がシナリオを書き、次に妹尾がネーム(コマ割り)におこします。妹尾がネームを描いている段階でもできた端から、ちょこちょこ内容を変更します。最初の頃は、妹尾がネームに入ったら、完成までは口を出さなかったんですが、やっていくうちにこういう形に落ち着いていきました。ちゃんと完成する前に口を出した方が、トータルの手直しが少なくて済むんです。

――2001年にユニットを結成して以来、ほぼ毎日24時間、一緒にいらっしゃるんですよね?

小沢:はい。友だちと飲みに行くとか、マッサージに行くとか、外部との打ち合わせとか。ほんとそんな時だけですね別行動は。まあでも自営業って、そんなもんじゃないですか?

妹尾:でも、友人には「私には絶対ムリ」とよく言われます(笑)。

――秘訣は何なんでしょう? 当然、ケンカもしますよね?

妹尾:昔はよくケンカしましたけど、そうすると仕事が進まないので、その日のうちに解決するというルールを作りました。夫婦ゲンカをして3日も口をきいてないという話を聞いたりするけど、うちではありえない。

小沢:僕らの場合、時間的にすれ違うことがないのでとにかく話し合いですね。常にコミュニケーションを図って、問題の解決を時間に任せないようにしています。このルールを作ってから、ぶつかることも減りました。

妹尾:それでもこじれた時は、ケンカのログをとります。小沢に「どういうところに不満があるの?」と聞かれて私が不満を口にすると、パソコンに打ち込んでテレビの大画面に映し出すんです。それで「こことここ矛盾しているよ。本当に言いたいのはここだよね」と自分でも気づいてない部分を指摘されて「まあその通りだね」と。最初はものすごくムカッとしますけど、お互いに納得してケンカは終了です。

小沢:特に子どもが産まれてからは思うように仕事の時間が作れなくなって、どうすれば合理的に仕事と家事をこなせるかということを、常に考え話し合っていました。

――連載中の『ニブンノイクジ』にも描かれていますが、お子さんが産まれてだいぶ時間の使い方が変わったとか。

小沢:まったく変わりました。2人の時は典型的な夜型だったけど、それでは仕事の時間を確保できなくなってしまって。

妹尾:いろいろと調整した結果、仕事と睡眠の時間帯がだいぶずれました。いたしかたない部分はあったけど、変えることで逆に仕事の時間が増えたのにはびっくりでした。

小沢:それは大きな収穫でしたね。仕事も子育ても一緒にしている夫婦ユニットという形態だから、ここまでのシフトチェンジが可能だったのかもしれません。

“自分”ではなく“自分たち”の優先順位

妹尾:子どもができれば否応なしに優先順位は変わってきます。でも旦那さんは自分の生活スタイルを変えないケースがほとんどで、なぜ妻の自分だけが変えざるをえないのかと。ママ友の話を聞くと、そこでぶつかることが多いみたいです。

小沢:うちの場合、お互いのやるべき仕事がほぼ見えているから、優先順位も“自分の”というより“自分たちの”という考えになる。それを念頭に「こっち先がいいよね?」とか「何か先にやった方がいい?」みたいな確認はまめにしますね。仕事の優先順位と家事の優先順位を一緒のタスクで流しているので、仕事優先なのか、家事優先なのか、さらにその中でも特に何を優先するべきかがお互いに見えやすい。

――家事・育児の役割り分担はどうしているんですか?

妹尾:ごはんが小沢で洗濯が私、掃除は半々ですね。朝は小沢が子どもを送っている間に、私が朝ごはんの片付けをして、戻ってきたら一緒に仕事。

小沢:お迎えは妹尾が行って、その間に僕が夕飯を作る。役割り分担は得手不得手もありますけど、それにタイミングを組み合わせた結果、今の形に落ち着いた感じです。

妹尾:性格的にできることとできないことがうまくずれている感じはありますね。バレーボールのローテーションみたいに、穴があったらあいている方がフォローに入る。

小沢:常に一緒にいるので、自然と穴も見えやすいんでしょうね。だからこそ、コミュニケーションが大事。どちらかが仕事をしている時にちょっとでも仕事と関係ないことをする時は一声掛けるということを意識的にしています。

「休みも一緒」がストレスをためないコツ

小沢:逆のパターンもあって、自分が仕事をしているのに相手が休んでいてもずるいと思わないというのもありますね。

妹尾:私はそんなこと考えたこともなかった。逆に小沢が休んでいると、後で私も休めるかもってちょっと嬉しくなります(笑)。

小沢:僕も実際にずるいと思ったことはないんだけど、意外にこの気持ちって大切だと思うんです。夫婦間でも、仕事仲間の間でも、自分は頑張ってるのにって自分の苦労を過大評価してしまいがちじゃないですか。特に忙しくて余裕がなくなるとね。それって、結構なストレスになるんじゃないかな。

妹尾:でも基本的にまとまった休みは一緒にとるよね。例えば、仕事が順調に進んで、次の仕事もそれほど詰まっていない平日の午前中とかに「ちょっと今日は休んじゃおっか」って。

小沢:そんな時は朝から飲むか、映画を見に行くか、どっちかですね。

――(笑)朝からお酒ですか。なんか、フリーな感じですね。

小沢:生活が不安定なんだから、それくらい許してほしい(笑)。

――確かにフリーランスというだけでも大変なのに、夫婦ユニットの場合は収入源も一緒ですからね。

小沢:そうなんですよ。だからケンカしている場合じゃない、というか日をまたぐようなケンカは贅沢です(笑)。どちらかが病気で倒れた場合に収入が断たれる可能性がある。それが夫婦でやっている一番のデメリットですね。今はまだ、ある程度体力があるからいいけど、今後病気をした時は大変だろうなという想定はしています。

妹尾:そのへんもよく話はしていて、病気ではないけど1人目の子どもを出産した時の教訓として、それぞれがひとりでできる仕事を増やしたりはしています。

小沢:うん、リスクヘッジはしていますね。あとは収入を一社に依存しない。ローリスクローリターンな仕事とハイリスクハイリターンな仕事のバランスを考える。細かいところでいえばまめに健康診断を受けるとか、このあたりは会社員でも一緒だと思いますが。

妹尾:収入源が一緒というデメリットはあるけど、うちの場合、私はトータルではメリットの方が大きいと思っています。夫婦だからこそ時間のやりくりが自由になって仕事がスムーズに進んだり、仕事仲間だからこそよりコミュニケーションを図る努力を怠らなかったり、どちらにもプラスに働いている気がしますね。

【うめ情報】
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(塚本佳子)