そろそろ人任せのワイン選びから卒業して、「ワインのわかる女」になりたい。そんなオトナ女子のみなさんと一緒に「ワインの最前線」を冒険しつつ、ちゃっかり「ワイン選びのコツ」を身につけちゃおうという企画、〈ウートピ・ワインラボ〉。ラボの所長は、世界中のワイナリーを訪ね、最新のワイン事情に精通しているワイン・ジャーナリスト浮田泰幸(うきた・やすゆき)さん。うんちくも威張ったソムリエも大嫌いというウキタ所長があなたをワインの世界に優しくエスコート。あなたが「自分にぴったりの一本」を見つけ出すお手伝いをしてくれます。

〈ウートピ・ワインラボ〉所長ウキタです。みなさん、おいしいワイン、飲んでますか?

前回、30年の時を超えて今、ドイツワインにブーム再燃の兆しがあるという話をしました。今回はそのドイツワインに使われるブドウの品種について。

あー、きた、ブドウの品種。シャルドネとか、ピノナントカとか、そういうやつね。これだから、ワインって面倒臭い……と耳を塞ぎたくなっている人もいるかも? まあ、そう言わないで。一度覚えちゃえば、ずっと役に立ちますから。

ドイツワインと言えば、リースリング

リースリングって聞いたことがありますか?

ドイツでもっとも多く栽培されている白ワイン用のブドウ品種で、栽培面積では22%を占めています。これは世界のリースリングの畑の60%に当たります。そう、リースリングこそ、ドイツを代表する品種なのです。

ブドウ畑に現れるウサギは自然に造られている証拠

いったいリースリングとはどんな品種なのでしょう?

イギリスのワイン・ジャーナリスト、アンドリュー・ジェフォードはその著書の中で、シャルドネとリースリングを比べて、次のように書いています。

〈シャルドネがセクシーなブロンド美女なら、リースリングは知的なブルネット美女である。シャルドネが、タバコを片側に、もう片側にアイスクリームを置いて、のんきにファッション誌をめくっているような俗物なら、リースリングは書斎でブラームスを聞きながら仏教を研究しているような学者肌〉
(『ワインを楽しむためのミニコラム101』中川美和子=訳から抜粋)

熟成するとフルーツの香りが増す

リースリングは豊かなアロマと多彩な果実味が特徴です。その香りはリンゴ、白桃、ライム、グレープフルーツ、アプリコット、白い花、はちみつから、産地によってはマンゴー、パイナップルも混ざり合い、実に複雑。

良質のリースリングは色も味わいも上品

シャルドネと同じように5年、10年という長期間熟成させることで、味わいが深まるのが、このリースリング。

熟成によって、シャルドネがバターやナッツの風味を帯びるのに対し、リースリングはフルーツのトーンが際立ってくるのがユニークなところ。ものによってはガソリンのような独特の香り(ペトロール香)が出てくるのも他の品種にはない特徴です。

シャトー・マルゴーより高値で取引されていた!

18世紀、オーストリアの宰相を務めた政治家で伊達男としても知られたクレメンス・フォン・メッテルニヒは「ライン産のリースリングはブドウの女王であり、これからもそうあり続ける」と宣言。モーゼル地方で栽培されているリースリング以外のブドウをリースリングに植え替えるよう命じました。

開花したブドウの花

19世紀の初頭には、リースリングで造られたドイツワインがフランス・ボルドーのいわゆる“五大シャトー”(シャトー・ラトゥール、シャトー・マルゴーなど)のワインよりも高値で取り引きされた時代もありました。こうして、リースリングは数多あるワイン用ブドウ品種の中でも一際格の高い「高貴品種」の地位を得ていったのです。

“庶民のアイドル”に追いやられて

“ブドウの女王”として栄華を極めたリースリングでしたが、20世紀に入ると交配によって生まれた新しい品種、ミュラー・トゥルガウにその座を追われます。

ミュラー・トゥルガウから造られたワインは酸が柔らかく、マスカットのような香りがあって、例えるなら“庶民のアイドル”。

ライン川の畔で開かれたワインフェスで

日本でドイツワインが一番飲まれていた1980年代、世界的にもドイツワインは大ブームでした。当時の人気の理由は、「低アルコール」と「フレッシュ・アンド・フルーティ」という親しみやすいスタイル。その“親しみやすさ”とミュラー・トゥルガウはよくマッチしていたのです。

ただ、「フレッシュ・アンド・フルーティ」は食事に合うワインとは言えませんでした。実はそれが、食中酒としてワインを飲む習慣のなかった日本でウケた要因でもあったのですが……。軽やかな飲み口は食前酒や暑い季節に喉を潤すのには向いていますが、食事と合わせると印象が薄まり、互いを高め合うペアリングにはならないのです。

「甘口」から「辛口」に進化したドイツワイン

リースリングが復活の兆しを見せたのは2000年のこと。その年にドイツでの作付面積で首位の座を取り戻したのです。

復活の理由は、食のスタイルが世界で同時多発的に変化したから。メニューの内容が全体的にライト化し、フランスやイタリアといったラテン系の国々以外でもワインが食中酒として飲まれるようになりました。

若手ワインメーカーには女性もたくさん

ワインの飲まれ方は、時代によって変化していきます。

一番古典的な飲まれ方は、肉料理の油脂分を赤ワインで洗い流すというもの。それに対して現在主流になっているのは、野菜やハーブ、魚介類を使った繊細な料理にさまざまな味わいのワインを合わせるというスタイルです。そこにリースリングは新たな居場所を見つけたのです。

進化系リースリングは食事によくマッチする

でも、復活したリースリングは以前のそれとは別物でした。

かつて人々にもてはやされたのは、甘口や極甘口のリースリング。聖なる蜜のような味わいの甘口ワインは今も造られていますが、主流はしっかりとした味わいで食事に合う辛口ワインに変わっています。甘口から辛口へ、リースリングの華麗なる変身こそ、今のドイツワインの勢いと面白さを象徴しているのです。

ここまで、ドイツワインの最新動向として「進化系リースリングに注目」という話をしてきましたが、最後にドイツの赤ワインについてひと言。

リースリングに加えて、もう一つだけ覚えてほしい品種がシュペートブルグンダー。ドイツ語らしい響きですが、実はブルゴーニュの赤ワイン用品種として知られるピノノワールと同じものです。ドイツワインの主力が白ワインであることは変わりませんが、1980年に11.8%しかなかった赤ワインの栽培面積が、2015年には34.6%まで伸びています。第4回であらためて触れますが、今、「ドイツの赤」がすごいことになっているんです。

取材協力:Wines of Germany
写真:Taisuke Yoshida

(浮田泰幸)