1995年の刊行以来、ロングセラーとなっている著書『お嬢さまことば速修講座』『淑女に見える気品のルール』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)で注目を浴びたインテリア・アーキテクトの加藤ゑみ子(かとう・えみこ)さん。長年、インテリアや住宅のデザインを手がけてきた立場から、女性のための美しいライフスタイルを提案し続けている。「これからもずっと自分を磨き続けたい」と語る加藤さんの人生の美学とは?

自分の強みは「心がよい」ことしかない

――加藤さんは、住宅・インテリア設計、住宅関連商品のデザインをご専門としながら、生活研究、テーブルセッティング、女性の言葉遣いなどに関する著書を執筆するなど幅広く活躍されています。デザインやインテリアに関するお仕事には、幼少期から興味があったのでしょうか?

加藤ゑみ子さん(以下、加藤):10歳の時に、建築やデザインなど、「住まうこと」に関する分野に興味を持ちました。実家の家業とも関係なく、時は昭和の高度成長期より少し前で今のようにたくさん情報があったわけではありませんが、漠然と、しかしとても強く「その世界に行きたい」と心惹かれたんです。そこでなら自分を向上させられるのじゃないか、と。そして10歳から、自分が望む世界に行くにはどうしたらいいのか考え続けてきました。

「自分の強みは何か」といろいろ考えてみましたが、14歳くらいの時に「心がよい」ことしか無いことに気付きました。「心のよさ」とは誰にも侵されないこと。だから、生まれもった「心のよさ」や「素直さ」を究めようと思いました。すると、まわりの人が自然と、私が行きたい世界に関する情報をくださるようになったんです。なにしろ素直ですから、年上の方がよく面倒を見てくださいました。

素直に聞き入れるだけなので、私の内面は誰からも指図されていないんです。誰かの言いなりになったという経験は一度もありません。そんなふうにしていられたのは、素直であり続けたからだと思います。

「私の人生って“平坦”なんです」

――デザインの専門学校を卒業されてからはどのような道を?

加藤: 卒業してから10年間はお勤めをしていました。最初の勤め先は家具メーカーでしたが、当時の家具メーカーは仕事が良くてもデパートの下請けにならざるをえない、その会社がブランドを持てるようにしたかったのですが、当時の私は微力で役立ちませんでした。方向を変えて設計事務所に転職しました。しかし設計事務所では違った違和感を感じました。次にブランドのある家具メーカーで販促とか企画を考えて実行するビビッドな仕事をさせてもらい、その後独立致しました。独立して次々色々なことを考え試すことが自由にでき今日まで楽しく続いています。

振り返ってみると、私の人生って“平坦”なんです。波瀾万丈も無く同じ事を続けております。10代と今日と何も変わっていませんがこれは地上10cmの綱渡り、落ちて恥ずかしいは自分だけが解っているのです。でも内面は明らかに進化しています。心も強くなり弧独力も付いてきています。一つのことをし続けながら時代の変化と共に歳の数に合わせて知恵が付いてきます。新しい考えが次々沸いてきて楽しいですね。

「自分の言葉遣い」がない人は“軸”がない

――なるほど。著書の中で女性のライフスタイルを言葉の面から提案する『お嬢さまことば速修講座』はとても人気がありますが、“言葉”については昔から関心があったのですか?

加藤:私自身、昔は男性と同じ仕事をして、男性と同じような言葉を使っていた時期(特に学生時代)もありました。それでなんとなく周囲になじめている気分になっていたのかもしれませんが、あとから考えるととても恥ずかしくなります。

そういう時期があったので、今の若い人が面白いはやり言葉を使うことにあまり抵抗がありません。ですが、「はやり言葉」は早く終わらせて次の段階に進んでほしいですね、10代、20代の一時ならいいけれど、大人の女性なら基本的にちゃんとした言葉遣いの方が良いわけです。

使う言葉はシチュエーションや相手によって変わっていいと思っています。「男っぽい言葉遣い」や「今風なしゃべり方」など、いろいろな話し方がありますが、相手や場所によって自分で自由にしゃべり方を変えられる方が望ましい。でも、まずは「自分の言葉遣い」という軸がなければ、状況に合わせて「変える」ことはできないのです。

言葉は、考えをつくる“基”、考えをまとめるツールです。人は使う言葉によって考える視点が変わります。ですから、いろいろな言葉遣いを使い分けられるということは、それだけいろいろな視点から物事を考えられるということ。「自分の言葉遣い」がある人は、「自分はこういう人間なんだ」という軸が定まっている人とも言えますね。加えて生活行為、仕草とも繋がります。丁寧な言葉に丁寧な行為ありでしょう。的確な表現をするという言葉遣いは難しいですね。

「とにかくラクでいたい」がモチベーション

――今年4月にも『時間やお金をかけなくても 手軽にできるていねいな食生活』を出版されるなど、精力的にお仕事をされていますが、加藤さんのモチベーションはどこからくるのでしょうか?

加藤:とにかくラクでいたい、ラクになりたい、という気持ちです。自分がラクとは、「気持ちがいい状態」ってことなんです。だから、「快適」「気分の良い状態」を自分の内側や周囲に作り出すにはどうすればいいか。日常生活も仕事も空間のデザインも、小さなこと例えば雑用と言われることに大きな価値があります。そういうきわめてシンプルな小さいことが常に自分のモチベーションになっていますね。おまけで言えばデザインはディテールを大切に、生活行為(衣食住)は丁寧にと思っています。

デザインとは人間の生活を美しくするためのもの。デザインで生活を美しくするにはどうすればいいのか。それを10代の頃から今日までずっと考えています。私が追い求めることは「美しい生活」「美しい衣食住」しかないんです。美しいことがラクなこと,気分の良い,快適さを感じることだと思ってます。今の若い方は結婚して子どもを産んでお仕事をしている人への憧れがとても強いですよね。憧れは力になりますが私は自分の能力ではそんなに一杯は出来ないと思いました。「本が売れていいですね」と言われることもありますが、確かに売れることは読んで頂くことですから大切です。考えたことが役に立てばそれは願うところです。そして色々な表現で「自分が納得できるところまで突き進みたい」という気持ちが強いです。

――今の20代、30代の中にはなかなか自分のやりたいことを見つけられなくて悩んでいるという人も少なくありません。

加藤:人間には3タイプあると思っています。まずユニークな人。そして頭がよい利口な人。最後がおとなしい人。「悩む」と「考える」という言葉は似ていますが、おとなしい人は「悩む」とおっしゃいます。でもユニークな人は悩んだことがない。頭がいい人は「考える」ことに集中して解決してしまい悩まない。おとなしい人は考える積極性がなく、人に聞くという大胆さもなく、解決法も見つけられないままひとりでもじもじしてしまう。ですから、「悩む」という言葉を自分の内から消して「考える」ことでしょう。自分がやりたいことをみつけても紆余曲折、嫌になることもあるのです。今の状態や仕事を自分風にするのが最高かもしれませんね。

本物の感性を身につけてほしい

――「悩む」という言葉を使わない……確かに、そうですね。最後に今を生きる20代、30代女性にアドバイスをお願いします。

加藤:女性の直観力や感性は宝物です。みなさん、美容もオシャレも上手ですが、その服をなぜ素敵だと思ったのか、美しいと感じたのかを考えると本物の感性に育っていきます。さらに直観力を磨き自信をつけながら、そこから得られた“答え”を筋道を立ててお話できるようになることが、生活をする上でも仕事をする上でも大事になってくるのではないでしょうか。日常生活(衣食住)の行為すべてが自分の感性を磨く手段になります。私自身、まだ“完成”していませんが、これからもずっと努力し続けようとしている立場から言えるのはそうしたことですね。

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(石狩ジュンコ)