NHK朝ドラ『風、薫る』で重鎮役がハマる55歳俳優。「あすなろ白書」の“おどおど青年”から33年、椅子に座るだけで放つ威厳
院長室の椅子に固定されたかのような、不動の存在感。威厳。管理を徹底する院内ガバナンス。主人公たちに立ちふさがる、大きな壁となっていたが、本当は心優しい一面も持ち合わせた人だった。
1990年代、トレンディ俳優時代の筒井道隆は、心優しい人物を演じることが多かった。多田重太郎役は、長いキャリアの変化の中で、筒井から新たな魅力を引き出している。 “イケメン研究家”加賀谷健が解説する。
『風、薫る』の主人公である一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が、看護科の取締として働いた帝都医科大学附属病院の医師たちは、随分と横柄な人たちだった。中でも外科の面々は最初、りんたちをあからさまに見下してきた。
外科は院内の花形である。病室を一斉に回る総回診の時間になれば、我が物顔で廊下をぞろぞろ闊歩する。自分たちは地位があり、偉い。先頭に立つ外科教授・今井益男(古川雄大)はそう言いたげだ。
りんが意見しようものなら、軽く鼻で笑う。だが、日本の看護のパイオニアである彼女たちの働きぶりを見て、そうした外科医だけではなく、他科の医師たちも次第に心を動かされ、横柄だった態度が協力的な姿勢に変化していく。院内を取り仕切る院長・多田重太郎(筒井道隆)もその一人だった。
◆椅子に固定された不動の存在感
とはいえ、多田はあからさまに横柄であるわけでも、偉ぶっているわけでもない。彼は大学病院全体を管理する立場であり、常に冷静沈着な態度で、あくまで物事を客観的に判断する。全ては組織を維持し、発展させるためなのだ。
初登場は第7週第31回。場所は院長室。看護実習生だったりんたちと対面する。椅子に座る多田は、デスクの上で両手を置き、厳めしい表情で眉間に皺を寄せていた。まるで椅子に固定されたかのような、不動の存在感が彼の基本姿勢だ。
そして会話する相手との間に常にデスクがあることで、物理的距離感がうまれ、近寄りがたさがある。
どこか悪役感すら漂わせていた。実際、院内では用務員・柴田万作(飯尾和樹)にスパイをさせているのではないかという疑惑もあった。
でも違った。第18週第86回では、多田と柴田が幼馴染みであることが明かされ、心優しい一面が描かれた。
◆おどおどキャラを得意としたトレンディ俳優時代からの変化
多田役からは想像もできないが、かつての筒井はむしろ、心優しいキャラクター性が似合う俳優だった。
1990年代の彼はトレンディ俳優として名を馳せ、最高視聴率30%を超えた『あすなろ白書』(フジテレビ系、1993年)など、平成ドラマを代表するヒット作の出演者であり、アイドル的人気があった。
三谷幸喜による脚本作でも気を吐き、不動の存在感である多田役と対照的に、やや挙動不審なおどおどキャラを得意とした。特に、1995年放送のドラマ『王様のレストラン』では、その持ち味が効果的に発揮された。
同作第5話に印象的な場面がある。
しっちゃかめっちゃかなフレンチレストランのオーナーになった原田禄郎(筒井道隆)が、バーカウンターの席に座ったり、立ち上がったり、何とも落ち着きない動きだった。しかし、その見事な動線が視聴者を飽きさせない演技でもあった。
かつてのおどおどキャラから不動の存在感へ。トレンディ俳優時代から実に30年以上経ち、長いキャリアの変化の中で筒井道隆は、『風、薫る』で新たな魅力を宿した。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
イケメン研究家 / (株)KKミュージック取締役
“イケメン研究家”として大学時代からイケメン俳優に関するコラムを多くの媒体で執筆。アーティストマネジメント、ダイナマイトボートレース等のCM作品やコンサートでのクラシック音楽監修、大手ディベロッパーの映像キャスティング・演出、アジア映画宣伝プロデュースを手掛ける。他に、LDHアーティストのオフィシャルレポート担当や特典映像の聞き手など。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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