同じ追いかけでも、自転車と徒歩をうまく使い分ける塩田監督の演出によって、窪塚が映画俳優としてとんどん光ってくる。この栄光は誰にもとめられない。本物の才能だ。

由希が自転車を起こして走らせ、祐介がひとり取り残される。カメラが緩やかに後退していき、窪塚の全身が写る。いったい、何等身なんだというくらい脚が長い。映画俳優の佇まいはこうでなくちゃね。

映画で最高に光る才能なら、映画監督が演出するテレビドラマだとどうだろう。『恋い焦れ歌え』(2022年)の熊坂出監督がメインで演出する、高橋ひかる主演のドロドロ恋愛ドラマ『顔に泥を塗る』に出演する窪塚もすこぶるいい。

◆父と共に映像の代名詞、映画の申し子

 演技の感性は調子がいい窪塚だが、同作で彼が演じる柚原蒼汰は、どうも肌の調子が荒れ模様。どうにか肌をきれいにしたい。メイクにも興味がある。でも自分では「そういうの許されるタイプじゃない」と決めつけてかかっている。

 これまでに紹介してきた作品の役柄と違って、蒼汰役ではおでこの肌荒れを隠すために前髪で完全に隠している。やぼったい。それを変えてくれるのが、蒼汰の姉である主人公・柚原美紅(高橋ひかる)が最近親しくしているジェンダーフリー男子・高倉イヴ(木村慧人)である。

 ガーリーとメンズをその日の気分で着こなして、自分が好きな色合いのメイクでばっちりきめる。蒼汰は自分らしく生きるイヴのカリスマ性を深く敬愛している。第2話、イヴが働くカフェが出展するフリーマーケットにやってきた蒼汰が挙動不審で、イヴを見て「きれい」とおどおど発する場面がいい。

 この出会いの場面以来、蒼汰はイヴからいろいろとアドバイスをもらうようになる。第4話、肌荒れのことを相談すると、イヴがメイクをしてくれる。鏡を覗き込んで、初めておでこを出す。その瞬間、映画俳優のスイッチが入ったかのように演技がさえてくる。

美紅が恐るべきモラハラ彼氏・結城悠久(西垣匠)から送られてきた書類に恐怖する第5話の場面。蒼汰が姉の様子を心配しながらもカップ麺をさっと取って部屋を出ていく間合いや視線の動かし方が絶妙である。

 たぶん、窪塚はすべてを無意識的にやっている。だから素晴らしい。父も息子も「窪塚」という名字は、映像の代名詞、映画の申し子だ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu