関西を中心に活躍するタレント、小川恵理子(55)さん。2023年5月に初期の乳がんと診断され、同年7月に右乳房の全摘手術、2024年5月に再建手術を受けました。異変に気づくきっかけは「頭皮のかゆみ」だったといいます。(全2回中の1回)

【写真】「再建手術で胸にシリコンを入れて3か月」と語る小川恵理子さんの現在(全12枚)

「それ、ホルモンバランスやわ」背中を押してくれた先輩芸人

ラジオ番組「hanashikaの時間。」で桂小春團治さんと

── 現在の体調はいかがですか。

小川さん:おかげさまで元気に仕事をやらせてもらっています。けれど、まったく元の通りかというと、そういうわけではないですね。現在もホルモン療法を続けていますし、再建手術で胸にシリコンを入れてからまだ3か月しか経っていないので(2024年8月取材時)、違和感や痛みを感じることもあります。もう少しすれば、だんだんとなじんでいくのかもしれませんね。

── 乳がんが見つかったきっかけが「頭皮のかゆみ」だったと伺いました。どのような経緯があったのですか。

小川さん:最初に異変を感じたのが2022年の末ごろです。髪を洗っても、洗っても頭皮がかゆくて。そこで皮膚科に行ってステロイド系の強い薬を処方してもらったんですが、それでも治まらず。とにかく、ワーッて搔きむしりたくなるほどで日常生活がままならず、ひどいものでした。

そんなとき、先輩芸人で「おんな道楽(三味線漫談)」の内海英華師匠に相談したところ、「あんた、ホルモンバランスを調べてもらいなさい。それ絶対、更年期の症状やから」と言われたんです。

確かに、2~3年前からホットフラッシュや疲れやすさなど、更年期の症状らしきものは出ていました。でも、病院にかかるほどの緊急性は感じていなくて。英華師匠のひと言に背中を押されて、2023年3月に初めてレディースクリニックに行ったんです。

このライブのときに英華師匠から病院へ行くように背中を押された

── レディースクリニックでの診察は、どのような流れだったのでしょう。

小川さん:更年期外来の専門の先生に診ていただいたら、「小川さんの場合、ホルモンバランスを調べるまでもないですよ」と言われたんです。54歳という年齢では間違いなく女性ホルモンは減っていると。そして「いまの症状は更年期特有のものだから、すぐにでも女性ホルモンを補充する治療を始めましょう」と提案していただきました。

それで、その日から女性ホルモンを補充する治療を始めることになったんです。飲み薬とパッチを貼る治療ですね。ただ、先生からは注意も受けました。女性ホルモンを補充すると乳がんのリスクが高まるそうなんです。

さらに私の場合、姉が10年前に乳がんを経験していること、私自身に出産や授乳の経験がないこと。これらも乳がんのリスクを高める要因になるため「ホルモン治療を始めるなら、早急に乳がんの検査をしましょう」と言われました。

同じ時期に大手術をされた英華師匠との「入院パジャマトークショー」

── そこで乳がんの検査をされたのですね。

小川さん:ええ。お恥ずかしい話ですが、この歳になるまで乳がん検査を受けたことがなくて。運よく翌週には検査予約が取れたので、初めてマンモグラフィーとエコーを受けたんです。マンモグラフィーで自分の胸がぺったんこになるのを見て「ちょっとおもしろいな」と思ったのを覚えています。

ところが事態は一変。検査を受けたその日の夕方、レディースクリニックから電話がかかってきまして。「怪しい影が3つ写っているから、ホルモン補充のお薬はいますぐやめてください」と。これまで何となく「自分はがんとは無縁や」と思っていたため、その瞬間、頭が真っ白になって、慌ててお腹に貼っていたパッチを外しました。そして大きい病院を紹介してもらい詳しく検査をした結果、初期の乳がんだと確定しました。MRIとCTスキャンの検査では、幸いにも胸のリンパや全身への転移がないことがわかりました。

ちなみに、ずっと悩まされていた頭皮のかゆみはホルモン療法を始めてすぐピタっと止まったんです。どうやらホルモンバランスが要因だったようで、がんとは直接関係ありませんでした。いまになって考えると体からの「気づいてほしい」のサインだったのかもしれませんね。

初めての手術「ドラマで見た光景と同じ」

治療方針が決まった日に姉と。普段食べることのないケーキを食べる

── そこからどのように治療方針が決まっていったのでしょうか。

小川さん:担当の先生方が症例検討会で私の検査結果をもとに治療方針を考えてくださって、全員一致で「全摘がいい」という結論になったんです。私の場合、乳首にまでがんが浸透していたんですね。部分切除という選択肢もあったのですが、その場合は放射線治療と抗がん剤治療が必要になります。姉が10年前に乳がんで部分切除をした際は、その治療がとてもつらかったと聞いていました。

最近は治療法も進歩して副作用も軽減されているそうです。でも、手術で全部取れるなら、思いきって全摘して再建するのがいいんじゃないかと考えたんです。とはいえ、手術をしてリンパへの転移が見つかれば乳房の再建手術ができない可能性もあったため、手術するまではどうなるかわかりませんでした。

── 手術のときの様子を教えていただけますか。

小川さん:手術は7時間におよびました。朝の9時ごろ、看護師さんが呼びに来てくれて点滴を打ったまま手術室に向かったんです。扉の中はテレビドラマで見るような手術台があり丸いライトがバーッと照らされていて、それを目にした瞬間、「本当にいまから手術するんだ」と急に現実味が湧いてきて。全身麻酔を受けるときも「もし目が覚めなかったらどうしよう…」という不安でいっぱいでした。でも、気がついたら手術は終わっていて、同時に強い痛みを感じたので、すぐに痛み止めをもらいました。

さいわいなことにリンパへの転移はなく、全摘と同時に乳房再建のための準備、シリコンを入れるために皮膚を徐々に伸ばしていく風船のような「エキスパンダー」という医療器具があるんですが、それを大胸筋の下に無事入れることができたとのことでした。

しかし、術後はやっぱり体がつらくて。特に大変だったのは、手術後の血液や体液を排出するためのドレーンという管を抜くとき。2本あるうち1本目はすんなり抜けたんですが、2本目が曲者で。体内で癒着していたみたいで、先生がグッと抜こうとしたら体内のエキスパンダーがズレて、思わず声を上げてしまったんです。そしたら先生が「大丈夫、すぐ戻しますからね」とまたグッと押し戻してくれて(笑)。今はこうして笑いながら話せますが、それはもう痛かったですね。10日ほどの入院を経て退院し、さらに2週間ほど自宅で療養してから仕事に復帰しました。

義妹のひと言が再建手術をするきっかけに

元気になり、姉と神社仏閣めぐりへ

── 今年5月に右胸の再建手術をされていますね。

小川さん:ええ。でもその決断には本当に悩みました。再建するということは、もう一度手術を受けることになりますから。母は「別にそのまま手術せんでもええやろ」と言ってくれて、私も最初はそう思っていたんです。

でも、義理の妹が10年前に同じく乳がんを経験していて、彼女に相談して考えが変わりました。彼女が教えてくれたのは全摘後のこと。「お風呂に入るたびに、左はあるのに右がつるんとしていて、いくら時が経ってもその傷跡を見ると気持ちが沈むのよ」と。そして、「私はシリコンを入れて再建して本当によかった」って。その言葉を聞いて「私もそうしてみようかな」って思ったんです。

── 再建手術の過程はいかがでしたか。

小川さん:まず、全摘手術のときに入れたエキスパンダーに毎週50ccずつ食塩水を入れて、ぺったんこだった胸を少しずつ膨らませていきました。私の場合、8か月ほどなじませて左胸と同じ大きさにしてから、今度はエキスパンダーを取り出してシリコンを入れる手術をしたんです。1回目の全摘手術よりは手術時間も短くて5日間ほどの入院ですみました。もし乳首の再建をする場合、全摘手術から1年後と言われているんですけど、私はもう手術はやらなくていいかなって。というのも、どうやら「付け乳首」というのがあるらしいんです。

── そうなんですね。初めて聞きました。

小川さん:これがすごくリアルにできていて。自分に合ったものをカタログから選べるんです。簡単に装着もできるみたいで。最初は先生から「1個3万円だよ」と聞いていたんですが、実は「2個で3万円」だったことがわかって。まだ買ってないんですけどね。温泉で万が一、ジャグジーで流されても替え乳首があったら安心だなってそう思っているんです(笑)。

病気を支えてくれた姉と

PROFILE 小川恵理子さん

おがわ・えりこ。関西地区を中心に活動するタレント。松竹芸能所属。福井県鯖江市出身、大阪府東大阪市在住。「恵理ちゃん,」「恵理姉」の愛称で親しまれている。

写真提供/小川恵理子