(画像:有村架純 Instagramより)
「清純派」のイメージはもはや過去のもの。

“役者・有村架純”が月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)で見せているのは、酸いも甘いも噛み分けた大人の演技です。

◆ブレイクは『あまちゃん』、代表作は『ひよっこ』

1993年生まれで31歳の有村架純さん。

2013年度前期の朝ドラ『あまちゃん』(NHK)で、主人公の母の若き日の姿を演じてブレイク。その後、2017年度前期の『ひよっこ』(NHK)で、高度成長期の真っただ中に茨城県の農村で生まれ育ち、集団就職で上京する純朴でひたむきなヒロインを好演し、人気を盤石なものにしました。

朝ドラの印象が強かったため、以前は“有村架純=清純派”というパブリックイメージがありましたが、放送中の『海のはじまり』では、つらい過去やさまざまな葛藤を抱えるアラサー女性を見事に体現。

そんな彼女の円熟した演技も見どころの『海のはじまり』は、本編見逃し配信とスピンオフ動画の再生数が、累計5200万回(9月2日現在/「TVer」「FOD」合計値)を突破しており、大ヒット中です。

そこで今回は年間・約100本寄稿するドラマ批評コラム連載を持つ筆者が、有村架純さんの魅力に迫っていきます。

◆「子ども産んだことないでしょ?」発言に負けない

突然娘がいることを知らされた主人公・夏(Snow Man目黒蓮さん)が、幼い我が子と向き合っていくという親子愛がテーマの『海のはじまり』。2022年に大ヒットした『silent』(フジテレビ系)の脚本家・生方美久氏の最新作として注目を集めています。

有村さんが演じているのは、夏の恋人で、実は過去に中絶経験のある弥生。

弥生と順調に交際していた夏でしたが、ある日、大学時代に交際していたものの8年も疎遠になっていた元彼女・水季(古川琴音さん)が、亡くなったという訃報を受け葬式に参列。葬儀場で夏はもうすぐ7歳になる少女・海(泉谷星奈さん)と出会い、海の祖母・朱音(大竹しのぶさん)から、夏の娘であることを知らされるというストーリー。

この物語において、有村さん演じる弥生の“気迫”が感じられたのは第3話。

夏、海、弥生の3人でお出かけして祖父母宅に帰宅した際、心配していた朱音が「大丈夫でした?」と尋ねると、弥生は笑顔で「はい、楽しかったです」と即答。これが朱音の逆鱗に触れてしまいます。

朱音は弥生に対して、つい「子ども産んだことないでしょ?」と詰問。弥生は驚き、「ありません」と答えるのが精いっぱい。火が付いてしまった朱音は懇々と子を産む大変さや育てる大変さを語りますが、弥生もひるみっぱなしではありません。「でも……本当に楽しかったです。ありがとうございました。私まで一緒に」と最後は微笑んで見せたのです。つ、強い……。

このシーン、劇中では朱音と弥生という強い芯を持つ女性同士の衝突でしたが、メタ視点で考えると、大竹さんと、実力派に脱皮しようとしている有村さんの演技合戦としての見応えもあり、かなり引き込まれました。

◆後悔を滲ませながらも強さもやさしさも宿した声

第6話には、有村さんの演技で涙腺崩壊するシーンが……。

堕胎するつもりだった水季が翻意して、産み育てると決意した理由が描かれた回想シーン。

水季は中絶手術のために訪れた病院の待合室で、受診している女性たちが書き綴る「ご意見ノート」を見つけます。そこには、中絶後のとある女性の《どちらを選択しても、それはあなたの幸せのためです。あなたの幸せを願います。》という言葉があり、水季は心打たれて出産したいと思うように……。

このノートの女性は手術直後の弥生だったのです。弥生と水季は一切面識がないのですが、自身が綴ったメッセージによって海がこの世に生を享け、その海がいま目の前にいるという運命的な展開。