花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、鼻炎など、アレルギーで悩む読者から、「中学生までアトピーで、20歳ぐらいからは慢性便秘、それに3年前から急に花粉症になりました。アレルギーには腸内環境が影響すると聞きますが、どういう仕組みなのですか? 具体的にどうすれば改善するのですか?」(43歳・女性・会社員)など、複数のお尋ねが届いています。

そこで、腸内の状態とアレルギーの関係について、京都大学大学院医学研究科・特定助教で消化器病専門医の菊池志乃医師に尋ねてみました。

アレルギーには腸内環境が影響する

--厚生労働省の発表によると、国民の「2 人に 1 人はアレルギー疾患をもつ」と言われます。どのアレルギーも免疫のありように関係すると聞きますが、どうして起こるのでしょうか。

菊池医師:免疫は、私たちの体にとって良くないと思われる細菌やウイルスなどの異物から体を守るための仕組みです。ただ、この仕組みが、本来は反応する必要がない花粉や食べもの、薬などの特定のものに対して、過剰もしくは異常に反応することがあります。

それによって何らかの症状が起こることを「アレルギー反応」、その結果として起こる病気を「アレルギー疾患」といいます。アレルギー疾患には、花粉症や食物アレルギー、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などがあります。

スギ花粉症でいえば、体という会社を守る警備員さん(免疫)が、不審者(異物)だけではなく、お客さん(スギ花粉)にまで攻撃したあげく、勢い余って会社の備品(体の部位)も壊してしまった、というイメージです。

--そうしたアレルギーには、腸内環境が影響していると聞きます。どう関係するのですか。

菊池医師:ヒトの腸には約1000種類、100兆個にも及ぶ「腸内細菌」が存在するとされ、「腸内細菌叢(そう)」や「腸内フローラ」と呼ばれます。

正常な状態では、腸内細菌は食べものなどを分解し、ビタミンや短鎖脂肪酸などを作り出してエネルギーに変換する「代謝」の働きをしています。

また、腸内の「免疫細胞」を活性化して外敵から体を守る「バリア機能」や、とくに「免疫寛容」という過剰な免疫反応を抑える機能にも関係することがわかってきました。この免疫寛容がないと、腸内細菌も異物として排除されます。そのため、免疫寛容は腸内細菌にとっては死活問題なのです。ヒトの免疫の状態は、腸内細菌叢と持ちつ持たれつの共存関係にあると言えます。

腸内環境が免疫を決めるカギ

--その免疫細胞の多くは腸に存在するそうですね。

菊池医師:まず、外敵に対応する免疫細胞にはさまざまな種類があり、白血球に多く含まれます。血液検査の結果にも表示がある、「好中球」「好酸球」「好塩基球」「単球」「リンパ球」などが挙げられます。

何らかの病気のときは、白血球の全体の数やこれらの各割合が変化します。例えば、高い熱が出る扁桃腺炎(へんとうせんえん)を起こす溶連菌(ようれんきん)や肺炎を起こす肺炎球菌などの細菌感染症では全体の数が増え、中でも好中球の割合が90%近くになることがあります。

同様に、発熱を伴うインフルエンザウイルスや胃腸炎を起こすロタウイルスなどのウイルス感染症の場合は、白血球の数にあまり変化がないといった違いがあり、診断の助けとなります。

  
次に、免疫細胞が白血球の種類だというと血液中にのみ存在するようにイメージされるかもしれませんが、実際には皮膚の組織や粘膜、リンパ組織など、さまざまな部位に存在しています。

そして実は腸管には、人体最大のリンパ組織といわれる「腸管関連リンパ組織(GALT)」があって、ここには人体全体の免疫細胞の約70%が集まり、腸管などを外敵から守るパトロールをしているという報告もあります。

--それで「腸管は害になるものを排除する防衛線の第一線」と言われるのですね。そのことが、アレルギーの話しと関係するのですか。

菊池医師:リンパ組織では、ときに、本来は害がないはずの花粉や食べものでも、なぜか「気に入らない」とすることが起こります。そしてその気に入らないものが少しでも近づく素振りがあれば、免疫細胞たちがそれぞれの働きを駆使して徹底的に排除しようとします。この排除機能が過剰に働くと、先ほど話したアレルギー反応を起こすことがあるのです。

なお、腸内細菌は異物としてまっ先に排除されてもおかしくないのですが、免疫細胞の働きなどに関わることで免疫の攻撃を抑制し、この排除を免れています。

逆に、腸内細菌叢の菌の多様性や菌数のバランスに異常が起こると、免疫の仕組みに影響し、それがアレルギー反応に関係します。この背景には抗生剤の使用や、衛生環境の向上で幼少期に細菌などに触れる機会が減ったことによる「衛生仮説」も考えられています。

腸内環境を整える具体的な方法は

--自分の腸内環境が悪いときに見分ける方法はありますか。

菊池医師:例えば、腹痛、便秘、下痢といったお腹の症状が出る可能性はあります。ただ、病気の多くは複数の原因が影響し合うので、同じような腸内環境であっても病気になる人、ならない人、症状が出る人、出ない人がいると思われます。

このため、自覚症状で腸内環境の良し悪しを見分けることは難しい面があります。ただし、お腹にいつもと違う何らかの症状が3日以上、とくに一日中何をしていても症状が続く、あるいは症状が強くなる場合は医療機関の受診を勧めます。なお、38度を超える発熱を伴うときや、強い腹痛、血液の混じった便などがあれば、3日と言わず、できるだけ急いで受診しましょう。

--腸内環境を整えるとアレルギーを改善することが可能なのでしょうか。

菊池医師:アレルギー疾患の発症に腸内細菌が関係しているなら、逆説的に腸内細菌叢を変えることでアレルギーを予防し、症状を改善することができるのでは、と考えられています。

そこで、有益と思われる微生物やその餌となる食物成分(プロバイオティクスやプレバイオティクス)を摂取するといった研究が数多くなされています。

それらについては多くの健康食品や飲料、食品が販売されていますが、現時点(2023年3月)では研究間のばらつきは大きく、特定の食品や薬の摂取が有効というにはエビデンス(科学的根拠)が不十分であり、今後の報告に期待したいところです。

その上であえてアレルギーの改善に自分でできることを挙げると、生活習慣の改善となります。暴飲暴食、睡眠不足、不規則な生活、喫煙などの生活習慣の乱れが、腸内細菌叢の変化やアレルギーの悪化に関与することは種々の研究で明らかになっています。特定の食品などに頼るよりも、まずは生活習慣を整えることから始めましょう。

聞き手によるまとめ

腸内環境を整えることは免疫に関わり、それがアレルギーの予防や症状の改善につながること、また、腸内環境を整えるには、特定の食品や健康食品を選ぶよりは生活習慣を見直そうということです。こうした仕組みを理解し、すぐにでも実践したいものです。

(構成・文 品川 緑/ユンブル