「fracora(フラコラ)」は、Youtubeチャンネル「生命科学アカデミー」に大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保先生をお招きし、「オートファジーの「秘密」とは?」ほか、全6回を公開しました。

細胞一つ一つが元気になることで、病気や老化を防ぐことができるということが昨今の最先端研究により分かってきました。話題の「オートファジー」研究のスペシャリスト、吉森先生に今知っておきたい「細胞」と「オートファジー」の話を聞きました。

※本記事はYouTubeチャンネル「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。

<前回までのおさらい>

・「オートファジー」は、細胞の中の社会をよい状態でうまく機能させ続けるメンテナンスのような仕組み

・主な役割は、
細胞の中身を入れ替えてリフレッシュさせる
細胞の中に有害なものが現れたときにそれを狙い撃ちで壊す

※詳しくは第1回、第2回をご覧ください

老化しない生き物、死なない生き物

長年細胞の仕組みの研究をしてきて、細胞の中の社会は人間の社会と比べものにならないくらいよくできていると実感しています。こんなによくできているのなら、老化したり死なないはずなんですよ。

難しい言葉ですが、「エントロピーの増大」という言葉を聞いたことはありますか? エントロピーとは元々物理学で使う言葉ですが、秩序と言い換えてもいい。自然界では秩序は絶対崩壊していく、このことをエントロピーの増大と言います。

生物というのは、エントロピーの増大に逆らう仕組み、秩序を維持しようとする仕組みなんです。宇宙全体はエントロピーの増大に向かっていますが、細胞の中では局所的にエントロピーが減少しているんですよね。

細胞の中の秩序が維持されているのなら、本来なら老化や死はないはずなんです。実際に老化しない生き物もいるし、死なない生き物も見つかっています。

たとえばアホウドリとかゾウガメ、あとはハダカデバネズミ--実験で使うちょっと変な顔のネズミです--は、老化しないんです。老化せず、寿命がくるとある日ぱたっと死にます。それまで見た目も全然変わらないし、ハダカデバネズミは歳をとってもがんになりません。

人間は老化するといろいろな病気になります。老化というのは非常に複雑な現象で、定義がはっきりしていないのですが、医学的にはいろいろな病気になりやすくなることを老化と言います。

人間の場合、60歳を超えると急にがんの発生率が増えます。でも、ハダカデバネズミは歳をとってもがんにはならない。

もっとすごいのは死なない生き物。ベニクラゲというクラゲは死にません。

“わざわざ”老化している?

最初の話に戻りますが、細胞の仕組みがよくできているのだから、本来ならば死ななくていいはずなんです。

ところが、人間は死にます。たいがいの生き物は老化して死にます。

これはおそらく--実験できないので科学的には証明はできませんが--生物が生まれて何億年と進化していく中で、老化したり死んだりしたほうが種の生存競争にとって有利だったのではないかと思うんです。

個体としては老化したくないし死にたくないけど、集団にとっては老化したり死んだほうがよかった。つまり、“わざわざ”老化したり死んだりするように進化したんじゃないかというのが私の考えで、そう考える研究者は多いです。

わざわざ進化した仕組みであるならば、そして実際に老化しない生き物がいるのであれば、人間の老化もとめられるのではないか。

科学的に死をとめるのはなかなか難しいと思いますけども、老化はとめられるんじゃないかというのが、今の最新の医学の考え方です。実際に老化をとめようとする研究も増えてきていて、オートファジーの研究もそのひとつです。

オートファジーと寿命の関係

歳をとるとオートファジーが低下します。これがまず研究でわかってきたことです。そして、オートファジーが寿命を延ばすために必要だということもわかってきました。

寿命を延ばす方法は動物だと5種類以上が知られています。

有名なのはカロリー制限や生殖細胞の除去。あとは、ある程度寒さがあると長生きするなど。どの場合も、オートファジーが促進されているという共通点があります。となると、オートファジーと寿命の延伸には何か関係があると思うじゃないですか。

カロリー制限をしつつオートファジーをとめた実験では、寿命が延びませんでした。つまり、寿命を延ばすにはオートファジーが必要ということです。

ではオートファジーが低下するのをとめたら寿命はどうなるのか? 私の研究室でみつけた答えを、次回はお話しします。

(第4回に続く)

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