弁護士・柳原桑子先生が堅実女子の相談に応える連載です。今回は、佐藤奈々さん(仮名・34歳・派遣社員)からの相談です。

「同じ年の夫と結婚して8年になります。子供はおらず、お互いに居心地がよく、優しい人なので、安心して過ごしていました。

ところが、5月に夫が体調を崩して入院しました。幸い新型コロナウイルスではなかったのですが、2週間後に出社したところ、社内いじめの標的になってしまいました。モラハラ上司の攻撃や、同僚からの「コロナじゃねーの?」という心無い発言などから仕事に行けなくなり、1か月の休職の後に退職しました。これ見よがしに消毒液を使われたり、『こっちにくるな』などと言われて、優しい夫は耐えられなかったのでしょう。

それから数か月間、家で休養をしています。彼は生活費を出さず、私の給料で生活しています。その頃から、ちょっと気に入らないことがあると怒鳴ったり、壁を叩くなどしていましたが、最近は顔や体を殴るようになりました。

『給料が安いオマエが病気になればよかったんだ!』などと言ってきて、手に負えません。

もともと、気に入らないことがあるとモノに当たったり、私に対して何時間もグチを言うところがあったのですが、退社後はひどくなりました。仕事に行くのを邪魔されることがあり、帰ってきてチェーンをかけられていることも。

だから私は今、離婚を考えています。調子がいいときは優しい夫なのですが、何か気に食わないことがあると、血がでるまで暴力をふるってきます。もう、我慢の限界です。

もし今回離婚をするなら、夫を裕福な彼の実家にリリースし、慰謝料をガッツリもらいたいのですが、その場合の証拠はどのように残していくのがベストなのでしょうか」

弁護士・柳原桑子先生のアンサーは……!?

DVに悩む方はこのところ増えています。

暴力を振るわれたことを立証するには、“ケガの状態”という結果を証明する方法がまずは考えられます。

医師の診察を受けて診断書を作成してもらうことはもちろんですが、患部の写真を撮る(自撮りできればそれでも可)なども結果の証明になります。

さらによいのは、暴力をふるわれた経過を証明することです。暴力をふるっている最中の録画や録音などです。しかしDVは急に起こりますから、録画や録音は難しい場合もあると思います。無理はできないため、録音録画が厳しい場合は、できごとを日々書き留める日記等も有効です。

離婚時にDVを理由に慰謝料請求をすることについては、論理的にはできますが、加害者は認めないことも多いので上記のような証拠をもつのは大切です。

これは交際時においても同じことが言えます。暴力は不法行為なので、慰謝料の請求はできます。

しかし、慰謝料請求のために暴力に甘んじるということではなく、何よりも身の安全を重視し、不運にも被害にあった場合には、早めに距離をおいたり警察などに相談した方が良いです。

繰り返される暴力は、行為一つ一つの苦痛が生じるのみならず、逆らわないようにするという支配関係を生み出しがちです。暴力を振るわれ続けるうちに被害者は、加害者にそのようなことをさせる自分が悪いという思考回路に陥り、その環境から脱する意思決定ができなくなったり、また他者への相談もしなくなるというように、DVの継続に進んでしまう恐れがあります。

夫は職場ではバイキン扱いなどの幼児的ないじめを受けてメンタルを病み、自己都合退職をしてしまった。

■プロフィール

法律の賢人 柳原桑子

第二東京弁護士会所属 柳原法律事務所代表。弁護士。

東京都生まれ、明治大学法学部卒業。「思い切って相談してよかった」とトラブルに悩む人の多くから信頼を得ている。離婚問題、相続問題などを手がける。『スッキリ解決 後悔しない 離婚手続がよくわかる本』(池田書店)など著書多数。

柳原法律事務所http://www.yanagihara-law.com/