様々な働き方が問われる現代。女性の場合、結婚、出産というようなライフイベントによって、キャリアを棒に振ることがない働き方に、注目が集まっています。なかでも、若い女性向けの起業セミナーは、どこも盛況を迎えているとか。

希望に満ち溢れ、起業する女性たち。そこには成功が待っているのでしょうか、それとも挫折が?今回登場するのは、都内で女性向け美容コンサルタントを手掛けている藤本由美(仮名・32歳)さん。

由美さんは、落ち着いたダークブラウンのロングヘアを緩く巻いた女性らしい髪型に、白いVネックカットソーにグレーのジャケット、白いフレアスカートとしっかりした印象を与えつつフェミニンなコーディネート。頬の赤みやシミを消すためなのか、ファンデーションがやや厚めに塗られています。少し履きこんだ感じのする5cmヒールの黒パンプスに大き目のレザートートバッグ、どちらもよく使われているのがわかります。ちょっとメイクをがんばっている普通の堅実な女性、という印象です。

バッグの中には、スマホの自撮り用のライトと三脚がいつも入れてあります。facebookやブログ、インスタグラムなどのSNSは、投稿内容によって画像を変えて、1日3投稿をノルマに更新しているそうです。

彼女の現在の仕事は、開運をキーワードにオーラカウンセリングと美容やメイクのアドバイスを伝えるもの。独立してから2年になります。外見に自信のない女性にメイクのアドバイスや、オーラ診断をもとにカウンセリングを行なっています。モットーは「すべての女性が輝けるように」。

由美さんは、山口県宇部市で生まれ育ちました。父は、船舶の荷役業を行ない、家を空けがちだったので、保育補助の仕事をしていた母に育てられます。3歳下に弟ができると、自分から率先して弟の面倒をみるようになります。メイクが苦手だという母は、何年も前に買ったファンデーションと口紅を、授業参観などで人前に出る時に塗るだけでした。

いまでは美容やメイクのアドバイザーとして起業している由美さんですが、閉鎖的な地元では、派手なファッションやメイクをしているだけで目立って噂になるため、化粧は大学に入学するまでしたことがなかったと言います。緊張すると汗っかきな体質だったため、周りの同級生から体臭を「くさい」とからかわれたこともあるとか。体育祭の練習で男子生徒と手をつないだ時に、露骨に嫌そうな顔をされ、授業が終わると急いで手を洗っている姿を見て以来、なるべく目立たないように過ごします。

ただ笑っているだけで、男性から「かわいい」と言われるような同級生を羨ましく感じ、自分はかわいくないから仕方ないと思うようになります。高校は、中学の同級生と離れたかったため、家から徒歩で30分ほどかかる学校に進学します。デオドラントケアにも気を遣うようになり、登下校を一緒にする彼氏ができます。しかし、「ブスだから簡単につきあってくれそう」と自分について噂話をされていると知り、深く傷つきます。

東京の大学で受けた酷い仕打ち…

進学した短大では、背伸びせず付き合える同級生の彼氏ができます。お互い地元が近く、会いたいと思えば夜でも会いに出かけ、海の埠頭などにクルマを止め朝まで一緒に過ごしたり。心から好きと思える人と出会えて幸せでしたが、彼氏に浮気をされてしまいます。

この出来事がきっかけで、地元に残る予定の彼氏とは別れを決めます。そして、彼氏を見返すためにも、東京の4年制大学へ編入するための勉強に励みます。無事、編入試験に合格し、念願の東京での生活を始めますが、それまでずっと山口で過ごしていた由美さんにとって、東京の大学は未知なる場所です。期待に胸を膨らませていましたが、待っていたのは辛辣な言葉でした。

ゼミの歓迎会で、自分だけ周りの男子生徒から誰からも連絡先を聞かれないので「もしかして、汗臭いのかな」と不安になります。さらに同席していた男子生徒が「ブスキャラなら面白そうな話しろよ」と酔ってからんできたのが、トラウマになります。大学では、自分だけ呼ばれない飲み会やカラオケも頻繁に開かれていたことを後で知り、傷つきます。

「ブス」……その呪いの言葉は由美さんを縛りつけます。上京してから知り合った同級生たちは、どこかよそよそしく感じて、自分からは親しくなれないでいます。それもこれも「ブスだから」と落ち込みます。さらに髪型やメイクなど、洗練された都会育ちの同級生たちを見ていると、自分がますます醜く感じて、ゼミの打ち上げなども参加しないようになっていきます。しかし、この時の悔しかった経験が、現在の仕事を目指すきっかけとなります。

毎朝、出かける前は鏡を見ながら口角を上げる練習をしている。

女性として生き生きとできる場所に出会った!セミナー通いのために仕事を退職!起業への道へ〜その2〜に続きます。

※本連載に登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。