同じ1日を延々と繰り返す羽目になったら、どうするだろうかーー。

 

悪事を働いても、女を口説いても、ロマンチックな日を過ごしても、自殺をしても(!)、一度眠ればまるでリセットボタンを押されたように同じ日がはじまる。

 

そんな世界に閉じ込められたら、どんな風に1日を生きるだろう?

 

……と、この『恋はデジャ・ブ』というつまらなさそうな映画タイトルでもこの記事をクリックしてくれた人を離さぬよう必死な、ライターのさえりです。こんにちは。

 今回紹介するのは『恋はデジャ・ブ』。ええ、たしかにタイトルはダサい。率直に言って、かなりダサい。

 

でも、タイトルだけで「つまらなさそう」と思うのはやめてほしい。この映画は、実は映画ファンの中でかなり評価されている「名作」なのだ。

 

ちょっと古い映画なのでまだ観たことがないという若い人も多いかもしれないので今回は紹介させてください。

 

日々が退屈だ、と感じている人にこそ、観て欲しい。

(ネタバレしつつ進めますが、ネタバレ後に観てもおもしろい映画です。ぜひ!)



出演: アンディ・マクドウェル, ビル・マーレー
監督: ハロルド・ライミス
販売元: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント。

ストーリーはこうだ。

主人公は傲慢な男、フィル。 ニュースキャスターの彼は、パンクスタウニーという田舎町へやってくる。

目的は、2月2日の聖燭節に行われるイベントの取材。フィルは「退屈なイベントだ」と、やる気ゼロで、早くこの町から出たい……と願う、でも、風吹になってしまい、もう一泊することになる。

そして次の日。目が覚めると、なんとまた2月2日なのだ。

混乱するフィルをよそに、町は昨日と全く同じ時間を繰り返す。
曲がり角で同級生が話しかけてくる。入ったレストランでウェイターがお皿を割る。……すべてが同じタイミングで繰り返される。 そしてまた1日が終わり、目が覚めるとまた2月2日。まるでゲームのリセットボタンのようなのだ。 フィル一人だけが、昨日のことを覚えている……。

彼は徐々に町の人を覚えて、遊びをはじめる。

会話を先回りして相手を驚かせたり、女性を口説いたり、お金を盗んだり、思いつく限りの悪事を働いてみて警察にお世話になったり。

そしてやがて「リタ」という女性を好きになる。

口説くために彼女の好きなものを知って会話に織り交ぜたり、彼の好きな男性になりきったり。でも、鋭いリタは最後には気づいてしまうのだ。

「あなた、なんか変」 「あなたは自分のことしか愛していない」

自分のために生きるのも飽き、何をやってもうまくいかず、何度でもリセットボタンを押されるような日々に絶望し、フィルはついに自殺を繰り返すようになる。 けれども、何度死んでも、結局目が覚めると2月2日6:00なのだ(絶望的すぎる……)。

そんななか、フィルは「2月2日に寿命を迎える男」に出会う。何をやっても、どんな手を施しても彼は2月2日に死んでしまう。 どうやっても変えられない運命があることを知り、「変わらない日常」をどう過ごすか……フィルの心境は徐々に変化していく。 と、いうのがこの物語の大枠だ。



もし、何も変わらない日常に閉じ込められたら、あなたはどう過ごすだろう? 自分の好きな事をする? 悪事を働く?

……たしかに最初はそれでもいいかもしれない。
でもきっとだんだんと「自分の快楽のために生きたところで何になるのだろう」と飽きる日が来るはずなのだ。

この作品のなかで、自分のために生き尽くしたフィルが選んだ生き方は、「よりよい人間として生きようとすること」だった。

たとえば。 木から落ちる少年を毎日救う。タイヤがパンクした町人を毎日救う。 こんなことをしても、しなくても、また明日は同じ1日が繰り返されるのだけれど、そうとわかっていてもフィルは「よりよい人間」として生きようとする。自分にできるすべてのことを、人のために行っていく。

もうひとつはじめたのは、読書やピアノなど自分を磨く行為だった。好きな女性「リタ」を想って、毎日ピアノを習いにいく。 1日をないがしろに暮らしていた時期を過ぎ、やがて、変わらない日常を愛し、変わらない町人を愛し、そしてなにより「自分が好きな自分」になったとき……、町人から愛されただだけでなく、やっと、リタの心に到達することができる。

そして目がさめると世の中は、2月3日、なのだった。



ラブコメと思いながら観ると大間違い。人生においてとても大事な事を教えてくれる映画だ。

わたしは観ながら思っていた。 「変わらない日常を愛せているだろうか?」 変わらないように思える日常は、わたしたちのすぐそばにもある。誰かを愛していてもそれが日常と化して、大事に思えなくなったり、退屈に思えたり、ただの繰り返しのように暮らしていたり。

その変わらない日常を、愛せる自分でいるだろうか。よりよい自分を目指せているだろうか。

そしてもうひとつ、こんな事も思っていた。 「未来のために今がある、と思うのは間違いなのかもしれない」 と。

そうではなく、今の先に未来があるのだ。些細な違いかもしれないけれど、これは大きな差だ。きっと、今を愛した先にしか、愛おしい未来は待っていない。

……『恋はデジャ・ブ』は、人生をどう生きるかを押し付けがましくなく教えてくれる。(ちなみに、この映画は哲学的にも大きな意味を持っているという。映画評論家の町山氏は『恋はデジャ・ブ』を「ニーチェの永劫回帰思想をわかりやすく表現している」と絶賛したのだそう)。

 難しいことを考えたいときにも、ただ単純に楽しみたいときにもオススメの映画。
毎日同じ事の繰り返しだ、と嘆いているあなたに、ぜひ観て欲しい。 「今」を愛せていますか? よりよい自分で生きられていますか? その先にしか、愛おしい未来は待っていないのかもしれません。
●さえり●
 90年生まれ。書籍・Webでの編集経験を経て、現在フリーライターとして活動中。 人の心の動きを描きだすことと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。 好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。 Twitter:@N908Sa (さえりさん) と @saeligood(さえりぐ)