「組織に縛られずに自分のペースで働きたい」そんな30代女性の希望を叶える方法として、ムリしない“起業”を提案する連載「「好き」と「稼ぐ」を両立したい over35のためのぼちぼち起業」。5回の理論編を経て、第6回は実際にフリーランスのグラフィックデザイナーとして活躍するひかるさんを訪ねました。

デザイン会社からひとりで独立して丸3年。「だんだんとクライアントもついてきて順調に忙しくなってきました」というひかるさん。それでもあえて、続けていることがあるのだそう。

「実は、デザイナーの仕事を本業としながら、週に2日だけ弁護士秘書の仕事もしているんです。最初は収入を安定させるために始めたんですが、もっと大きなメリットがあることに気づいて、本業が順調な今も続けています」

36歳で起業を選択したひかるさんが、あえて「デザイナー」と「弁護士秘書」というパラレルキャリアを続けているのは、なぜなのでしょうか?

「単なるデザイナー」では食っていけない

まずは、ひかるさんの現在の仕事の内容について聞いてみました。クライアントの大半は「個人のお客さん」だそうです。

「例えば最近だと、建築士さんから依頼を受けた案件で、歯医者さんのブランディングを担当しました。その歯医者さんは、シアトルで最新技術を学んだ方だったので、シアトルテイストのクリニックにしようと提案させていただき、建物の外観から、ロゴマーク、パンフレットやカルテなどもすべてデザインを担当させてもらいました」

「私の場合、単なるデザインというよりも、広報アドバイザーなんです。ブランディングのコンサルができるデザイナーという意味では、ブランディングデザイナーというのでしょうか」

近頃はパソコンソフトが普及して、デザインが手軽にできるようになっていることもあり、インターネット上ではデザイン価格が値崩れを始めています。500円でロゴマークや似顔絵が買えることはユーザーとしてはいいことですが、一方で、価格破壊の波に飲み込まれるとデザイナーの生活が成り立ちません。そんな中で、ブランディングのコンサルができることが、デザイナーであるひかるさんにとって大きな付加価値となっています。

「3ヵ月だけなら」と、軽い気持ちで始めた弁護士秘書

独立して間もない頃、一人の友達から声がかかります。

「その頃、名刺やパンフレットのデザインを依頼してくれたり、クライアントにどんどんつないでくれたりする“キーパーソン”ともいえる友達がいました。その人に『知り合いの弁護士が、3ヵ月だけ週2日秘書として働けるママを探しているんだけど、ひかるさん、やってみない?』と声をかけてもらったんです」

「定期収入が入るし、法律事務所というとなんだか頭がよさそうな響きだし、『3ヵ月だけならいいかな』」と軽い気持ちで始めたというひかるさんですが、その後、契約を延長してすでに2年ほど弁護士秘書の仕事を続けています。

その副業には、思わぬ効果があったといいます。

自宅で仕事をするひかりさん

副業のメリットは「定期収入」だけじゃない

「家で仕事をしていると週7日ずっと自宅にいることになりますが、週に2日出勤することが自分にとって意外といいリズムになっています。また、弁護士事務所に行くとそれまでの暮らしでは出会えなかった人とたくさん会う機会があるんです。そこ広がった人脈によって仕事の幅もさらに広がりました」

「人脈が広がらない」というのは、独立した人が抱えがちな悩みの一つ。それがまったくの異業種で副業を持つことであっさり解決してしまいました。

「何より役に立っているのは、有能な先生の仕事ぶりを間近で見られることですね。とても魅力的な先生とスタッフたちに囲まれて、ここでの経験値や出会いが私の大きな肥やしになっています。将来、もしデザイナー仲間と事務所を借りて仕事をすることがあるとしたら、弁護士事務所での今の経験がとても役に立つと思います」

そんなひかるさんですが、弁護士事務所にいる時は、副業という感覚はまるでなくて、デザイナーであることも忘れて純粋に秘書の仕事を楽しんでいるそう。異業種だからこそ、オンオフの切り替えがしやすいのかもしれません。

「時間の切り売り」になる副業はしない

起業・独立した人にとって、「副業」のメリットといえば真っ先に「定期収入」を思い浮かべます。でも、定期収入を得るためだけなら、ファーストフード店やコンビニで働くという選択肢もあります。

とはいえ、起業後に始める副業が単なる「時間の切り売り」になってしまってはもったいない。やるなら、「人脈を広げる」「経験値を高める」といったメリットがある副業を選びたいものです。

その意味で、ひかるさんが選んだ「デザイナー」と「弁護士秘書」というパラレルキャリアは理想的と言えそうです。

副業の効果はお金だけじゃありません。独立してまだそれほど忙しくない時期に副業をもっておくという選択肢を頭に入れておきましょう。

(氏家祥美)