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11月6日、恒例のクリスマス・イルミネーションがプランタン・デパートに点灯した。子供も大人も、「今年の飾りは?」と待ち遠しくてならない。普段ではお目にかかることができない、裏方を40年間支え続けている、マリオネット師のジャン・クロード・ドゥイックス氏にお会いした。

今年のテーマは、「クリスマス、魔法の旅」。協賛のファッションブランドは、バーバリーだ。トレンチコートと襟巻きの装いをした少年が、傘をさして風に吹かれロンドンからパリに旅してくる。もう一つの手には、テディーベアを持つ。ビッグベン、ロンドンタワー、30セント・メリー・アクスの建物群が、パリの風景に融合する。木製のバッキンガム宮殿の衛兵が行進する。軽やかな「かたかた」という木と木が触れ合う音とナイロン製の紐に繋がれて、人形たちが様々な動きをする。演出、照明、音楽が一体となったスペクタクルの開幕だ。

写真上:ロンドンとパリの景色を旅する少年 cPrintemps

こうした仕掛けを総合的に監修して、現場で設置するジャン・クロードさんのお父様もマリオネット師だった。もちろん、彼の幼少期のおもちゃはマリオネットだ。インダストリアル・デザインを学んだが、必然的にこの道を歩んだ。一時期は、舞台でマリオネットを操る技師として世界を遠征したこともある。現在では、技術も進化して電動式プログラムが可能となった。発案は、お父様の時代に遡る。2か月間のショーウィンドーのために、打ち合わせから設置まで一年の半分以上を要する。まさに、大興行であるものの、地味な仕事である。

「この衛兵たち、会期中は日夜稼働して600km歩くのだから、木がすり減ったり、傷まないように十分に動きを配慮してあげないとなりません」と、アトリエでは、制作された人形のどの位置に、金具や留め金を取り付けるのが好ましいのか検討され、調整される。「一体ずつが、どんな動きをするのか微妙な動作まで考慮します。こうした整形手術のような細工が施されていることが観客に見破られてはいけないのです」と、時折、裏話も披露してくださった。

「今年、皆さんに贈る夢は、600km行進する120体の衛兵たちのリズムと、1200kmの距離を風に乗る少年の旅ですかね。ナイロン製の紐は、合計10km使用しています」と微笑みながら、「全ての道具は、ご覧の通り身につけているよ。ハサミ、ナイロン紐、口径の違う針ですね」と軽やかな身なりで、4つのメイン稼働ショーウィンドーと他5つを行き来する。一つのショーウィンドー設置に費やす時間は、平均して1〜1,5日である。入念に設計された各々のショーウィンドー空間の図面をもとに、現場作業はスムーズに行われないとならない。

写真右:ジャン・クロード・ドゥイックスさん cKaoru URATA

「まず、私と娘が最初の観客です。オープニング後は、毎早朝に訪れて誤作動がないか確かめます。スペクタクルの人間にとって、完璧は大切なのです。」やはり、この道一筋の男は、断言する。現在、息子さんも独立されて、マリオネット師として活躍される。お嬢さんは20年前から一緒にプランタンのお仕事をされている。奥様も支えている。「家族は大切な存在です」と言うまでもなく、ジャン・クロードさんから伝わってくる。

ところで、人形たちにどのように入魂されているのか?という質問にたいして、「私の一部を与えますが、息子、娘、それぞれの人格があるように各人の表現が異なります。これだけは、説明のしようがないのです。しかし、まず自然な動きを表現することが困難なのです」とコメントされる。「基本ができた上に、自分らしさの動きを与えていく、それに限界はありません」と追加した。

写真上:雪景色の汽車と少年 cPrintemps

2か月間限定のウィンドースペクタクル。「オープニングの夜、私の手を離れて一人歩きする人形たちを置いて去る時と撤収作業の時は、空しい気持ちになりますが、スペクタクルの魔法は、儚さにあるのです」と言う。

無数のナイロン紐を操るジャン・クロードさんに「釣りはお好きですか?」と聞かずにはいられなかった。「いや、一本だと、どうも落ち着かなくてね。なぜか絡まってくるのですよ」と、やんちゃ少年の気質が残ったジャン・クロードさんの側面を垣間みたようだ。筆者も幼少期から、欠かさずに見ているクリスマス・ショーウィンドーの黒子が、こんな紳士のジャン・クロードさんだったとは、まるで魔法がとける瞬間に立ち会った感覚だ。

取材・文 Kaoru URATA

クリスマス・イルミネーションは、2015年1月10日まで
http://www.printemps.com