「味の素」75g瓶。発売当初は瓶に直接「アジパンダ」の顔が印刷されていた

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各家庭の料理で活躍している「味の素」。味の素株式会社が販売する、アミノ酸の1つである「グルタミン酸」から生まれたうま味調味料だ。サッとひと振りするだけで料理のおいしさをさらに引き出すことができる優れもので、1909年の誕生以来、今まで130以上の国・地域で展開され、世界中の料理の引き立て役を担っている。

【写真】子供が喜ぶと思ったのに…イメチェン前の「アジパンダ」はちょっと怖い!?

そんな「味の素」のパッケージといえば、透明の瓶に赤いふた、そして瓶に描かれているパンダが特徴的。あのパンダは「アジパンダ」という名前で、生まれつき体の模様がエプロン柄になっているパンダだという。「『味の素』のよさをもっと多くの人に知ってほしい」という思いから、2005年にボトルデザインに起用された。

現在は味の素株式会社全体のコーポレートキャラクターとして活躍し、すっかり「味の素」の“顔”となっている「アジパンダ」だが、一体どのようにして誕生したのだろうか。今回は「アジパンダ」の誕生秘話を探るべく、味の素株式会社 調味料事業部の三科光彦さんに話を聞いた。

■戦隊ヒーローの案もあった?「アジパンダ」誕生秘話

味の素株式会社がボトルデザインのキャラクター化に踏み切ったのは2004年のこと。「『味の素』を今以上にさまざまな世代に商品を広めたい」「今以上に商品に愛着を持ってもらいたい」という思いから、イメージキャラクター発案の企画がスタートした。

これには、1990年代頃にはイメージキャラクターに「ポパイ」を起用しており、生活者からの評判がよかったという背景もあったそうだ。今回もポパイと同じように、親しみやすいキャラクターを起用して生活者に興味を持ってもらうことが目的だった。

「当時、社内でさまざまなアイデアを出し合ったのですが、候補のなかには“『味の素』は食卓の味方だから”という理由で『味の素マン』という戦隊ヒーローのようなキャラクターがいましたね。あとは、誰もが知っている国民的アニメキャラを起用する案もありました(笑)」

さまざまな案が出ていたそうだが、ある日、デザイン担当者が「味の素」瓶を眺めていたとき、ふとパンダが浮かび上がってきたという。出来上がったデザイン案を見ると、どの候補よりもかわいさとインパクトがあったため「これはもうパンダしかない!」という流れに。名前も「アジパンダ」という名前にすんなりと決定したそうだ。

■新規ユーザーの取り入れに大成功し、昇進!

そして2005年、今ではすっかり顔なじみの「アジパンダ」が印刷された「アジパンダ」瓶の販売がスタート。生活者からは「かわいい」「親しみやすい」と評判で、特に若年層の新規ユーザーからの印象がよかったという。

「主に若年の単身層や、DINKS層(一般的に子供のいない共働きの夫婦世帯のこと)などに『アジパンダがいることで手に取りやすい』と、とても喜ばれました。当初のキャラクター起用の狙いには『新規ユーザーの取り込み』があったのですが、『アジパンダ』のおかげでそれが実現できました」

そこから、「アジパンダ」はボトルデザインだけでなく、着ぐるみになって店頭での販促活動を行うように。当初、社員たちは「アジパンダ」の着ぐるみが子供たちに喜ばれると思ったそうだが、最初にできた着ぐるみは体系がガッチリしていて毛もふさふさ。“リアル感”が強すぎて怖がられたそうだ。

現在活躍している「アジパンダ」はイメチェンしており、当初のものよりもリアル感が抑えられ、よりすっきりとしたデザインになっている。また、「味の素」の宣伝活動だけにとどまらず、2015年には味の素株式会社のコーポレートキャラクターに就任。現在は瓶だけでなく、持ち前のかわいさを生かして会社全体の広報や使い方訴求に力を注いでいる。

■料理系インフルエンサーの手元を彩る「アジパンダ

2023年現在、味の素株式会社は今まで以上に若年層への訴求を行っているという。特に、「味の素」や「アジパンダ」の拡散に効果的なのがインフルエンサーの存在。YouTubeやTikTokで活躍する料理系のインフルエンサーが動画内で「アジパンダ」瓶を使っていることで、若い世代からの知名度も上がっているそうだ。

「動画クリエイターの皆さんが『アジパンダ』瓶を使っているのを見たり、レシピに『味の素』と書かれているのを読んだりして、興味を持ってくださる方が増えています。料理研究家のリュウジさんに直伝の『味の素レシピ』を紹介してもらったり、インフルエンサーの方々を会社のキッチンに招いて料理してもらうといったコラボを行うなどして、宣伝活動に力を入れています」

また、昨今の健康ブームも、「味の素」の知名度向上のきっかけになっているという。「味の素」は料理に振りかけるだけでほかの調味料や食材のうま味を引き出すため、結果として減塩にも役立つのだとか。これまでは主婦や料理人といった常に料理に関わる人たちに使用されていることが多かったが、現在ではこれまで以上に幅広い世代の人に認知され始めている。

「『アジパンダ』の影響で若年層の使用が増えたことは、イメージキャラクターを起用したマーケティングの成功と言えるでしょう。『アジパンダ』を見て『かわいい』と思って手に取ってもらうだけでなく、インフルエンサーの紹介によって“何かよくわからない粉”から“料理に使える万能調味料”という認識に変わってもらえたことが大きいですね」

■「アジパンダ」瓶が“世界進出”する日も遠くない!?

今は24の国・地域に工場を展開し、世界中の生活者に「味の素」を届けている味の素株式会社。しかし、現在「アジパンダ」瓶が販売されているのは日本とフィリピンだけ。キャラクター展開はされているそうだが、海外にはまだまだ「アジパンダ」瓶は進出していない。その理由は、「価格や文化の観点もあるが、『味の素』が小袋サイズや1キログラムなどの袋品種で売られているから」だという。三科さんは「『アジパンダ』の今後の海外展開に、乞うご期待です!」と意気込む。

また、かわいいビジュアルに夢中になる“アジパンダマニア”も少なからずいるそうで、たまに限定品として発売されているオリジナルカラーをそろえている生活者もいるのだとか。過去には「金のアジパンダ」やピンク色の「アジパンナ」、そして黒色の「マジパンダ」が発売されており、新色が増えるたびに「1匹増えた!」と楽しんでいる人もいるそうだ。

「お客様ごとの楽しみ方をしていただき、大変うれしく感じています。これまで、『味の素』の売上は年々下がり気味でしたが、2005年に『アジパンダ』瓶に変わったことで売上が回復し、直近数年もさらに伸長しています。『アジパンダ』のおかげですね!今後もがんばってもらいたいと思います」

最後に三科さんは、「うま味で料理がおいしく、楽しくなることを訴求し、『味の素』の魅力をさらに発信していく」と今後の展望を話す。調味料の価値を世の中に伝え、より料理が楽しいと思えるようにしていくことが味の素株式会社のこれからの目標だ。そして、「アジパンダ」の夢は「健康的な暮らしと笑顔を広めること」。今後も、グローバルアンバサダーとして食の楽しさをさらに追求していくことだろう。

取材・文=福井求(にげば企画)