現在日本で議論されている「性交同意年齢」の引き上げ。子どもを性的搾取から守るために制定されている法律ですが、現在の13歳から16歳に引き上げることでどのような影響があるのでしょうか?

今回は「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんに、性交同意年齢の現状の制度や今後の変化について取材。100年以上変わっていないという日本の性交同意年齢の問題点とは?

「性交同意年齢」とは

性交同意年齢とは、性的な行為に対して法的に「性行為への同意を判断できるとみなす年齢」のことを指します。基本的に、「性交」同意年齢はセックスを指し、名称が似ている「性的」同意年齢はキスや体を触るなどが含まれるそう。

現在、日本では刑法で性交同意年齢は13歳と定められています。

性交同意年齢が必要な理由

では、性交同意年齢はどうして必要なのでしょうか?

福田さんは、性交同意年齢は「子どもを性的搾取や性暴力から守るという意味で必要」と説明しています。

「たとえば13歳以上の人が性暴力に巻き込まれた場合、今の日本の法律であれば、ものすごく抵抗したこと等が立証できなければ、犯罪として成立しません。しかし、『13歳の子が年上の人に対して反抗できるか』と考えたときに、全く現実的ではありませんよね。大人が『そのとき笑ってたよね』と言えば立証できなくなる可能性があるので、性交同意年齢は必要なのです」
「いくら性教育が進んでいたとしても、小学校を卒業したばかりの13歳、性的な面であらゆるリスクも理解した上で判断し自分の安全のために相手と交渉できるとは思えません。性的同意年齢を上げると、10代の年齢を否定するのかという議論もありますが、そうではなくて、特に年上の人間から性的行為をされたときに子どもたちをいかに守れるかという視点で議論すべきだと思います」

現在の日本の法律

現在の日本の法律では、「同意がない性行為」というだけでは、罪に問われにくい状況にあります。

強制わいせつ罪や強制性交罪等は、13歳未満であれば、わいせつな行為や性行為があった事実を証明できれば、罪として問うことが可能。しかし、13歳以上であれば暴行や薬物、脅迫、精神的な支配など、抵抗できないような状況にされていたと立証できなければ、罪には問えないというのが現状です。

たとえば14歳の子が父親からの性暴力を受け、そこで行為があったと認められたとしても、「まだ抵抗の余地があった」と見なされれば無罪になってしまう場合も。また、証拠不十分で立証できずに、裁判で戦えないケースもあるそう。

性交同意年齢が13歳であることの問題点

日本の性交同意年齢が13歳であることの問題点は、やはり「幼すぎる」という点。

「『この人は嫌だ』、『これは恋愛』という境界線は、人と関わるなかで自分で築き上げていくもの。そこに気づけて初めて同意ができるようになっていくはずです。13歳の時点でその判断できるかというと、やはりまだ形成途中。そのタイミングで自分の境界線を判断させ相手と交渉させるのは、難しいことだと思います」

また、13歳という年齢は年上の人から性的な行為を強要されても、それを被害として認識するのに時間がかかる可能性も。

「たとえば、グルーミング(性的な行為を目的として、大人が子どもを時間をかけて手なずけること)のように自分が慕う人から性行為をされた場合、相手が悪いことをしてると思うのも辛いですし、それを被害と気づくには知識も時間も必要になるでしょう」
「性暴力は『そのとき辛いだけ』と捉えられやすいですが、その後も人生は続いていきます。性暴力によって自分の境界線を築けない、あるいは壊されたまま生きることは、傷を抱えるだけでなく、あらゆる暴力に脆弱なまま生きることでもあるのです」

さらに、性交同意年齢が13歳と決められたのは、1907年のこと。100年以上もの間、年齢の引き上げがされていないことについて、「当時と今では、結婚や出産を経験する年齢も大きく異なります。今の法律は、子どもを守るものではなく、大人や加害者に有利なものでしかありません」と福田さんは語っています。

海外の性交同意年齢

諸外国の性交同意年齢は、15〜16歳がほとんど。アメリカでは州によって18歳と定められているところがあったり、2020年には韓国も13歳から16歳に引き上げられたりしています。

ほかの国と比較しても、日本の「13歳」という年齢は先進国の中でも非常に低いということが分かるはずです。

現在議論されている、性交同意年齢の引き上げ

昨年10月、性犯罪に関する刑法改正を議論する法制審議会が開かれ、改正内容の試案が示されました。

そこでは、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制性交等罪の要件の改正等に加えて、性交同意年齢の引き上げについて議論されています。

性交同意年齢に関する試案


性交同意年齢は16歳に引き上げ
13〜15歳の場合は、相手との年齢差が5歳以上の者を処罰対象とする

福田さんは、試案についてこう話します。

「20代以降と13〜15歳での『5歳差』は感覚が違いますし、5歳差以内であればいいのかというのも疑問に思います。個人的には、試案にある『対処能力』の判断基準や、どこまで『被害者を守る』視点に立てるのかが非常に難しいところだと感じています」

性交同意年齢が16歳に引き上げられた後も、その法律に則り、必ずしも被害者が守られないのは今と同じ。社会全体として「同意のない性行為はしない」という風潮がなければ、被害者の泣き寝入りは減らないと警鐘を鳴らします。

性交同意年齢の認知拡大のために

実際、教育の場では性交同意年齢について話されないことが多いそう。それ以前に、「性的同意」をしっかりと取ることや、性暴力の残す傷跡の深さについて認識する必要があると福田さんは言います。

「個人的には、なぜ性暴力がいけないのか、どれほど人生に大きな影響を及ぼすものなのかがまだうまく伝わっていないのではないかなと思います。性暴力の被害者は毎日苦しんで生きているのに、相手は“ただのセックス”の認識のままだったり、それをしたことでさえも覚えていないかもしれない可能性もあります」

学校教育以外の場では、家族や親戚など身近な人とオープンに話せる環境を作っておくことが大切。また、性交同意年齢の低さについて声をあげることも私たちができることの一つでしょう。

相談窓口

■性犯罪被害相談電話Tel. #8103

男女共同参画局による公式サイト※相談に関するQ&A、警察や病院に行く時に持って行った方がいいものなどが解説されています。