元保険営業のシングルマザーが、まったく異業種の会社でCEOに大抜擢されたワケ

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女性活躍が遅れているといわれるインフラ業界において、今年4月にビックデータと AI を使って水道管路劣化診断技術を提供し、老朽化した水道管の更新を優先順位付けして交換投資の最適化を図るフラクタの日本法人で、新CEOに抜擢された女性がいます。それは、保険会社で営業をしていた伊藤陽子さんです。シングルマザーで仕事と育児を両立しながら日々奮闘してきた伊藤さんが、なぜまったく異業種のインフラ関連企業でCEOに抜擢されることになったのでしょうか? ご経歴からお仕事のポリシーまでお話を伺いました。

■インフラもITも未経験ながらCEOに大抜擢

――伊藤さんは、4月にフラクタ日本法人のCEOに就任されました。シンデレラ・ストーリーのような大抜擢だと聞いていますので、ストーリーを伺うのが楽しみです。まずは、フラクタの業務内容について、簡単に教えていただけますか。

「シンデレラというより、成り上がり」と言われますが(笑)。

フラクタは、AIで水道配管などの劣化予測を行い、設備交換が必要な箇所を予測するソフトウェア開発会社です。

――なんだか難しそうですね。

従来、水道管の交換時期などの判断は、現場の技術者の経験と勘に頼っていました。配管の素材や使用年数などのデータをAIに組み込むことで、水道管の状態を誰でも把握できるように「見える化」するのが当社のシステムです。

――水道管の管理を「デジタル化」、「見える化」することで、効率的に設備投資と作業ができるのですね。本社はアメリカのカリフォルニアにあるそうですね。

2015年に加藤崇(現会長)がシリコンバレーで創業しました。フラクタのサービスは、すでにアメリカの28州70社を超える水道事業者が導入し、高く評価されています。日本では、栗田工業株式会社さんに出資していただいています。

――シリコンバレー、AI、水道……。伊藤さんは、元々そういう世界で活躍してきたのでしょうか。

いえいえ。高卒のシングルマザーとして、生活費を稼ぐために必死で働いていましたが、パソコンにも疎いアナログ人間で、インフラ業界も全く知らない世界でした。

■子育てと仕事を両立しながら営業成績トップに

 ――その状態から、いきなりのCEO就任。そんなことって、あるのですね! これまで伊藤さんはどんな仕事をされてきたのですか。

県会議員のうぐいす嬢からスタートし、その後、郵便局でアルバイトをしました。担当は苦情窓口。ストレスで円形脱毛症になりましたが、経験を積むうちに、「ひたすら相手の話を聞けば、満足してもらえる」ということを学びました。

――苦しい仕事の中にも、学びがあったのですね。その後は?

23歳で結婚し、翌年に長女を出産。27歳から仕事をはじめたが、のめり込みすぎて子どもに目をかけられなくなり、再び郵便局でパートをしていたときに、生命保険会社の説明会に誘われて、転職したのが33歳です。その後、2度目の結婚・離婚を経て、3児のシングルマザーになりましたが、子育て中の女性にも理解のある会社だったので、学校行事への参加はもちろん、PTA活動にも取り組めました。

――子育てと両立しながら、営業成績は名古屋地区トップになるなど、輝かしい実績を残していますね。伊藤さん流の営業のコツは?

事前にお客様のお家に行って、下調べをしていました。置いてある自転車から、家族構成や生活スタイルを予測して、喜ばれそうな商品を準備するのです。もちろん、郵便局の苦情係で培った聞くスキルも活かされました。

■生保の営業からインフラ業のCEO に就任できたワケ

――生保で営業をしていた伊藤さんが、どういう経緯でフラクタのCEOに就任したのか。そのストーリーをお聞きしたいです。

ある日、知人に「フラクタという会社が、CEO候補を探している。保険営業で実績がある女性を希望しているから、エントリーしていいか」と聞かれて。実はその知人、ヘッドハンターだったのです。選ばれるわけがないと思ったので、「どうぞ」と伝えました。

――すると選ばれてしまったのですね!?

何度も断りましたし、真剣に悩みました。私は、水道もAIもわからないし、名古屋から離れたくないし。もちろん、400人を超える保険のお客様への責任もあります。それでも、オンラインで加藤に、「名古屋が拠点でもいいから」などと説得されて。

――熱烈に口説かれた末の、覚悟の承諾だったのですね。加藤会長は、伊藤さんに何を期待していたと思いますか。

「女性に寄り添ってくれたらいい」と言われました。加藤は、女性が活躍できる社会にしたいという思いを持っていますし、性別、環境、学歴などに縛られず、「フェアであること」を大切にしていて、私もそこに共感できました。

働く女性たちを応援できる会社にしたい

――インフラ業界は女性が少ないことで知られていますが、女性CEO として、やりにくさは感じますか。

私はむしろ、女性であることで歓迎されていると感じます。水道は生活に密着したインフラですから、本来は女性にも身近な業界だと言えます。

――加藤会長の「女性に寄り添ってくれればいい」という言葉、伊藤さんはどのように実現できそうですか。

女性が安心して働ける会社を目指しています。また、私にとっての原動力は子ども達ですから、社員のお子さんにも、「ここで働くお母さんかっこいい」と思ってもらえる会社にしたいですね。女性が楽しくお金を稼げる社会になればいいと思っています。

――お話を聞いていると、伊藤さんのCEO就任は、必然だったとしか思えません。最後に、フラクタの今後のビジョンを聞かせてください。

日本全国の水道局に、当社のシステムを導入してもらうことが目標です。また、安心・安全なインフラ環境を支えるこの業界に、光が当たれば嬉しいですね。

(みきてぃ<なまず美紀>)