「その発言、アウト!」初デートで女が凍り付いた、男の“ありえない言動”とは
-理性と本能-
どちらが信頼に値するのだろうか
理性に従いすぎるとつまらない、本能に振り回されれば破綻する…
順風満帆な人生を歩んできた一人の男が対照的な二人の女性の間で揺れ動く
男が抱える複雑な感情や様々な葛藤に答えは出るのだろうか…
◆これまでのあらすじ
商社マン・誠一は、婚約者・可奈子が仕向けた刺客だということを知らずに、魔性の女・真珠にのめり込んでいく。真珠と誠一の間に芽生えてしまった恋心は一体どうなるのか…?!
「翻弄」
「どうしたんですか?マリッジブルーですか?」
後輩の声がイヤホンに響き、僕はハッとしてPC画面を覗いた。
どうやらオンラインミーティングが終わった後もカメラをオフにするのを忘れ、物思いに耽る姿を画面越しで見られていたらしい。
「いや、別に。そういえば松永さ、結婚して1年くらいだよね、ぶっちゃけどうなの?色々と」
「ぶっちゃけラブラブですよ。やっぱ全てがタイプなんで飽きないんですよ。喧嘩しても顔がタイプだと許せるし」
僕は机周りを片付けながら空返事をした。大学の後輩でもある松永は、一年前に慶応の準ミスと結婚し、女遊びをパタリと止めていた。
「“タイプの女”と結婚すれば間違いないっすよ。男が惚れてる方が絶対うまくいきますから。そういえば、いいとこのお嬢さんと結婚するんですよね。彼女、どんな感じなんですか?」
後輩に話をふられ、婚約者である可奈子の顔を今日初めて思い浮かべた。 しかし、すぐに真珠の顔が脳裏に浮かんでしまう。
「あー、わりぃ、そろそろ時間だから切るわ。先方に電話いれといてね」
「お疲れっす」
真珠に指定された“18時”に間に合うように17時半ぴったりに仕事を切り上げ、急いでタクシーに乗り込み、待ち合わせ場所である“僕がずっと行きたかったある場所”へ向かった。
婚約者に内緒で、他の女と初デート。誠一が口にしてしまった“アウトすぎる”問題発言とは…!?
『SUGALABO』は、「ラ・リスト」で世界一のレストランに選ばれた。ずっと行ってみたいと思っていたのだが、何度電話してもなかなか繋がらず、次の予約は来年という超人気店だ。
店に入り、先に到着していた真珠と目が合った瞬間、僕の心は華やいだ。
真珠は身体のラインにぴったり沿った黒いワンピースに、大きな一粒ダイヤのネックレスとピアスを合わせており、そのシンプルさが余計に色気を引き立たてていた。
婚約指輪を選ぶ際に詳しくなったのだが、ダイヤというものは1カラットで100万円以上するらしいが、真珠が身につけているものは全て1カラットを優に超えており、眩しいほどの輝きを放っている。
「初デートに、乾杯♪」
真珠はあの日と同じく悪戯な笑みを浮かべ、シャンパングラスを傾けた。
「今日が初デートなんて嘘みたいよね。私たち、キスの相性が良いことは知っているけど、それ以外は何も知らないのよね」
真珠はこちらの目をじっと見つめながら、ドキっとすることを恥ずかしげもなく言ってくる。
そうかと思えばキャビアの最中を美味しそうに頬張り、もう僕の方は見ていない。この目まぐるしい表情の変化と感情の乱高下が繰り返され、僕は真珠に翻弄されているのだ。
「真珠のことをもっと知りたいし、僕のことも知って欲しい。今日はゆっくり色々話そう」
プレジデンシャルスイートで良い雰囲気になったあの夜、『貴方のこともっと知りたいから、このまま先に進みたくない』と言われた時の情景が鮮明に蘇った。
「そうね、じゃあTruth or Dareしましょ。知ってる?」
真珠はネイティブ並みの発音の良さで、“真実か挑戦か”というアメリカで有名なゲームを提案してきた。 帰国子女である彼女にとってお気に入りのゲームらしい。
「もちろんだよ。じゃあまずはお互いのことを知りたいからTruthで」
「では、始めます。『オークドア』で隣にいた女の子はだぁれ?」
「えっ」
初っ端からジャブなしでストレートパンチを食らい、僕は一瞬たじろいだ。
「Tell the truth」
真珠は僕をからかうかのように笑っているが、瞳の奥は真剣で、全てを見透かされているような気分になった。
「真珠に嘘は通用しなさそうだから、正直に話す。彼女だよ」
僕は真珠の真剣な眼差しに導かれるように、真実を告げていた。
「あら、正直ね。その子のこと、心の底から好き?」
真珠は先ほどとは打って変わって顔から笑顔を消し去り、何とも言えない表情でこちらを見つめてきた。
「好き…ではない」
-でも、愛してる
喉元まで出かけたその言葉を、僕は口に出すことが出来なかった。しかし、真珠の真っ直ぐな眼光によって真実が炙り出されてしまう。
「実は…、彼女は縁談で決まった婚約者なんだ。性格も育ちも良くて俗に言う“結婚向きの女”ってやつ」
こんなことを真珠に告げるつもりは、毛頭なかった。それなのに、誰にも言えなかった本音がポロポロとこぼれ落ちる。
「僕は、今まで結婚と恋愛は別だと思っていたから割り切ってお付き合いしていたんだけど、真珠と出会ってわからなくなってしまったんだ。彼女に対して愛おしさは感じるけど、恋愛感情は全くない。僕の本能は、真珠を求めているような気がする」
真珠は僕の返答を聞き、一瞬戸惑うような表情になった。そして畳み掛けるように問いかけてきた。
「私のこと、どう思ってるの…?」
誠一は、なんと答えるのか…。2人の間に勃発したまさかの修羅場とは…!?
「…好きだよ」
僕の口から素直な気持ちが、勝手に漏れだしていた。
出会った日から今日まで、真珠のことが頭から離れず四六時中考えているし、真珠と会う度に胸が高鳴る。“好き”という気持ちは紛れもない“真実”だった。
しかしその瞬間、真っ直ぐにこちらを見つめていたはずの真珠の眼が泳ぎ、視線を逸らされた。
真珠は、見たこともないような切ない表情を浮かべ、僕に問いかけた。
「誠一にとって“好き”ってなんなの?」
「なんだろう…ドキドキするとか、僕のモノにしたいとか、触れたいとか、そういう気持ちかな。ていうかなんで真珠ばかり質問してるんだよ。次は僕の番ね。好きな食べ物は?」
恥ずかしくなった僕は、自分の発言をかき消すように話題を変えると、真珠は「なんてつまらない質問なの」と言ってクスクス笑い、いつもの調子を取り戻した。
「好きな食べ物は赤ワインよ」
真珠はニコッと笑うと、手元の赤ワインを一気に飲み干した。
「真珠はさ、相性が良くない相手と結婚できる…?」
「私は無理かな。スキンシップは愛情に直結するから、結婚を考える上で一番重要視してしまうわ」
黙ったままの僕を見て、真珠は気まずい雰囲気を打破するように、わざとらしいほど明るく笑った。
「はぁ〜美味しかった!」
薩摩牛をペロリと平らげた後に特製カレーで〆、デザートは福岡無花果『とよみつひめ』のアールグレイに宮崎マンゴーのババ・オ・ラム。
満足気な表情をした真珠を横目に、僕の前にそっと置かれた伝票に目をやると、お会計は10万円を優に超えていた。
真珠はこちらを気にする素振りも見せず、真っ赤なネイルを見つめている。
そして店から出た途端、真珠は他人行儀になり、サッと手を挙げてタクシーを止めた。
「じゃあね、バイバイ」
真珠はあの時のような切ない表情を浮かべ、タクシーに乗り込もうとした。何故だかもう二度と会えないような気がした。
「えっ!?ちょっと待てよ」
僕は咄嗟に真珠の腕を掴んだ。
「今日も突然消えるの?…お礼も無しに?」
意味不明な真珠の行動に苛立ち、僕は思わず皮肉を付け加えた。
「え?お礼?お礼を言うべきなのは貴方の方でしょ。僕と会ってくれてありがとうって。予約の取れないお店をリザーブしてくれてありがとうって」
「は?なにそれ。真珠ってやっぱりそういう女なんだな」
「そういう女ってなによ。私は男の言葉は信じない、行動しか信じない女なの。どれくらい時間とお金を使ってくれたかで愛を測るのよ」
暗闇の中で真珠の大きなダイヤがギラリと輝き、それはきっと男からの愛情の証なのだろうと腑に落ちた。
「貴方は私に好きと言ったけれど、どうせ彼女にも愛してると言ってるんでしょ?」
思わず絶句してしまった僕に、真珠は勝ち誇ったような目でこちらを見つめてくる。
「ほらね、言葉なんて何の意味もないでしょ。行動が全てなの」
そう言い残し、タクシーに乗り込もうとする彼女の背中に向かって僕は叫んだ。
「彼女より真珠のことが好きだという気持ちは紛れもない真実なんだ。彼女とは別れる。だからもう、突然消えないでくれ。一秒でも長く一緒にいたいんだ。せめて家まで送らせてくれないか」
僕は真珠の手を引き、彼女を抱き寄せた。すると、真珠は僕の耳元で囁いた。
「Do you “dare”?(その覚悟あるの?)」
僕が頷くと、真珠は呆れたように言った。
「How dare you(よくもまぁ!)」
一部始終を見ていたタクシー運転手に呆れ顔で急かされ、僕たちはタクシーに乗り込み真珠のマンションへと向かった。
着いた場所は、六本木ヒルズレジデンスだった。
「私、こういう女なの。それでも好き?」
真珠はアンニュイな表情を浮かべ、僕を試すように言い放った。
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真珠は一体何者なのか…。彼女の口から真実が明かされる?!
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