あなたは、出会ったことがないだろうか?

高収入・高学歴・見た目も悪くない。客観的に見ても女性からモテそうで、結婚していない理由はどこにも見当たらない男性に。

そんな彼らは、口を揃えて「いい人がいたら結婚したいと思ってるんです」と言うのである。

本連載では、彼らに「なぜ結婚しないのか?」という質問をぶつけ、その核心に迫る…!

これまで2日間同じおかずを食べられない、潔癖症気味な男を紹介した。さて、今回は?




Vol.9 青山のタワマンに住む男


名前:稔(35歳)
職業:大手メーカー勤務
推定年収:900万

水曜18時半。待ち合わせの『インペリアルラウンジ アクア』に稔さんは、5分前に現れた。

「僕はいつもだいたい定時で会社を出ますから、平日の夜はいつものんびり過ごしていますよ」

仕事帰りだが疲れた表情もなく、いつもはこの時間からゆっくりと一人で過ごすそうだ。大手メーカーで働く稔さんは、ワークライフバランスが取れた生活を送っている。

朝は5時に起きてジムに行ってから出勤し、帰れるときは定時の17時半になると会社を出て、ゆっくり本を読んだり、セミナーに参加したりするとのこと。何もない日は、寝るのは22時。30代のサラリーマンにしては、随分と規則正しい健全な生活を送っているようだ。

有給もしっかり消化。長期休暇を利用して海外旅行にも行く。

「なんだかんだいって大企業の良さってやっぱりありますよね。僕は安定した会社だからこそ自分の人生を楽しんでいるタイプです。もちろん仕事もやっていますよ、ちゃんと!」

若手のときは今より忙しかったようだが、役職が上がったいま、時間的にはかなり余裕ができたとのこと。プライベートは充実していそうだが、35歳を迎えた今、結婚を考えている相手などはいるのだろうか?

「結婚ですか?まあ、いい人がいたら結婚したいとは思いますけど、今の生活に満足しているので。このペースを崩してまで結婚したいと思う人がなかなかいないんですよね…。あと自分はそんなにモテるわけでも、特別出会いが多いわけでもなかったので」

稔さんは、男子校から東京理科大に進学。

男ばかりに囲まれた生活を送ってきたこともあり、社会人になっても華やかな場や、女性を積極的に誘うことなどが苦手だったそう。

「もちろん誘われたらお食事会には行きますし、それなりに婚活をしていた時期もありました。でも鳴かず飛ばずでしたね」

ところが、あることをきっかけに彼は急にモテるようになったという。


それまでモテなかった稔さんに、急に女性が近づいてくるようになったわけとは?


「30代に入ってもなかなかいい人に出会わなかったので、結婚はあきらめていました。だから、3年前に一生独身を覚悟して青山にマンションを買いました」

ところが、この家を買ったことがきっかけで、人生が変わり始めた。女性から言い寄られることも増えたと言う。

「結局、今の家が気に入っているのでこの家から出たくないというのが、結婚を躊躇する一番の理由です」

それなら、結婚したらその家に一緒に住めばよいのでは?と尋ねると、稔さんはこう答えた。

「…実は6歳年上の姉がいて、その姉と共同購入して一緒に住んでるんです。共同購入すると1人で買うよりはるかにグレードが高い部屋が買えますから」




ようやく、彼が結婚しない理由が明らかとなった。お姉さんには結婚願望がないのだろうか?

「姉は外資系コンサルティング会社で働いていて、かなりのキャリアウーマンなんです。35を過ぎたときに、一人で生きていく覚悟を決めたみたいで。共同購入の話を持ちかけてきたのは姉の方からです。姉の恋愛事情は、詳しく知らないですけど、結婚する気は全くないように見えます」

お茶やお料理を習い資格をとったり、キャリアアップのためのスクールに通ったりとプライベートと仕事に充実した生活を送っているお姉さんを見ていたら、稔さんもそんな人生もいいかなと考え始めたそう。

身近に独身を謳歌している人がいると、自分も影響されるという典型的な例だろうか。

ところが、嬉しい誤算だったのは、マンションを購入してから稔さんがモテるようになったことだという。

「メーカー勤務というと、女性の反応はこれまで『へー』って感じで普通でした。でも、青山のタワマンに住んでいるというと、急に女性の反応が変わるんです。お食事会とかでのヒット率が全然変わってきて。最近では、食事のあとマンション内のラウンジで飲み直すのが僕の定番デートパターンです」

女性は、男性の部屋にあがることは躊躇するのに、マンションのラウンジだと警戒心がなくなるのが不思議だと語る。

「姉と一緒に住んでいることは親しくなってから言うので、副収入があるとか、実家が金持ちだとか勝手に推測するみたいで。加えてすぐに部屋にあげないから紳士的な人って思われるようで…」

独身覚悟で家を買ったら、モテるようになった稔さん。とは言っても結婚したら共同購入してしまったマンションをどうするかという問題があり、なかなか結婚を決意できない。

それに加えてもう一つ問題があるという。


稔さんが結婚できない、もう一つの問題とは?


「実は…1年前から、姉だけじゃなくて母も一緒に暮らすことになって」

2年前に父が亡くなり、寂しいだろうと川崎に住んでいた母を一時的に呼び寄せたら、そのまま住み着いた。3LDKだからスペース的には問題はないが、結局住んでいた川崎のマンションを売り、今は完全な3人暮らし。

まだ実家暮らしであれば、結婚したら自分が出ていくだけですむが、自分の持ちマンションとなると余計に話がややこしくなる。

姉か稔さんが結婚した時点でこの快適なタワマン暮らしは崩壊する。そのため、2人が結婚しないことを前提に成り立っている3人暮らしなのだ。

だから彼女を連れてくると、稔さんの姉と母は口うるさくチェックする“姑と小姑”となるらしい。言わばこの3人暮らしを崩されないような見張り役。

「前に、彼女を紹介したら『あんな人やめておきなさい』って散々言われて…。まあ母と姉の見る目が厳しくなるのも、しょうがないかなと思っているんですけどね」

取るに足らないような文句を、必ずつけてくるそうだ。

稔さんも今の家が快適なため、彼女が出来ても、家問題があるから今すぐ結婚というわけにはいかない、と結婚については濁しているとのこと。




それに加え、家に帰ったら食事もあり、綺麗な部屋をキープできる快適な3人暮らしは、居心地がよくやめられなさそうだ。

その証拠に付き合っている彼女がいたとしても、必ず終電に間に合うように家に帰ってくる稔さん。自分の快適な生活ペースが乱されることが苦手なため、彼女の家に泊まることもないそう。

「家のベッドで寝るほうがよく眠れるし、外泊とか落ち着かなくて。本当は規則正しく22時くらいに家に帰りたいのですが、最大限譲歩して終電で帰るようにしています。彼女からは『まるで私、浮気相手みたい』と文句を言われますけどね」

彼女が生活の中に入り込む余地がないようにも思える。

「この快適なマンション暮らしを捨てて、母と姉が『彼女ならしょうがない』と思ってくれる人じゃない限り結婚できないですね。それか、母と姉と僕と4人で一緒に住んでくれるような器の広い女性ですかね…」

現実的には、すぐに結婚というのは難しい状況であろう。物理的に結婚できない状況を自ら作り出してしまった稔さんであった。

稔さんが結婚しない理由は、『母と姉と一緒に住んでいる家が快適すぎるから』というものであった。

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