ー女の市場価値は27歳がピーク、クリスマスケーキの如く30歳以上は需要ゼロなんて、昭和の話でしょ?ー

20代の女なんてまだまだヒヨッコ。真の“イイ女”も“モテ”も、30代で決まるのだ。

超リア充生活を送る理恵子・35歳は、若いだけの女には絶対に負けないと信じている。

周りを見渡せばハイスペ男ばかり、デート相手は後を絶たず、週10日あっても足りないかも?

しかし、お気に入りのデート相手・敦史が26歳のCA女を妊娠させたことをきっかけに、バツイチの元彼・新太郎に馬鹿にされたりと、災難が続く理恵子。

とうとう友人の茜の夫に男を紹介してもらおうと目論むが、新たなトラブルが発生した。




「アキラくんが土下座して謝るまで、私、絶対に家に帰らないわ」

六本木ヒルズの『ル・ショコラ・アラン・デュカス』で落ち合った茜は、ドスの効いた声でそう言い放った。

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ...。土下座はさすがに大袈裟じゃない?」

古い友人の茜は2歳の息子持ちの専業主婦であるが、理恵子が原因で夫と口論となり、なんと家出をしてしまったのだ。

というのも、理恵子は軽い気持ちで茜の夫に好条件の男の紹介を頼んだのだが、彼は「35歳の女なんて俺の友達に恥ずかしくて紹介できない」と返答したらしい。

その言葉には理恵子もだいぶショックを受けたものの、茜自身があまりに感情的に激昂しているため、なぜか失礼な夫をフォローする羽目になっている。

「私、アキラくんが年齢で女を判断する男だなんて思ってなかった。そもそもあの人は、男尊女卑思考が強いし、瑛太が生まれてから私を完全に家政婦扱いしてるの。しばらく孤独にさせて、痛い目みればいいんだわ」

茜はそう言って、夏季限定の濃厚ショコラがたっぷり入ったかき氷を一気に貪り始める。

日頃の鬱憤が爆発した人妻ほど、扱いに困る女はいない。

理恵子はそんな事実を痛感しながら、大きな溜息をついた。


目覚めた“ヤバい”人妻の、面倒臭すぎるお願い事とは...?


夫婦喧嘩で目覚めた“ヤバい”人妻


「それより理恵子。もうアキラくんのことなんてどうでも良いから、私を久しぶりに楽しいお食事会に連れてってくれない?お願いっ」

「は...?」

「だってね、今は実家で親が喜んで瑛太の面倒見てくれるの。こんな機会滅多にないから、たまには外の世界を満喫したいのよ!!」

茜は身を乗り出し、縋るように理恵子に懇願する。

茜の実家は文京区の茗荷谷にある。幸い、一人娘の彼女は昔から親に溺愛されていたから、子連れで出戻った娘を両親はむしろ大喜びで受け入れたらしい。

「で、でも...。子持ちの人妻がお食事会なんて、大丈夫なの?万一アキラさんにバレたら、さらに面倒なことになるんじゃ...」

理恵子はできるだけ当たり障りなく穏便に断ろうとしたが、茜はすでにノリノリで目を輝かせている。




困ったものだと、理恵子は頭を抱えたい気分になる。

実際、理恵子の友人でも、稀に人妻で食事会に参加する女がいる。だが、そういう女にはだいたい子どもがおらず仕事もしていて、何より年齢に負けない20代並みの美しさを誇っていた。

もちろん既婚であることを変に隠すわけでもないが、独身の男たちの中に混じっても浮くようなことはなく、仕事の会話にもすっと馴染む能力もある。要は、独身と変わらぬテンションで男と接することができるのだ。

だが、茜はどうだろう。

とても本人には言えないが、結婚と出産を経て、茜は外見も内面もかなり変わった。おそらく軽く5キロは太っただろうし、ヘアメイクやファッションも手を抜いており、一言で言えばかなり野暮ったい女に劣化しているのだ。

そして、LINEのプロフィールが息子の写真という“母親全開”の彼女が、理恵子主催のハイスペ男たちの食事会に参加するなんて上手く想像できない。

「ねぇ、約束よ。明日でも明後日でも週末でも、いつでも大丈夫だから。あぁ、楽しみ〜」

だが、茜の家出の原因は自分であるという引け目もあるため、理恵子はキッパリ断ることもできなかった。

「...わかった。ちょっと知り合いに聞いてみるわね」

そして理恵子は、先日かなり良いムードになった年下のスタートアップ経営者・純也に連絡を取ってみることにした。


食事会に現れた人妻の、意外すぎる姿とは...!?


「理恵子さんから連絡もらえるなんて嬉しいなぁ!この前は急に帰っちゃったから、もう会ってもらえないかと落ち込んでました...」

スマホに響く純也の声は、相変わらず理恵子への好意で溢れている。

「ごめんなさいね。あの日はちょっと、友人にトラブルがあって...」

先日彼とはかなりイイ感じになったが、タイミング悪く茜の電話によってムードをぶち壊されたため、結局何も進展せずに終わっていた。

だが、純也はそんな理恵子に嫌な顔一つせずにタクシーで家まで送り届けてくれたりと、終始紳士な姿勢を崩さなかったため、好印象が残っていたのだ。

「そういうことなら、僕に任せてください!ノリのいいイケメン集めておきますから。でも、代わりに今度は二人で食事に行きましょうね」

さらに純也は、茜の事情を説明すると、快く人妻との食事会のセッティングを引き受けてくれた。

-年下なのに、なんて物分かりのいい子なの...。

理恵子は彼の爽やかな声を聞いていると、ほんの少しだけ胸がトキめいてしまった。


“ママ”の激変


「理恵子、お待たせ〜!!」

後日、食事会に向かうために茜と待ち合わせた理恵子は、思わず彼女を三度見した。

というのも、茜の外見が180度様変わりしていたのだ。




艶々とした肌に、きちんと手入れされた巻き毛。メイクも夏らしく爽やかに決まっており、ノースリーブから覗く二の腕も真っ白で色っぽい。

そして、彼女がピンヒールを履いているのも数年ぶりに見た気がするが、その脚もスラッと引き締まっていた。

「ちょっと、気合い入れすぎちゃったかしら...」

そう言ってペロッと舌を出す仕草も、現役時代、まるでタレント顔負けの美少女だった茜を彷彿とさせる。

「一体どうしちゃったの。ずいぶん綺麗になっちゃって...」

「だって、“リエコ様”の食事会に行くのよ?普段のダサい格好で行けるわけないじゃない。それにね、親が瑛太を見ててくれるから、美容院にもエステにも行けたの。

オマケに朝と夜に1時間ずつランニングして食事制限したら、一気にかなり痩せちゃった!」

キャッキャと微笑む茜を見て、理恵子は先日の彼女に対しての批判的な思いを心の中で反省した。

「茜は、ママになっても本当に可愛いね」

謝罪の代わりにそう言うと、茜は嬉しそうに腕を絡ませてくる。

かと言って、人妻を食事会へ連れて行くことにはまだ躊躇いがあった。

たが、“母”として忙しい日々を過ごしてきた親友が、少しでもリフレッシュできればそれでいいと、理恵子は心から願った。


ボランティアのつもりで開催した食事会で、まさかの事件勃発。人妻の爆弾発言とは...!?


だが、しかし。

当初よりも平和な気持ちで参戦した食事会は、思いも寄らぬ方向へと進んで行った。

「えぇっ!茜さん、お子さんがいらっしゃるんですかっ!?こんなに可愛いのに!?信じられません!!」

お相手の男性陣の人気が、なんと茜に集中したのだ。

今年3月にオープンしたばかりのお洒落な和食店『shokkan 龍土町』の個室は、茜を取り巻く男性の歓声で盛り上がる。




「そ、そんな...私なんて、もうただの“お母さん”だから...」

茜は口ではそう謙遜するが、ピンク色の唇に指をあて、上目遣いに男たちを見つめるその仕草は完全に“オンナモード”である。

「いやいや、こんなに綺麗なママさん見たことないですよ。もしかして、有名なママ雑誌のモデルさんとか!?」

通常は理恵子に向けられるはずの称賛の言葉を、ママの茜は1.5倍増しで浴びているようだ。

今夜は後輩の麻美も呼んでいたが、彼女もつまらなそうな顔でビールを煽っている。

「っていうか...“人妻”って、響きがお得じゃないですか?男は好きですよね。それに30過ぎで独身の私たちと違って、重くないし...」

麻美は男たちに聞こえぬよう、理恵子に小さく囁いた。

「え、重い?私たちが?どうして?」

「あったりまえじゃないですか。だって私たちは、男たちに否応無く結婚のプレッシャー与えるんですから。20代の独身女なら話は別ですけど...。だから、今日は茜さんの一人勝ちですよ」

「そ、そうなの?男の人って、そんなこと気にするのかしら...」

理恵子は麻美の分析に疑問を持ったが、たしかに今日は純也の絡みも前回よりずっと少なく、むしろ茜とばかり会話している。

茜のための食事会であるから、彼は敢えて気を使ってくれているのかと思っていたが、違うのだろうか。

「理恵子さんって意外と鈍感なんですね。女は30過ぎたら、世間のヒエラルキートップは断トツで“ママ”ですよ。その次が人妻で、独身なんて底辺ですから。まぁ、茜さんみたいに綺麗なのが大前提ですけど...」

「でも...結婚も出産も、ただの選択肢じゃない。自分をそんな風に貶める必要ないでしょう?麻美は仕事だって人一倍頑張ってるのに...」

理恵子は本心からそう言ったが、彼女は「なんでもっと早く結婚しなかったんだろう」と大きく溜息を吐きながら、怨めしそうに茜を見つめていた。


人妻の爆弾発言


「あぁ〜、今夜は楽しかった!理恵子、本当にありがとうね」

理恵子と麻美以外は大盛り上がりの食事会であったが、時刻が21時半を過ぎた頃、茜が突然帰ると言い始めたため、その場は早急にお開きとなった。

ママである茜の手前か、男性陣も特に二次会を提案するでもなく、やけに健全な解散だった。

「じゃあ、まだ時間も早いし、私と麻美はもう一杯飲んで行くから」

そしてある事件が発覚したのは、こうして独身組と茜が別れようとした時だった。

人妻が、突然爆弾発言を投下したのだ。

「でも...わざわざ私なんかのためにゴメンね。理恵子も麻美さんもつまらなかったでしょう?私のせいで、男性はみんな既婚者だったもんね...」

「え!?既婚者っ!?!?」

大声で叫んだのは、理恵子でなく麻美の方である。

茜は咄嗟に「マズイ」と思ったようで、気まずそうに笑顔を引き攣らせるが、時すでに遅しだ。

「あれ…まさか二人、知らなかった?で、でも、全員が既婚者ではなかったの…カモ?」

そうシドロモドロに答える茜の声が、どこか遠くの彼方に聞こえる気がする。

―また、このパターンなの...?

そうして理恵子は言葉を失ったまま、夜の六本木通りに呆然と立ち尽くしていた。

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男性陣が既婚者であることを、茜だけが知っていた意外な理由とは...?