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FASHION-modeにて不定期連載中の「journal by林央子」。以前掲載の『水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告』に引き続き、林央子の著作『拡張するファション』(スペースシャワーネットワーク)を元に企画された「拡張するファッション」展が巡回中(会期:6月14日〜9月23日)の四国・香川県 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)で、展示や作家との交流から林央子が捉えた“新たな視点”を数回にわたって紹介していく。

撮影:ホンマタカシ
Susan Cianciolo 《Castle in the Sky's, Modular Geometry》2014
MIMOCAでの展示風景(部分)


丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)に巡回して開催中の「拡張するファッション」展。その設営のために今年6月、水戸芸術館に続きニューヨークから二度目の来日を果たしたスーザン・チャンチオロは、この美術館の礎であるアーティスト、猪熊弦一郎の作品にインスピレーションを得て、「私なりの新しい解釈による壁画(mural)」を完成させた。

大型クレーンに乗りながら、壁に直接描いた幾何学模様。日々インスピレーションを描きとめていく手帖からの切り抜き。娘の落書きが残された紙。過去の様々なスーザンの活動を振り返る写真。何着かの衣服。それらすべてがMIMOCAの3階展示室に入って正面の、高い天井に伸びやかに、かつリズミカルに展示されている。

幾何学模様はスーザンが1995年に創始したRUNコレクションの初めから繰り返し、彼女の服やスケッチに頻繁に登場しているモチーフでもある。しかし今回、彼女が改めてMIMOCAに巡回した「拡張するファッション」展で、幾何学模様を基軸として構成した壁面作品は、猪熊弦一郎の美術館での彼の作品との出会いに触発されたものだという。設営作業の過程を見守ったキュレーターの古野華奈子さんは、「猪熊は、1950年代、50歳代でニューヨークにわたってから、具象的表現から抽象的表現へと向かい、絵画作品の中にマルやシカクというモチーフが繰り返し登場するようになりました。拡張するファッションの展示でニューヨークからMIMOCAに来たスーザンは、猪熊の作品に強い反応を示していました。都市に生きて行くうえで、何を美しいと思うか。その点において、二人の作家のなかに、時代をこえて呼応し合うものがあったのだと思います」

左写真: 撮影:ホンマタカシ

猪熊弦一郎の作品との出会いが今回の展示のインスピレーションになったと語るスーザン自身は、時代と国を超えた二人の作家の共通点について、どう考えているのだろうか?

「私はGenichiroと同じように、日々の人々の生活のなかに、美を見つけます。ニューヨークはアーティストが多く住んでいてエネルギーにあふれ、たくさんの展覧会が行われている、活気に満ちた街です。Genichiroも、私が今そうしているように、この街とこの街に住む友人に刺激を受けたのだろうと思います。日々の暮しぶりは、絵画に反映されます。というのも、生きることそれ自体が、ペインティングだからです。私が彼の作品を見ていて思い出すものは、私たちがこの街で日々見ているもの、形態やフォルムや色のコラージュなのです。私たちの生きている世界が、すなわち喜びと驚きと、驚異とマジックに満ちた美しい構成であるということに、気がつくのです!」

スーザン・チャンチオロが、新境地をみせたMIMOCAにおける「拡張するファッション」展。その設営の後、本拠地のニューヨークに戻った彼女は現在、12月にNYの高級家具ギャラリーRalph Pucci Galleryで発表するRUN HOME COLLECTIONにむけて準備中だ。

1995年から2001年まで、全12回発表されたRUN COLLECTIONのなかでスーザンがホームコレクションを発表したのは2000年秋、RUN 11のとき。浴衣に着想を得たキモノや枕、大型クッションやキルトファブリックなど、生活全般を彩るアイテムがニューヨーク・コレクションとパリコレクションの期間中に発表された。この期間彼女のアシスタントをしていた人物が独立し、スーザンに声をかけたことから今年、RUN HOME COLLECTIONの再始動へとうごきはじめた。

上の画像は、年末に発表されるRUN HOME COLLECTIONにむけて準備中のスーザンが送ってくれた、インスピレーションとなるイメージ群。先住民族による布作品のイメージや、リサイクルの布のコラージュ制作過程が見受けられる。高級インテリアギャラリーに、リサイクルファブリックのコラージュによるキルト作品が現れることをイメージすると、そこに少なからぬ違和感があるだろうことは想像がつく。しかし、スーザンは「私はすでにあるものは美しいという思想に基づき、長年服作りにも一貫してリサイクルファブリックを採用してきました。ホームコレクションにも同じポリシーを貫きます」と信念を語る。コレクションにはキモノ6体も含まれ、キルトやクッションやタペストリー、家具その他を予定しているという。どんなラインが発表されるのか、とても楽しみだ。

RUN11を発表したころのスーザンはまだ母親ではなかったが、現在では6歳の娘の母親として、育児と仕事を両立させている。当時と現在では、心境の変化はあるのだろうか?「『the home is where the heart is.(心が宿る場所はつねに家)』という表現がありますが、その意味するところを、やっと理解できるようになりました。子育が始まった今だからこそ。最近では自宅が私のスタジオです。それは、生活も、アートも、人との出会うのも、人が集まるのも、食事も、すべて一体となっているということを意味します。そのことが、暮らしかたや調和すること、そして装飾美術全般のインスピレーションになるのです。すなわちそれは、RUN HOME COLLECTIONを今再び紹介するという活動につながっていくのです」

上写真:中央が1995年にはじめて発表されたRUN1ファーストショー。

20年間彼女の活動を見続けてきて、著書『拡張するファッション』で全4章のうち1章分をスーザン・チャンチオロの仕事紹介にあてた私にとっても、スーザンの新境地を見る事ができたMIMOCAでの「拡張するファッション」展は特別な意味をもつものだ。開催期間は、9月23日まで。夏の小旅行をかねて、出来るだけ多くの人に足を運んでもらいたい。 (text / nakako hayashi

前回掲載の「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」展 ホンマタカシとPUGMENT」はこちらから。


拡張するファッション
期間:2014年6月14日(土)〜2014年9月23日(火・祝)10時〜18時(入館は17時30分まで)
会場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県丸亀市浜町80−1)
URL:本展詳細はこちら

1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2014年までに11冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)、共著に『わたしを変える”アートとファッション” クリエイティブの課外授業』(PARCO出版)。展覧会の原案となった著書『拡張するファッション』(スペースシャワーネットワーク)に続いて2014年には、展覧会の空気や作家と林央子の対話を伝える公式図録『拡張するファッション ドキュメント』(DU BOOKS)が発売された。



水戸芸術館「拡張するファッション」展で行われたパスカル・ガテンのワークショップ報告 journal by林央子

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館「拡張するファッション」展 ホンマタカシとPUGMENT