『あなたに触れたいだけなのに』(つぐみ屋著、KADOKAWA)より
 お互いが好きなのに体の接触だけがない夫婦、30代なのに未経験の女性――。『あなたに触れたいだけなのに』(つぐみ屋著、KADOKAWA、2026年7月)は、繊細な悩みや願望を心に隠して生きる、女性達の物語です。作者は、新進気鋭の漫画家・イラストレーターのつぐみ屋さん。

 主人公は、40代、30代、20代とさまざまですが、悩みや願望の根底は皆同じ。それは、あなたに触れたいだけ、という切なる思いです。もがきながら懸命に生きる中で、彼女達が見つけた答えはなんだったのでしょうか。

◆円満なのに、なぜ

 葉月(はづき、40歳)と洋(よう、42歳)は、結婚歴10年以上の子なし夫婦。今も仲が良い2人ですが、妻の葉月は離婚も考えています。なぜなら、セックスレスが耐えられなかったから。

 夫の言い分は、体の関係について「そんなに大事? 一緒に暮らして、飯食って、平穏だったら、それでいいじゃないか」。片や葉月は、「ただ同居しているだけだったら、私は家政婦と一緒じゃん」。とはいえ、洋も多少は家事に協力的ですし、根本的な問題からはズレているのです。

 お互いを気遣うからこそ、それぞれが本音を隠して会話をしています。そんな空気を肌で感じつつ、体だけではなく心までがすれ違っていく2人。

「葉月と結婚して幸せだったよ。別れたいと思ったこと一度もない」「葉月はいつだって奇麗だよ」

 洋の言葉に嘘はないとわかっていても、何度も絶望を経験した葉月は、やはり別れを選ぶのか――。

 思い合っているのにどうして? と読者としては歯痒くなりますが、2人が共に胸にしまっていたのは、あるひとつのトラウマでした。このくだりは、読んでいて胸がギュッとしめつけられます。

◆訳知り顔の私は、実は恋愛経験ゼロ

〈動く人生相談所〉との異名を取る女性、寺西響(ひびき、37歳)。今日も会社の人々から悩み相談が尽きません。主な内容は男女関係。訳知り顔で解決策を見出す響は、実は経験ゼロなのです。

 男性に興味がないわけでも、付き合った経験がないわけでもない。ときめきたい気持ちも、性欲だってある。なんとなく、そういったチャンスが目の前で流れていってしまっただけ。

 でも、推しがいればハッピー。仕事もあるし、友人もいる、この生活が悪いわけじゃない、恋愛がなくても困らない。響に共感する女性は多数いるでしょう。ある意味、自由で気ままな人生です。でも、響はふと思うのです。

〈皆がしたことがあって、私だけが経験がないこと。どんな気持ちなんだろう〉