前田エマの秘密の韓国 vol.7 広蔵市場
この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。しかし第7回目は、ガイドブックに必ず載っている市場「広蔵市場」へ。
この活気は、昔も今も、ハルモニたちが守ってきたんだろうな
この連載は「秘密にしておきたいような、でもやっぱり友達に紹介したいような」そんな心持ちで、取り上げる場所を選んでいる。しかし今日は、とてもメジャーな場所を紹介したい。韓国・ソウルのガイドブックに必ず載っている市場「広蔵市場」(カンジャンシジャン)だ。
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広蔵市場を初めて訪れたときの胸の高鳴りを、どのように表現したらよいだろうか。友達や家族を連れてきた際、誰もがその熱気に目を輝かせ、そして圧倒される。この市場を作ったのはもちろん私ではないのだけれど、みんなのキラキラしたおめめを見ると、どういうわけか、とても誇らしく嬉しい気持ちになるのだ。
広蔵市場は、100年以上の歴史を誇る市場だ。キムチ、魚、肉、野菜、高麗人参に海苔やお菓子といった食料品から、衣類や日用品までなんでも揃う勢いなのだが、1番の目玉は、なんと言っても食べ歩き。そして店先で食べる食事だろう。
ハルモニ(おばあちゃん)たちの、豪快な料理。元気で勢いのある立ち振る舞い。ここに来ると、一気に「外国に来たぞ!!」という気分になる。
いつもお客が途切れない店が、やっぱり気になる。ジーッと見ていると「こっちへ来なさいな!」と言わんばかりのハルモニに、導かれるまま席に着き、麻薬キンパとトッポッキ、チャプチェを食べる。麻薬キンパとは、麻薬のように中毒性があり、箸が止まらないというところからこの名前がついている。一口サイズの海苔巻きだ。
それから、ピンデトッ(緑豆のチヂミ)の店へ。バケツいっぱいのタネ。積み重なる焼きあがったチヂミ。この大雑把さ、気分がよい!その場で焼いてくれたアツアツをいただく。ザクザク、ホクホク、カリカリ。いろんな食感が!!
食事の合間に、ジュースを一杯。韓国ではスバクジュース(スイカのジュース)がありとあらゆるところで売られている。これが夏は特に身体に沁みるのだ…。ああ、日本でも手軽にスバクジュースが飲めたらなあ〜。
長い列をなしているのは、クゥアベギ(揚げドーナツ)だ。並ぶのが好きじゃないのでいつもスルーしていたが、今日は友達と一緒に並んでみる。餅粉なので、モチモチしている!サツマイモ味とゴマ味を選んだ。これは、たしかに、おいしい〜。
この市場は、アーケードになっているので、雨でも楽しめる。
私の祖母は冬ソナからの韓ドラファンなのだが、先日88歳にして初めて韓国の地に立った。毎日3本ほど韓ドラを観る祖母に、なぜハマったのかと聞いたら、冬ソナを初めて見た時「自分が若い頃に見ていた景色というか、少し昔の風景を体験しているようで、とても懐かしい気持ちになって、心が切なくあたたかくなった」のだそうだ。
今の韓国は、世界中から注目を集める"今ドキ"で溢れる街だ。
しかし、この市場に来るたび私は、なんだか祖母のあの言葉を思い出す。この活気は、昔も今も、ハルモニたちが守ってきたんだろうな。初めてくるのに、懐かしいような気持ちがする。海外に行くと、市場にはなるべく足を運ぶのだが、こんな気持ちになったのは初めてだ。
ちなみに、祖母とここへ来た時はユッケの店へ入った。そこでは、まだウニョウニョと動いているタコと、牛ユッケを混ぜて、それをごま油と塩につけて食べる。最初は「私はユッケだけでいいわ」と言っていた祖母も、市場の勢いに興奮したのか、ついには踊りダコも食べ、ソジュ(焼酎)も飲んでいた。
韓国には比較的新しい、素敵なお店がたくさんある。東京から来る友達が、初めてソウルへ訪れる時、この市場がリストに入ってないと、私はお節介ながらも「広蔵市場に必ず行って!楽しいから!朝からやってるし!」と必ず言う。
前田エマ
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。現在、ソウルの語学堂に留学中。Instagram
Photo:Mio Matsuzawa