忙しい人こそ「マインドフルネス」?メンタルトレーナーに学ぶ今ここに集中すること

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「来週のプレゼンの準備は大丈夫かな?」「自分の発言は空回りしていなかっただろうか?」など、この先の予定や既に終わった出来事について考えると不安になってしまう方は多いのではないでしょうか?

準備や分析することは大切ですが、そのせいで“今”が疎かになってしまうのは残念だと思います。しかし、人間は過去と未来という思考の軸から逃れることはできません。心身の健康を保つために、私たちは自分自身とどう向き合っていけばいいのでしょうか?

そこで今回は、オンライントレーニングサービス『weltag』でもメンタルトレーナーとして活動している土屋さとみさんに“マインドフルネス”についてお話をうかがいました。忙しい毎日を送っている方には、ぜひ参考にしていただきたいインタビューです。

土屋さんが心と身体の健康に関心を持つようになった理由

画像:土屋さとみ

――土屋さんは、普段どのような支援活動やお仕事を行なっているのでしょうか?

オンライントレーニングアプリ『weltag』のメンタルトレーナーをはじめ、地域の教育相談やアスリートの支援など様々な方を対象にして心理的支援をしています。

具体的には、カウンセリングやマインドフルネス、認知行動療法と呼ばれるような心理療法。子供を対象にするときは、プレイセラピーといった支援をしていますね。また、依頼に応じて心や身体の健康に関するセミナーを行うこともあります。

ここ最近で最も多い仕事は、地域の教育相談カウンセリングです。学術研究を行うのも大切なことではありますが、「誰かの力になれればいいな」という想いがずっと自分の中にあって……。なので、実際に人と関わる現場での活動も積極的に行っています。

――土屋さんは、フィットネスクラブでの運動指導を経験後、大学院で臨床心理学の研究を始められたんですよね? そのアクションの裏側にはどのような想いがあったのでしょうか。

まず、「人の心と身体の健康を支えたい」という気持ちから大学で心理学部に入学しました。臨床心理士の資格を取るには、さらに大学院に行く必要があるんですが……。当時は、心だけでなく運動や栄養を含む大きな意味での“健康”にも興味があったので、進路について悩みました。最終的には、誰かの健康を支えられるような現場で活動をしたいと思い、フィットネスクラブに総合職として入社したんです。

そこで様々な経験をする中で感じたのが、「フィットネスクラブに通われている方は、とても元気だ」ということでした。「元気だから運動ができる」というふうに思われがちですが、「運動をしているからこそ元気になっていっているのではないか」と私は感じたんです。

その気持ちがより強くなる出来事がありました。自分の担当しているヨガのレッスンによく参加してくれていた方が、一時期いらっしゃらなくなったんです。後日、再び参加していただいたときにお話をうかがうと、「身内の不幸があってしばらく家に引きこもっていたが、友達の誘いもあってとりあえずという気持ちでヨガに参加した。身体を動かすことで、少し前向きになれた」とおっしゃったんです。そのときに「運動はやっぱり大切だな」「心と身体は繋がっているんだな」と強く思いました。

それで、自分ができることを改めて考えるようになったんです。その当時、「心と身体の健康」という自分の注目した考え方は、心理学においてはあまり浸透していませんでした。そういった背景もあり、「このテーマについて研究することは、きっと誰かのためになる意味があることだ」と思って大学院に通うことを決めました。具体例を挙げると「ヨガは身体にいいと言われているが、実際にそういった活動が心理学的に見たときにも効果があると言えるのか」などについて専門的な研究を行いたかったんです。

画像:土屋さとみ

――土屋さんの「誰かのために」という強い気持ちを感じました。そんな土屋さんの元には、どのような相談が寄せられているのでしょうか?

相談者の抱えているお悩みや不安は様々です。例えば、不登校の状態にあるお子様、発達障害をもつ方、仕事のストレス、アスリートのスランプなど……。その中でも、眠れないといった身体症状に関する悩みや、イライラなどの精神的な症状が出てきたときに相談を受ける傾向があります。

日本ではカウンセリングを受けることに関して、まだまだ壁があると思います。また、本当は心身共に疲れているのに、自分とは無縁のことだと思い込んでいる方も多いのではないでしょうか?

なので、心身の不調があっても多くの方がつい無理をしてしまう。その結果、症状が悪化してからカウンセリングを受ける方が本当に多いんです。

私は、「もう少し気持ち良く日常生活を送りたい」とか「少しストレスを感じるときがある」といった段階で相談してもらえるようなカウンセラーになりたいと思っています。自宅にいながら相談ができるweltagならば、気軽にカウンセリングを受けられるのでぜひ活用してほしいですね。

今さら聞けない「マインドフルネス」って?

画像:土屋さとみ

――私自身、「マインドフルネス」という言葉は知っていても「こういうもの」と自信を持って言語化することができません。改めて、マインドフルネスとはなんなのか教えてもらえないでしょうか。

「マインドフルネス」とは、過去や未来のことではなく今を意識するということですね。もっと正確に言えば、「今ここに注意を集中する」ということでしょう。

そうした意識を持って、自分の心や身体のサインに気づくことがマインドフルネスの第一歩。そのとき気づいたことを良いか悪いかを判断するのではなく、ありのままの気づきとして受け入れることが大事なんです。

過去や未来を考えて不安になることは、人間ならば誰でもあることです。でも、よく考えてみると、その不安を感じている自分は落ち着いて座っていたり、実際の未来の不安はまだ今には起こっていなかったりということが多いはず。そういったときに、今この瞬間に立ち戻ることが大切なんだと思います。

――どういった方にマインドフルネスに取り組んでもらいたいと思いますか?

マインドフルネスは誰でも取り組みやすいものなので、様々な悩みごとを持つ方に取り組んでいただきたいですね。

ただ、その中でも特にプッシュするとしたら、「頭の中でぐるぐると考えて悩んでしまう方」におすすめです。他には、イライラや疲れを感じていても頑張ってしまって、後から無理をしていたことに気づくような方にも取り組んでもらいたいですね。

――忙しい日々の中でも行いやすい、マインドフルネスの具体的な方法を教えてください。

マインドフルネスはこうでなければならない、というのが決まっているわけではありません。ですが、マインドフルネスの教科書的なものとして『マインドフルネスストレス低減法』というジョン・カバット・ジン博士の考案した技法があります。

その中で、日常生活の中に取り入れやすいと思うのが「呼吸法」と、座ってできる「瞑想」です。

マインドフルネスの呼吸法は、吸って吐くという呼吸に注意を向け、意識をするというものですね。可能であれば、腹式呼吸を行なってみましょう。身体の感覚に注意を向けやすくなるので、実践してみてほしいです。それに加えて、身体の状態に注意を向ける瞑想を行ってみるとより良いと思います。

――土屋さん自身、マインドフルネスを心がけるようになった前後でどのような変化がありましたか?

私自身、もともとすごく心配性でした。なにか大切な予定があると、その日その時までずっと「大丈夫かな?」とぐるぐる考えてしまうタイプだったんです。その予定が終わった後に、一人で反省会をしてしまうことも(笑)。

ただ、マインドフルネスを心がけるようになってからは変わりました。実際に準備に費やす時間以外での、心配や考えごとにとらわれる時間が減って、思考の切り替えが上手にできるようになったんです。あとは、自分の身体の状態にも気づけるようになりましたね。

心理学に関わる人間がセミナーやカウンセリングで話をしていると、「いつも理想的な行動できている」というふうに思われがちですが、考え込んでしまうときもあります。なので、みなさんも「いつも完璧に実践しなくてはいけない」と自分を縛る必要はありません。「こういった場合はこうすれば大丈夫だ」という方法を持っていて、必要なときに今ここに立ち戻ることが重要なんです。

常に意識できていなければいけないと思わずに、状況に応じてモードを切り替えていきましょう。

――マインドフルネスを実践するのに適した時間帯や頻度はあるのでしょうか?

適した時間帯や頻度は人それぞれです。自分がどんなときにどれくらいの時間で実践するのが良いかを見つけることが一番ですし、それも歴としたマインドフルネスですね。

ただ、興奮状態になってからマインドフルネスを実践するのは、最初は難しいと思います。なので、自身が落ち着いているときに試してみるのがおすすめです。

例えば、寝る前の5分間や通勤通学の間などですね。「~せねばならない」という気持ちになってしまっては本末転倒なので、効果や結果を目標にするよりは、試しにやってみるという気持ちで取り組んでみましょう。

画像:believe

――マインドフルネスは年齢関係なく取り組んでいいものなのでしょうか? 学校生活においてもストレスを感じるシーンが多そうなので、小学生などの小さなお子様にとっても有益な習慣だと個人的には思いました。

年齢は関係なく、多くの方に取り組んでもらいたいです。小さなお子様でも可能ですし、さらに広まってほしいと思っています。私自身、もっと早くマインドフルネスと出会っていたかったという想いがあるので。ですが、子供向けの研究はまだまだ少ないのが現実ですね。

過去に、発達障害をもつお子様と保護者様に向けたマインドフルネスを実施したことがあります。そのとき最年少だった子が3歳でしたが、取り組んでいるうちに集中してやってくれるようになって……。年齢に応じた説明の仕方は考えていく必要があるとは思いますが、「小さなお子様でも、こうやってできるようになるのか」ということを身を持って感じたんです。

また、学生に関しては、地震の被害を受けた被災地で暮らす高校生の心身の状態についての研究も行っています。日頃行っている、小中高の学生カウンセリングの中でも学ばせてもらうことが多いんです。そういった経験を今後の活動の中で、誰かのために活かしていきたいですね。

以上、心と身体の健康を支えるカウンセラー・土屋さとみさんのインタビューでした。身体を動かす時間よりも思考をする時間が増えつつある現代人にとって、「今ここに注意を集中する」のはとても大切なこと。筆者自身も、不安や焦りを感じている自分に気づくことから始めてみようと思います。(文・取材/はぎわらひかる、取材協力/weltag)

<プロフィール>

土屋さとみ

画像:土屋さとみ

臨床心理士、公認心理師。専門健康心理士

フィットネスクラブでの運動指導を経験後、大学院にて臨床心理学を研究。心と身体の健康を支えることをモットーに、子どもから大人まで幅広い対象に支援を行っている。

【画像・参考】
※土屋さとみ/believe

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