女にとって、33歳とは……。

32歳までの“20代の延長戦”が終わり、30代という現実に向き合い始める年齢だ。

結婚、キャリア、人間関係―

これは、33歳を意識する女たちが、それぞれの課題に向かって奮闘する2話完結の物語だ。

◆これまでのあらすじ

コロナでシンガポールでのCAの仕事を一時解雇され、東京の実家に戻り丸の内派遣OLとして働くエリナ。しかし、父から近い将来に家を出るように言われてしまい…。

▶前回:外資系CAの華やかな生活から一転、丸の内OLになったら…。32歳女の心の叫び




33歳までに天職を見つけたい女・宮原エリナ(31歳)【後編】


コロナの影響でCAの仕事を辞めて以来、実家に身を寄せて気楽な派遣OLライフを満喫してきた私。

でも、とうとう父から“近い将来…この家を出てほしい”と言われてしまった。

だから、私は“安定した仕事”か“夫”を見つけて家を出なければならない。

それに、最近では「あわよくば、社内恋愛で植山さんとゴールイン?」「彼と結婚して寿退社するなら、それはそれでいいかも♡」などと妄想もしていたのだ。

“夫”を見つけるのは、自分の努力だけでは難しい。

仕事だって、コロナが落ち着けば、CAとして再雇用してもらえる可能性もあるが、それだって“タラレバ”だ。

独身の私が家を出る現実的なプランは、安定した仕事を探すことだった。

「とは言っても、どれもピンとこないのよねぇ…」

転職エージェントから送られてきた求人票を眺めながら、ため息をつく。

外資系投資ファンドの総務ポジション、高級ホテルチェーンの経営企画室付アシスタントに、有名スタートアップのCFO付秘書職。いずれも、1次面接は無事通過した。

青学卒バイリンガルであること、元CAという経歴。ずいぶん前に取得した秘書検定も役立ってか、企業からの反応は悪くない。このご時世に、本当にありがたいけれど…。

正直、どの仕事にも、魅力を感じない自分がいるのだ。


転職活動を始めたものの、悩むエリナ。そんな彼女に、転機が・・・


悩みながらも転職活動を続けていたある日。

土曜日の夕方、友達とのお茶を終えて帰宅すると、リビングから話し声が聞こえてきた。




「いや〜、彩香さんは本当に素晴らしいなあ。働きながら勉強して、税理士試験にも無事に合格して。本当におめでとう」

「そんな、恐縮です…どうもありがとうございます」

どうやら兄夫婦が遊びに来ているらしい。私が帰ってきたことに気がつかないのか、上機嫌な父が話し続ける声が漏れ聞こえてくる。

― 彩香さん、いるのか…。ちょっと顔を合わせづらいなあ。

兄の奥さんである彩香さんは、私の2つ年下だがすごく優秀だ。一橋大学を卒業後、大手企業の財務部で働いている。

仕事をしながら税理士試験の勉強をしていると聞いていたが、会話から察するに、ついに科目を揃えて合格したようだ。

彼女より年上なのに派遣OLに甘んじている自分の立場がなんだか恥ずかしくて、普段は極力顔を合わせないようにしている。

リビングには入らずに、手前にある自分の部屋のドアノブにそっと手をかけた。

その瞬間、ひときわ大きな父の声が聞こえた。

「うちのエリナも彩香さんを見習って、目標を見つけて自立してくれればいいんだがねえ」

― なによ。彩香さんにまで、そんな風に言わなくても…。

父からすれば嫁を立てようという意図があるのだろう。だからと言って、私をダシにするなんて…。

モヤモヤしたが、同時に「痛いところを突かれた」という気分になる。

― 私も何か“これ”ってものを見つけて、目標を持って頑張れたらなあ…。

弁護士の父と兄に、税理士の彩香さん。何かを極めると決めて手に職をつけ、頑張っている人たちが、羨ましくなった。




「なるほどねえ。でもエリナちゃん、転職活動してるんでしょ?その中に“これ”っていう仕事はないの?」

「そうなんですよね…。なんか、雇用形態は正社員だけど、仕事内容は今やってる事務仕事の延長というか…」

その翌日。表参道のエステサロンで、施術を受けながらオーナーの真由美さんとおしゃべりする。

このお店に通い始めたのは1年ほど前からだが、今年で37歳になるという真由美さんには不思議と何でも相談できる。

「まあ、エリナちゃんって堅い仕事やっているイメージつかないものね」

真由美さんは、納得したようにうなずく。

「自分でもそう思います…」

たしかに、今なんとなく派遣OLとして働いているから、その延長線上で秘書やアシスタントのポジションで仕事を探していたけど…。

実際、私は誰かの裏方として働く仕事にやりがいを覚えるタイプではないのかもしれない。

CAとして働いていた時も、そうだった。

お客様とのコミュニケーションや、機内で起こるトラブルに臨機応変に対応していくスピード感。「自分は顧客サービスの第一線で活躍している」という自負。

それらが、私のやりがいだったのだ。

― CAとして身につけたことを活かして、全然別のことをするのも楽しそうだな…。

ふと、そんなことを考えた。

「起業っていうのもアリよね。私もちょうど、エリナちゃんぐらいの年齢のときに、このサロンを開業したのよ」

私の考えをまるで察するかのように、真由美さんが楽しそうな口調で提案してくる。

― 起業かあ…。考えてみたこともなかったけど…。

ひんやりとしたトリートメントパックの感触を肌に感じながら、私は「そういうのもアリかも」と考え始めていた。


起業に興味が湧いたエリナが見つけた天職とは・・・?


“天職”を求めて


それをきっかけに、私の中で「起業」という選択肢が生まれた。

ほとんどCAの経験しかない私が1人でできるビジネスなんて、最初は思いつかなかったけれど……。

『元CA 起業』などとWebで検索していくうちに、あるブログにたどり着く。

それは、日系航空会社を退職後にイメージコンサルタントとして独立した元CAのものだった。

そこには、彼女が提供しているサービス――パーソナルカラー診断やメイクレッスン、お買い物同行などの様子が事細かに書かれていて、私は夢中になって読んだ。

― この仕事、おもしろそう…!

すっかり感化された私は、いつしか転職活動を完全にストップし、派遣の仕事を続けながらイメージコンサルタント養成スクールに通うようになっていた。

勉強するほどにおもしろくて、「この仕事で独立したい」という夢がどんどんふくらんでいく。

会社員として働くよりも、そのほうがしっくりきたのだ。弁護士事務所を一代で大きく育てた父の背中を見てきたのも、影響しているのかもしれない。

「い、イメージコンサルタント?」

父にそれを打ち明けたら、驚いてポカンとしていた。

てっきり、正社員としてどこかに就職するものだと思っていたようだ。

「うん、本気で言ってる。こういう計画を立てているんだけど…」

自分で作った計画書を父に見せる。

資格の学校に通うところから始まるそれは、青写真とも呼べないくらいに突拍子もないが、1年半後の33歳までに目処をつけるというものだ。

その年齢までに、1人で食べていけるくらい稼ぐことができなければ、きっぱり諦めてどこかの企業に就職しようと思ったから。

33歳になる前だったら、まだ、正社員で採用してくれるところもあるかもしれないと考えたのだ。

我ながら夢みたいなプランだが、父は真剣に目を通してくれた。

「エリナは、昔から目標を決めるとまっしぐらだな。CAになりたいって言ったときもそうだったね。今回の“イメージなんとか”っていうのもそんなにやりたいなら、挑戦してみるといいよ」

「ありがとう、お父さん」

「ただ、起業はそんなに甘くないから。困ったことがあれば、弁護士として相談にのるよ」

父の言葉に、私は大きくうなずく。

33歳までに“イメージコンサルタントの仕事で、食べていけるくらいにする”ことを目標に、とにかくがむしゃらに頑張ろうと心に決めた。




2年後


「えっと、今日の予約は…。ああ、“あの人”が来るのね」

恵比寿駅前の小さな雑居ビル。MacBookでカレンダーを開き、予約一覧を確認する。

今日は午前に1人、午後は3人の予約が入っている。

ここ半年間は、毎月コンスタントに40人〜50人の予約が入り、月々200万円程度の売上を立てられている。

この2年は本当に大忙しだった。派遣の仕事の傍ら、夜はスクールに通い、他にも化粧品検定を取得したり、書籍を購入して理論を研究したり、起業の準備を進めたり…。

でも、イメージコンサルタントという仕事も起業も自分に向いてたようで、楽しいと思いながらここまで走ってきた。

それに、“元CA”という肩書と当時培った人脈は、驚くほどに最強で、この仕事をする上で随分と役に立った。

シンガポールでチアリーダーとして活動していた時のInstagramで宣伝を行うと、意外と反応があったのだ。

20代をシンガポールで過ごしたフォロワーの女の子たちの中には、私のように日本に帰国している人も多く、サービスを受けたいと言ってくれた。

しばらくはオンラインや出張サービスを重ね、1年ほど前、ついに開業したのがこのお店。

最近では、 CA時代に機内で知り合ったお客様から仕事をいただくことも多い。

世界を股にかけて活躍するエグゼクティブに、集客の相談をするのは少し気が引ける。でも、意を決して連絡すると、お客様を紹介してくれたり、企業の研修を任せてくれる人が何人もいたのだ。

そのお陰もあって、なんとかお店を軌道に乗せることができ、3ヶ月ほど前から、私は実家を出て1人暮らしをしている。




カラン、と扉が開く音がして、私は顔を上げる。

「いらっしゃいませ!」

トレンチコートに身を包んだ兄の奥さんである彩香さん。

「サービスを受けたい」と、彼女のほうから連絡をくれたのだ。

「こんにちは、エリナさん。素敵なお店ですね」

少し緊張した様子の彩香さん。私が彼女に気を使うのと同様に、“年上の義妹”である私への接し方を、彩香さん自身もまだ掴みあぐねているようだった。

そんな彼女に対して、今までは自分から距離を詰めることはしてこなかったけれど…。

「あのね…私、以前からエリナさんってとってもオシャレだなぁと思っていて。

お店を開いたと聞いて、ぜひ色々教わりたいと思ったんです。今日は、よろしくお願いしますね」

微笑む彩香さんの言葉に、胸がじんと熱くなる。

「ありがとうございます…!こちらこそ、今日はよろしくお願いします。それでは、さっそく始めていきましょう」

これからきっと、楽しいだけじゃなく大変なこともたくさんあると思う、けれど。

ようやく“天職”を見つけたという喜びを、私はしみじみと噛み締めていた。

▶前回:外資系CAの華やかな生活から一転、丸の内OLになったら…。32歳女の心の叫び

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