老後2000万円問題や世界中で新型コロナウイルスが感染拡大するなど、近年、私たちの将来不安が増すトピックスが相次いでいます。そのような中、将来のお金の準備の手段としてiDeCoを始めた人が多かったようですが、iDeCoは、2022年に法改正が行われ、ますます使い勝手が良くなる予定です。そこで今回は、iDeCoの主な3つの法改正について解説します。

2022年から、iDeCoのどこが変わるの?

長寿化を見据え、2022年にiDeCoが法改正に!

そもそもiDeCoは、国民年金や厚生年金といった公的年金に上乗せできる私的年金制度のひとつです。iDeCoは他の制度にはない税制優遇制度があり、節税しながら将来の自分年金を準備できる制度として注目されています。

iDeCoの概要については、「意外と知らない!?iDeCoの2つの注意点とは」のコラムでもお話していますので、お時間のある時にご覧くださいね。

自分年金作りの手段として注目されているiDeCoですが、2022年に法改正されることが決定されています。改正の背景には、「長寿化」があります。

日本は世界でも突出した長寿国です。2020年の簡易生命表を見ると、日本人男性の平均寿命は81.64年、日本人女性の平均寿命は87.74年となっています。仮に65歳で退職をしたとしても、20年以上老後の生活が続く人が少なくないということです。

また、現在の高齢者の方を見ると、お元気な方が多く、65歳を過ぎても働く方が増えてきています。読者の方たちが高齢者になる頃には、70歳以降も働くことが珍しくないかもしれません。さらに、働き方も多様化することが考えられます。一つの会社で働き続けるスタイルから、ライフスタイルに合わせて会社や職を変えていく人も増えていくのではないでしょうか。

このように、長期化する高齢期や定年年齢引き上げ等の就労の拡大、転職の増加等の多様化を踏まえて、iDeCoの現行制度を見直し、さらなる普及を目的として、2022年からiDeCoを利用できる人や利用できる期間が拡大されることになったというわけです。今回は、主な3つの法改正について解説します。

iDeCoの主な3つの改正点とは

iDeCoの改正点1:2022年4月から老齢給付金の受給開始年齢が75歳まで延長に

現在、iDeCoで運用した資産を受け取る時期は、60歳から70歳までの間で、自分で選ぶしくみです。掛金の拠出は60歳までしか行うことができませんが、受け取るまでの間は、非課税で運用を続けることができます。
2022年4月からは、iDeCoで運用した資産を受け取る時期が60歳から75歳までと、5年間延長されます。2022年4月から公的年金の繰下げ受給が75歳までになるので、それに合わせての変更です。

iDeCoの受け取り開始年齢が60歳から75歳まで延長になることにより、老齢給付金を受け取るタイミングが選びやすくなります。また、iDeCoは、受給開始までは非課税で運用することができるので、受け取るまで非課税で運用できる期間が5年増えるのもメリットです。

ただし、公的年金の繰下げ受給では、1か月繰り下げるごとに0.7%ずつ年金が増えていきますが、iDeCoの受け取りを遅らせて非課税で運用しても、増えるかどうかは運用成果次第。また、iDeCoの資産がある間は、口座管理手数料がかかり続ける点にも注意が必要です。

iDeCoの改正点2:2022年5月からiDeCoの加入可能年齢が5年延長に

現在、iDeCoに加入できるのは60歳未満の方です。2022年5月からは、iDeCoに加入できるのは「65歳未満」の方になり、5年間延長されます。この改正は、長寿社会を見据えて、長く働き続けたいというニーズに対応。また、加入可能年齢が5年間延長されることにより、長期・積立・分散投資を長く続けられたり、掛金の所得控除によって税金も安くできたりするのはメリットです。

ただし、iDeCoに加入するには「国民年金の被保険者(加入者)」であることが条件です。60歳以降も会社員・公務員として働き厚生年金に加入する場合は、同時に国民年金にも加入することになるので、問題なく65歳までiDeCoに加入できます。

ただし、自営業やフリーランスなどの第1号被保険者や、専業主婦(夫)などの第3号被保険者は、60歳になると国民年金の被保険者ではなくなるため、iDeCoには加入できなくなります。なお、60歳以降も自分で国民年金保険料を支払い、国民年金の加入期間を増やす「任意加入制度」を利用している場合は、iDeCoに加入できます。

iDeCoの改正点3:2022年10月から企業型確定拠出年金の加入者がiDeCoに加入しやすくなる

現在も制度上は、企業型DCの加入者はiDeCoに加入することができます。ただし、労使合意に基づく規約の定めがあり、事業主掛金の上限の引き下げに対応している企業の従業員しか加入することができず、実際には加入できない人が多くいて、その数は約750万人といわれています。

改正後は、労使合意の規約や事業主掛金の上限の引き下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残余の範囲内(月額2万円以内または1万2,000円以内)で加入できるようになります。

企業型DCとiDeCoを併用することができれば、より効率よく資産形成ができるでしょう。また、企業型DCの金融機関は勤務先が決めるため、自分では選べませんが、iDeCoの金融機関は自分で選べますので、投資したい商品がある場合にも便利です。もちろん、iDeCoの掛金は全額所得控除できますから、所得税や住民税を安くするのにも役立ちます。

ただし、企業型DCとiDeCoを併用する場合、掛金の上限があります。
企業型DCとiDeCoに加入する場合、企業型DCの掛金の上限額は最大5万5,000円、そのうちiDeCoの掛金額は最大で2万円までとなりますが、2つの掛金の合計は5万5,000円までとなります。

企業型DCのほかに確定給付企業年金(DB)などにも加入している方がiDeCoに加入する場合、企業型DCの掛金の上限額は最大2万7,500円、そのうちiDeCoの掛金額は最大で1万2,000円までとなりますが、2つの掛金の合計は2万7,500円までとなります。仮に企業型DCの掛金が上限額に達している場合は、iDeCoに加入することはできません。

また、企業型DCの手数料は会社負担ですが、iDeCoの手数料は自分で負担しなくてはならない点は押さえておきましょう。

注意点もありますが、2022年以降、ますます使い勝手がよくなる予定のiDeCo。将来の資金準備にぜひ活用したい制度ですね。

■プロフィール

マネーの賢人 高山一惠

ファイナンシャル・プランナー(CFP)/(株)Money&You取締役。2005年に女性向けFPオフィス、株式会社エフピーウーマンを創業、10年間取締役を務め退任。その後、株式会社Money&Youの取締役へ就任。お金の総合相談サイト『FP Cafe』や女性向けマネーメディア「Mocha」を運営。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。著書は『はじめての資産運用』(宝島社)、『やってみたらこんなにおトク!税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)、『つみたてNISAでお金は勝手に増えていく!』(河出書房新社)、『パートナーに左右されない自分軸足マネープラン』(日本法令)など多数。株式会社Money&You:https://moneyandyou.jp/ FP Cafe:https://fpcafe.jp/ Mocha:https://fpcafe.jp/mocha   マネラジ。:https://fpcafe.jp/mocha/features/radio     Money&You TV:https://fpcafe.jp/mocha/features/mytv