コロナ禍により、人々の老後の貯蓄意識が高まっています。自分の健康を考える中、将来のことまで想像するようになり、漠然とした不安が増しているともいえそうです。

現在は独身で、将来はどうなるかわからないという人も、老後資金を準備しておくことは、安心要素につながります。

そこで今回は、ファイナンシャルプランナーの方に、30代の独身女性が老後資金を備えるためのおすすめ方法を教えてもらいました。

始め方がわからないという人も…。

老後の貯蓄意識が高まる人が増加

人々の老後に備える意識は、ここ最近で、少し変化があったようです。

メットライフ生命が、2021年6月、全国47都道府県に在住の20歳〜79歳の男女計14,100人を対象に実施した、「老後を変える全国47都道府県大調査」の結果からは、コロナ禍による人々の意識の変化がわかります。

「貯蓄意識の高まり」は30代が最も高い割合で5割近くに

全体の8割以上が自分の老後に不安を感じている結果となり、老後に対する不安要因は、全体では「お金」「健康」「認知症」がトップ3に。

新型コロナにより、老後に対する考え方の変化を問うと、全体では「健康への気遣い」と「貯蓄意識の高まり」に次いで「生活費の節約」の順で多い結果となりました。

出典:メットライフ生命「老後を変える全国47都道府県大調査」より

特に30代は1位の「貯蓄意識の高まり」の割合が47.5%と、全年代で最も高い結果となったのが特徴的でした。ちなみに3位は「資産運用意向の高まり」で23.4%でした。

老後のための備えを貯めている人の割合が増加

では、老後の備えとなる金融資産に対する行動はどう変化したのでしょうか?「計画的に貯めている」「計画的ではないが、少しずつ貯めている」と回答した人は全体の62.3%。

2019年は56.4%、2020年は61.4%だったのと比較すると、年々、割合が高くなっています。 30代は2021年に62.7%と、全年代で最も高い割合となりました。

さらに、老後の備えに利用している金融資産を聞いたところ、30代のランキングは次の結果に。

1位 預貯金 63.6%
2位 株式 27.1%
3位 貯蓄性のある保険 26.7%
4位 投資信託・ETF 26.6%
5位 個人型確定拠出年金 22.0%

コロナ禍を受け、さらに老後への不安が高まる傾向がある中、特に30代は将来と老後に向けて本格的に必要なお金を備える意識が高まる年代なのかもしれません。

老後に備えておくべきお金はどのくらい?

老後のために、自分も備えを始めたい。そう思ったら、まずは知っておきたいのが、老後にはどれくらいのお金が必要になるのか。そして、公的年金でどれくらいまかなえるのかということです。

総務省「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)」から、65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支をみてみましょう。

支出は、消費支出と非消費支出を合わせると、一か月で約14.4万円。そして公的年金などの社会保障給付は12.1万円ほどなので、残りの2.3万円は不足します。

そのため、働いて収入を得る、貯蓄を切り崩すなどして毎月2〜3万円は確保する必要があるということです。

老後は、60歳から備えるべきといわれるため、100歳まで生きるとすれば40年です。

40年×12ヶ月×2万円=960万円。
40年×12ヶ月×3万円=1,440万円。

このように計算すると、最低でも1,000万円はいまから貯蓄していく必要があるでしょう。

現在35歳であれば、60歳までの25年間で1年に40万円、一か月に3.3万円ほど貯めていけばいい計算になります。

ファイナンシャルプランナーが勧める貯蓄以外で老後に備える方法

毎月、貯蓄していくとしても、先のことすぎてモチベーションが続かないという人もいるでしょう。銀行口座などに貯蓄する方法以外には、どんな方法があるのでしょうか?  ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんは、次の4つの方法を挙げてくれました。

1.iDeCo(イデコ)
個人型確定拠出年金と呼ばれるもので、毎月、一定の金額を積み立て、自分で投資運用先を決めることができ、預貯金・保険商品・投資信託などから選択します。60歳以降に一時金または年金もしくは一部は一時金で受け取り、残りは年金で受け取る公的な年金制度です。

2.つみたてNISA
少額からの投資を行う人向けの非課税制度「NISA」のうち、特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です。新規投資額で毎年40万円が上限ですが、投資で得た利益に対してかかる約20%の税金が非課税となり、最長20年間、最大800万円が非課税投資枠となります。対象商品は、手数料が低水準、頻繁に分配金が支払われないなど、長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されており、投資初心者にも投資信託を始めやすいのが特徴です。

3.財形年金貯蓄(年金財形)
財形貯蓄とは、会社の福利厚生の一環として導入されている制度で、提携する金融機関へ、毎月の給与から一定金額が自動で天引きされる積立貯蓄です。「一般財形貯蓄」、「財形住宅貯蓄」、「財形年金貯蓄」の3種類があり、このうち、財形年金貯蓄は、財形住宅貯蓄と合わせて貯蓄残高550万円まで、保険の場合は払込額385万円まで利子等に税金がかかりません。満60歳以降に5年以上20年以内の年金形式で受け取ることができます。
財形年金の保険型の場合、終身受取もできます。年金保険の終身受取とは、被保険者が存命中から亡くなるまで終身、受け取ることができるもので、死亡したら、その時点で年金の受給は終了します。

4.生命保険の年金商品
生命保険のうち、年金形式で保険金を受け取れるものです。例えば、個人年金保険というものは、契約時に定めた年齢から年金を受け取ることが可能です。

FPが最もおすすめするのはiDeCo

これらの方法で、老後に必要なお金のうち、公的年金以外の分を貯めるには、どの方法がもっともおすすめなのでしょうか? 丸山さんに伺いました。

「iDeCoが最もおすすめです。掛金が全額、所得控除の対象となり、運用する商品を自分で選ぶことができます。また、運用時の利益にかかる税金が非課税で、引き出し時に税金が優遇されるなど、メリットが多いのが理由です。

厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業年報(2019年度)』によると、シングル世帯会社員男性の年金平均額は基礎年金を含め、16万4770円、女性の年金平均額は10万3159円と、男性に比べると年金額が少ないことがわかります。

これら不足分や、今後物価が上昇するインフレリスクをカバーするためにも、運用をしながら厚生年金+α(アルファ)の部分を何かしらで備える必要があり、税金的なメリットも含めて考えると、iDeCoは働く独身女性におすすめであると言えます。

原則、60歳までは引き出しができないので、将来の年金の一部として積み立てるならiDeCo一択ではないかと思います。ただし、5,000円など掛金が低いと手数料負けする可能性が高くなるので、月額15,000円以上の掛金を目安にしてください」

実際、どのくらいの額を積み立てると、老後にどのくらいの額になるのでしょうか。

「30代であれば、老後まで30年はあるので、月2万円を30年積み立てるとすれば『720万円+α(iDeCoの運用益)』となります。毎月の給料のうち、月2万円は老後資金として先取りでiDeCoで積み立てて、残ったお金でやりくりし、他のライフイベント用の貯蓄をするのをおすすめします。健康で働けるうちに老後に少しでもお金を残すことで、老後の助けになります」

iDeCoは、どうすれば始めることができるのでしょうか?

「iDeCoは、証券会社など金融機関に申し込みをして始められます。口座を開設して、掛金、運用先を選ぶだけです。金融機関によって手数料が異なるものもあるので、手数料は必ずチェックしてください」

iDeCoについての詳しい情報は、国民年金基金連合会のiDeCo公式サイトでわかりやすく解説されているので、ぜひ確認してみましょう。どのくらい税負担が減るかがわかる「かんたん税制優遇シミュレーション」も利用できます。

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コロナ禍で老後に備える意識が高まるなか、この機会に備えを検討したいものです。今回ご紹介した方法以外にも、自分に合った方法で賢く備えを始めましょう。

●教えてくれた人…節約アドバイザー 丸山晴美さん

保有資格 ファイナンシャルプランナー(AFP) 消費生活アドバイザー。22歳の時に節約に目覚め、1人暮らしをしながらも1年で200万円を貯めたことがメディアに取り上げられ、その後26歳で住宅を購入し、2001年節約アドバイザーとして独立。 公式HP「らくらく節約生活。」https://www.maruyama-harumi.com/

出典:
メットライフ生命「老後を変える全国47都道府県大調査」
https://www.metlife.co.jp/changerougo/about/cr_survey/

総務省「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/2020np/gaikyo/index.html

厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報(2019年度)
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/nenpou/2008/dl/gaiyou_r01.pdf

取材・文/一ノ瀬聡子