ライターの高木沙織です。

BA(ビューティーアドバイザー)として働き始める前にお付き合いしていたのは、6歳年上の男性でした。え、いきなり恋愛の話? まぁまぁ、ここで離脱せずにどうか温かい目で読み進めてください。なぜってそれは、別れのとき「沙織ちゃんは感情が読めないから、一緒にいてしんどい」とバッサリふられたからです。実は同じような理由でふられたことは過去にもあって、「私って、恋愛でもダメ過ぎる」と恋に消極的な自分がいたのがこの頃。

それが突如彼氏が出来たんです。自分でもビックリ、まわりのBAたちもビックリ、そしてある噂が……。

「恋が叶う香水」、BAたちは信じていなかった?

“恋が叶う香水”。ソレが女性たちのあいだで人気を博していたのは、わりと長期間に渡ってだったのではないでしょうか。デパートのコスメ売り場では品切れ状態が続くというちょっとした社会現象が起こっていたので、ご存じの方も多いはず。

口コミや雑誌の掲載、ネットなどで、「つけていると恋が叶う」と拡散されると多くの女性が買い求めたんですね。もちろん、私もその存在は知っていました。というか、ほぼ毎日目にしていました。そう、なにを隠そう私が就職した某外資系化粧品会社から発売されている香水だったんです。しかも、配属先は空港の免税店。デパートで品切れしている商品も比較的手に入りやすく、連日大フィーバー。

「ここにならあるはず!」と狙いを定めてやってくる女性客や、友人・知人女性に頼まれてやってくる男性客が次から次へと来店し、ソレを見つけては嬉しそうに手に取る姿は今でもよく覚えています。

そんななか、私たちBAはというと……。

先輩BA「これってさ、本当に効果あるのかな?」
先輩BA「そうなんだよね。私たちなんてしょっちゅうつけてるのに、彼氏どころか出会いすらなくない? 明日から高木さん、これ担当してよ」

ってな感じで、私がその香水の担当になり、売り場に立つときは毎日つけていたのでした。

つけ始めのトップノートはみずみずしい果実のようで、しばらく時間が経ったあとのミドルノートは落ち着いたフローラル。ラストノートはグッと大人っぽさを感じさせるローズやムスクの香りへと変化するその香水は純粋にいい香りで、「あ、これ好き!」と思っていたからむしろ嬉しかったなぁ。

こんなふうに、世間での人気とは裏腹にBAたちのあいだでは“一商品”でしかなかったその香水。……なのですが、私の身に起こったある出来事をきっかけに、まさかの争奪戦が始まることになるのです。

「彼氏、出来ました」で突然の香水使用禁止令!

終業後のロッカールームでのことです。

“恋が叶う香水”の爆発的な人気がやや落ち着いてきてからも、売り場に立つときは欠かさず身につけて過ごしていた私。もうすっかりお気に入りになっていたので、仕事以外の時間でも同じ香りを身にまとっていました。

その日もいつものようにシュッとひと吹きして帰り支度を済ませると。

先輩BA「ねぇ、高木さん。もしかしてデート?」
私「え、あ、はい」

よく分かったなぁ、珍しくスカートだから?なんて感心したのも束の間。

先輩BA「やっぱり! 最近なんか楽しそうだなーって思ってたんだよね。で、誰と?」
私「実は彼氏、出来ました」
先輩BA「えー! いつの間に? どこで出会ったの?」

なんて大きな声を出すものだから、ほかのBAたちも集まってくるではありませんか。こうなったら仕方がない。隠したり、濁したりすると後々面倒なことになるだろうと、彼との出会いを洗いざらい話します。

それは免税店近くのなんてことない通路での出来事でした。化粧室に行こうと歩いているとなにやら大きな機材を持った数人の団体がいて、その横を通り過ぎたときです。

彼「すみません! ここで働いている方ですか?」
私「はい?」

これが出会い。

彼は某テレビ局勤務でスポーツ番組を担当するディレクターだと名乗り、「一目惚れしました!」と言って名刺を差し出してきました。ですが、私たちは制限エリア内と呼ばれるここでは紙切れ一枚受け取ってはいけない決まり。

丁重にお断りしたその日の帰りです。制限エリアを出たところにあるカフェで飲み物を買っていると……。

彼「あ!」

なんと、くだんの彼と偶然の再会を果たしたのです。この日は海外へ出発する選手の取材に来ていたそうで、「また会えますか?」と名刺を差し出され、私はそれを受け取ったのでした。

※詳しくは「ナンパされても名刺はもらうな、その場で覚えろ!抜け駆けは禁止!が鬼の鉄則」を。

それからの展開は自分でも驚くほど早く、毎日メールのやり取りをするようになり数日後には食事、告白されてお付き合いスタート。

いつもは慎重すぎてなかなか恋愛に発展しないのだけれど、彼にはなにか感じるものがあったのでしょう。その後、BAを辞め、航空会社への就職を目標に留学するまでお付き合いは続いたのでした。

話は戻って、この“彼氏出来ました”騒ぎです。

誰が言い出したのかは分かりませんが、「もしかしてあの香水のおかげじゃない?」って。

その数日後。

先輩BA「今度から高木さんは別の香水担当ね! 彼氏出来たんだから譲ってよ」

こうなることは予想していましたから、「どうぞ、どうぞ」です。

それからというもの、毎朝誰がその香水を担当するのかを決める本気のじゃんけんが繰り広げられるようになり、他ブランドのBAに至っては終業後にこっそり「ひと吹きさせて」と顔を出すように。

その誰もが目を血走らせていたので、ちょっと怖いかもと思ったり、みんな恋に悩んでいるんだなと思ったりした若かりし日の私。

しばらく経っても、誰かに彼氏が出来たという話を聞くことは残念ながらなかったし、そもそも私に彼氏が出来たのだって香水の魔力のようなもののおかげなのかは分からないけれど、あの香水には“恋する気持ちを高めてくれる”力はあったように思います。

恋する気持ちか……、いいですね。
むしろ今、全身にその香水を吹きかけたい。

ジンクスに必死になるお年頃がちょっとなつかしい!? イラスト/Kato

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