左:大泉りかさん、右:E.L.ジェイムズさん、


>>【前編はこちら】【対談】日英2人の女性官能作家が語る―女性向け官能小説が世界で流行する理由とは?

子供が学校でいじめにあわないように注意した

大泉りか(以下、大泉):いま、日本では女性の官能作家がものすごく増えつつあるんです。例えば、日本を代表する官能作家の、団鬼六さんの名前が冠にある官能文学賞の『団鬼六賞』。今まで2回開かれているんですが、第1回は大賞受賞者、優秀賞受賞者ともに女性なんです。2回目は、優秀賞こそ男性ですが、大賞受賞者はやっぱり女性。それとは別に、ティーンズラブや乙女系などとよばれる、性描写ありのラブコメ風ノベルの作家さんたちも増えています。

そうした流れの中で、わたしたち女流官能作家が「女の性」を語る立場に立たされる機会も非常に多くあります。その場合に「顔を出すか、出さないか」という選択肢を取らされるわけなんですが、人によってはちょっと悩ましい問題でもあるんですよね。親類やご近所に「エッチな仕事をしている人だ」とバレてしまう可能性もあるわけで。でも、男性の作家さんで、兼業の方なんかは、奥さんにも秘密にしてる、っていう話も聞きますが、女性は「えいっ!」と出しちゃってる人のほうが多いです。

E.L.ジェイムズさん(以下、E.L.):ああ、それはわかりますね。私も子供がいるので、学校でいじめにあわないように注意しましたよ。ペンネームを使って、小説のカバーも官能小説だとわからないようにして……。

今、息子は20歳と17歳なのですが、彼らが大学を卒業するまではインタビュー内容も気を使っています。「これ以上は言わない」という線引きをしているの。でも彼らが卒業して社会人になったら、何でもしゃべっちゃうかもね(笑)。

日本の女性は、恋愛話は好きだけどセックス話は苦手

大泉:初めての日本ですよね。日本の女性はジェイムズさんの目にはどう映りましたか?

E.L.:日本に来て初めて知ったのですが、日本の女性は女性同士でセックスの話をしないそうですね。欧米では女性同士でセックスの話もしますし、この本もクチコミがヒットに結びついたのですが……。日本の女性がセックスのことを友達同士で語らないっていうのは本当?

大泉
:世代によりますね。私は30代ですが、私の世代はする方だと思いますが、その上の世代になるとしないでしょうね。母の世代などセックス話はタブーですよ。そういう話は「はしたない」という風潮があったので。

E.L.:えー! あなた30代なの? 本当に? もっと若く見えますよ。でも、出版社は大変ねえ。セックスを語ることに抵抗のない世代を掴まないといけないから。

大泉:あと日本の女性は、恋愛話は好きだけど、セックスの話は苦手かもしれません。友達同士で「彼氏とエッチしちゃった」って話はできても、自分の欲望の話、例えば「私はこういうセックスが好き」とか語り合うことは少ないかも。でもこの小説や映画がブームになれば、「こういうのやってみたい」という人が出てくるかもしれない。セックスの話題がもっとオープンになればいいなと思います。ただ、クリスチャンみたいな男性を求めても、あんなお金持ちとは出会えないとは思いますが(笑)。

E.L.:それは言えますね(笑)。

日英セックスシーンの共通点は、女性は両手をあげて……

(C) 2015 Universal Studios

大泉:作品を読んで驚いたのは、セックスシーンが、日本の女性向けの官能小説の濡れ場と一緒だってことです。セックスのとき女性は両手をあげて抵抗できないまま、男性に激しく求められるっていう……。というのも、特に日本には可愛くて綺麗な女性から積極的に気持ちよくしてもらいたいという希望を抱く男性も多くいるわけです。

一方で女性は、性の解放という名のもとに、「ベッドでも、受け取るばかりではなく、与えることが大切」だと諭されたり、また、反対に「テクニックを身に着けて、積極的にならないと、飽きられてしまうのではないか」と強迫観念を持ったり。けど、女性向けの官能小説を書いていてものすごく思うのは、やっぱり女性はロマンチックなシチュエーションで、相手から強く求められるのが大好きなんですよ。だから小説の世界では「してほしい」という女性の願望をかなえているわけです。

E.L.:あらそうなの? 日本の男性は怠惰なのねえ(笑)。SMは縛ったりするでしょう。縛られていると自分は何もしなくていい、いろいろしてもらえるから、逆に解放感があるんじゃないかしら。自分が頑張ってやるよりいいはずですからね。アナとクリスチャンの場合は、経験豊富の男性で相手は身を任せることができるから、理想的なのかもしれないわね。

女性は自分が求めていることが明確にわかっている

大泉:映画化された『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』をご覧になっていかがでしたか?

E.L.:とても素晴らしい映画になったと思うわ。原作に忠実に描かれているし、アナを演じたダコタ(・ジョンソン)もクリスチャンを演じたジェイミー(・ドーナン)もとても素敵よ。

大泉:楽しみです! 映画化の話があった時、どんな気持ちでしたか? またこだわったことは?

E.L.:とにかくビックリしたわ。多くの人に「映画化したい」と言われて。こだわったことはレッドルーム(SM部屋)とエレベーターでのアナとクリスチャンのラブシーンね。レッドルームのシーンは刺激的だし、特にエレベーターのシーンは情熱的で最高よ! みなさん「ワォ!」と思うはず。

大泉:とても楽しみ! この物語は本当にロマンチック。男性の考えるロマンスではなく、女性の求めるロマンスがつまっていると思います。女性の描く官能の物語には、自分が実際に求めていることが描かれていて、だから同じ女性として共感ができる。もちろん、男性の作家さんが描かれるものも、素晴らしい作品ばかりですが、自分に照らし合わせた場合、「女はこうあってほしい」っていう物語に思えてしまうんですよね。まぁ、お互いさまですけど(苦笑)。

E.L.:私もそう思うわ。女性は自分が求めていることが明確にわかっているからよ。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』も世界中の女性たちの求めている要素を感じ取ってもらえたから、これほど多くの人に受け入れてもらえたんだと思うわ。

大泉:セックスを通して伝えたいことはたくさんありますね。それを小説に反映していけたらいいと思います。今日はありがとうございました!

E.L.:こちらこそ、ありがとう!

(斎藤香)