自慢のリンゴを手に、ランウェイを歩く生産者

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秋が一気に深まり、早くも冬の足音が聞こえてきた11月半ば。気温の低下に備えてか、私の意志とは裏腹に食欲は増すばかり…。そんな日々を送っていた記者のもとに、あるイベントの誘いが舞い込んだ。案内状に書かれたタイトルは、「第五回 ふくしまの食材を使ったフレンチの夕べ」。主催はGBP(がんばっぺ)福島、福の島プロジェクトとある。

【写真を見る】福島県の食材を生かした、豪華フランス料理が勢ぞろい!

福島の食と聞き、真っ先に浮かんだのは喜多方ラーメン。そしてモモや日本酒、“ままどおる”など、名物が次々と連想される。おいしいものが盛りだくさん、というイメージは以前からあったが、今回はフレンチ。しかも会場は言わずと知れたフランス料理の老舗、上野精養軒だ。

これは是が非でも行かねば!と期待が高まる一方で、東日本大震災から5年が経った今、風評被害の現状も頭をかすめる。こうして足を運んだ会場で目にしたのは、太陽のように明るくまぶしい、生産者の笑顔だった。

入る前の受付で、早くも心を鷲掴みにされた。それは、プログラムを包む会津木綿のナプキン。鯉が描かれたモダンなデザインは、江戸友禅師・加藤孝之氏によるもの。さまざまな色が用意されており、思わず目移りしてしまった。

■ 福島の食材を使ったフレンチと日本酒が豪華共演

会場に足を踏み入れると、福島県の特産品を販売する物販コーナーに加え、ドリンクカウンターが用意されている。福島県は、全国新酒鑑評会における金賞受賞蔵数が4年連続で日本一に輝く、まさに日本酒大国。その銘酒の数々が、なんと飲み放題らしい。

この日のメニュー表に目をやると、「秋野菜とメープルサーモン 香草のマリネ・笹の川 純米吟醸 桃華」といったように、一品ごとに相性の良い日本酒が記されている。老舗酒造メーカー、笹の川酒造(福島県郡山市)の山口哲蔵社長により選ばれた、自慢の日本酒とフレンチのマリアージュ。日本酒好きにはたまらない、何とも粋な計らいだ。

着席してしばらくすると、まずは会津地方の伝統料理「こづゆ」が運ばれてきた。ニンジンやサトイモ、キクラゲなどの具材を干し貝柱のだし汁で煮た汁物で、食材は奇数で作るのが習わしなのだとか。ハレの日に食べるおめでたい料理として現在も親しまれており、本来は何杯でもおかわりして良いそうだが、今回はたくさんの料理が控えているので一杯まで。心もほっと温かくなる、優しい味わいが印象的だった。

■ 郡山市は鯉の生産量日本一!

その後も続々と料理が登場。会津地鶏に麓山高原豚、福島牛、川俣シャモなど、珠玉の肉料理が勢ぞろいする中、特に印象的だったのが「鯉のムニエル 野菜入りの甘酢あん」だ。福島県郡山市は、鯉の生産量が日本一なのだという。

鯉を食べるのは今回が初めてだった記者は、おそるおそる一口パクリ。すると、想像していたような臭みはまったくなく、まるで高級な白身魚のように上品!口当たりもしっとりしていて、鯉に抱いていたイメージが180度変わる一品だった。

さらに、通常のフレンチではまず登場しないであろう“白米”も、同イベントでは立派な主役。後から思い返しても、1粒1粒立ったツヤツヤと輝くごはん、口に広がるまろやかな甘味が、ありありと蘇ってくるほどだ。この日いただいたのは、ふるかわ農園(福島県郡山市)のコシヒカリ。ごはんだけで米本来の旨味を味わったり、煮込み料理のソースに浸して食べたりと、箸が止まらなくなるおいしさだった。

肉や魚だけでなく、米、さらには野菜も味が濃く、すべてが主役級に美味。大げさではなく、何を口にしても「あぁ、おいしい…」と感動せずにはいられなかった。

■ “フードファッションショー”に込められた思いとは

料理の他にもう1つ、忘れられない光景がある。それは、ステージで繰り広げられる“フードファッションショー”だ。新しい料理が提供される度に、使用されている食材を手に持った生産者が、ランウェイを颯爽と歩く。その表情は自信と愛情に満ちていて、自慢の我が子をアピールするかのように、実に堂々としていた。そして何よりも、楽しんで参加していることがひしひしと伝わってくる。

同イベントを企画・運営するHA2の森本八月喜さんの提案により、昨年からプログラムに盛り込まれた“フードファッションショー”。森本さんは「楽しいイベントでありながらも、きちんと食材を紹介したいと考え、このような演出を思いつきました」と話す。

森本さんによると、現在も約2割の人は福島の食材に抵抗があり、口にしない。その一方で、「応援したいから食べる」という人が2割ほど存在するという。「応援で食べるのではなく、おいしいから食べる人を増やしたい」という思いが込められているそうだ。

今のところ次回の開催は未定だが、「お声がかかればぜひお受けして、続けたいと思います」と意欲を燃やす森本さん。また、「他の地域でも “フードファッションショー”という形で、食材を紹介するイベントが行えたら」と抱負を語ってくれた。

福島の食の魅力がギュッと詰まった、濃密な2時間。いい感じに酔いも回り、月明かりに照らされた上野公園の歩道を歩きながら、ただひたすら幸福感に浸っていた。おいしいものを食べる幸せは、きっと人を動かす原動力になる。そんな思いを胸に、会場を後にした。【ウォーカープラス編集部/水梨かおる】