きらめく色とりどりのカクテル、人生相談に乗ってくれる紳士的なバーテンダー。しっとりとした大人の憩いの場として、老いも若きも集うバー。

憧れはするけれど、実際自分が行くとなると、「怖い」「高価そう」「絡まれそう」の3Kで、入るのを躊躇している女性も多いのではないでしょうか。そこで今回は、それぞれに毛色の異なるバーを経営するバーテンダー4名が、それぞれの視点から“大人の女性”に向けてバーの本当の楽しみ方を教えます。

座談会は阿部さんが経営する下井草のLight a lampで行われた

〈参加者〉

阿部さん:下井草にある「Light a lamp」店長。30代後半。女性客も多い、スタンダードなバー。西武線沿いには落ち着いたバーが少ないので、わざわざ電車を降りて来店する常連客も。ウートピにて『脱ウンチク♡女のためのウイスキー入門』を連載している。

鹿山さん:西新宿に位置する「Ben Fiddich(ベンフィディック)」店長。30代前半。数々のカクテルコンペを総なめにし、世界からも注目されている。フルーツやハーブ等のボタニカルを使ったカクテルやアブサンが中心。客層は男性8割、女性2割で、30代の客が一番多い。畑が趣味。

藤井さん:西麻布のマジックバー「KOKUWA」店長。40代後半。お酒を飲みながらマジックを楽しめるため、客層は幅広い。

雨宮さん:日野生まれ日野育ち、地元民に愛されるバー「Bar104」店長。コンペ入賞経験もあり、都心部の数々のbarで働いた経験をもつバーテンダー。30代前半。8割がた男性客。現行ボトルからオールドボトルまで300本 、自家製ピザや手作りのパスタなどのフード約50種を揃える。

*詳しい店舗情報は記事末尾に掲載しています。

「あちらのお客様から……」ということはほとんどない

──実は私自身、バーに足を踏み入れたことのない超ド級の初心者なんですが、やはりバーというと「入りにくい」「怖い」というイメージがあります。

雨宮さん

阿部さん(以下、阿部):「男の人に声かけられそう」とかですかね。大丈夫ですよ、ウチの店、基本的にナンパはお断りしているんで。そういうお店も多いですよ(笑)。

雨宮さん(以下、雨宮):よく、ドラマや映画で「あちらのお客様から……」とグラスを勧められるシーンが描かれますが、そういうことはほとんどないと思います。バーではテーブルチャージをいただくんですが、それは「居心地のいい空間への対価」という意味合いもあるので、お客様に気持ちよく過ごしていただけるようバーテンダーは気を遣っていますね。もちろん、仲よくなりそうであれば止めないんですけども。

藤井さん(以下、藤井):ウチではマジックを皆で共有して楽しむスタイルなので、スマートな知的好奇心を持っているお客さんが多いです。ベロベロに酔っ払った変なおじさんが入ってくる……ということはないですね。

鹿山さん(以下、鹿山):バーテンダーの気のきかせ方ももちろんですが、“ブランディング”がちゃんとしているバーは厄介なお客さんを寄せ付けない傾向があると思います。その店ならではの空気があり、価値観の共有がなされてる中で妙な行動をしたら悪目立ちしますよね。バー業界は横のつながりが強いので、悪評はすぐ伝わります。

敷居の高いバーのほうが、逆に安心

鹿山さん

──バーテンダー同士のネットワークがあるんですね。

鹿山:ええ。バーテンダーにお店を紹介してもらうのが一番安全です。たまに、「ここオススメですよ」と申し上げると、「え、同業他店を紹介しちゃっていいんですか?」と聞かれるんですが、バー同士“ライバル”という意識はすごく低いんですよ。仲間意識の方が強いです。好きなお店を増やして、バーで飲むことを習慣化してもらう方が、僕は嬉しいかな。

阿部:特に女性のお客様だと、「◯◯のお店、オススメですよ」と勧めると「『もうウチの店に来るな!』という意味ですか?」と聞かれることも多いです(笑)。そうではないんです。むしろ、仲間に紹介できるお客さんということで、言い方は変ですが「この人はどこに出しても大丈夫」と前向きな気持ちの方が大きいですよ。

藤井:「知らない街に行ったらタクシー運転手に道を聞く」のと同じで、バーに行きたければバーテンダーに聞け、ということですね。

阿部:最初から都心のバーに入りづらいのであれば、まずは地元のバーに飛び込んで紹介してもらうのがいいと思います。逆に、地元にバーがあるかわからなければ、都心の有名なバーに入って、「私の地元、どんなバーがありますか?」と聞くのもアリです。

藤井:今は女性ひとりでいらっしゃる方も多いですもんね。

阿部:ただ、安くて大衆的で入りやすいバーは、その分幅の広いお客様が来店され、来店される分トラブルも多いという場合もありますよね。逆説的ではありますが、看板を出していない敷居の高いバーの方が安心な部分もあります。ウチも、紹介でいらっしゃるお客様ばかりなので、ネットに情報を載せてないですし。

最初に予算と「何杯飲みたいか」をバーテンダーに伝える

阿部さん

──だんだん、バーにいってみたくなりました……。バーでお酒を飲む際のマナーや、女性客にお願いしたいことはありますか?

阿部:初めて来店する場合、予算はどれくらいで、何杯飲みたいかを申し出ていただけるとありがたいです。もちろん、「予算1000円でフルーツカクテル3杯ください!」とかは無理なんですが(笑)。予算か、杯数か、どちらかに合わせたご提案はしやすいです。ちなみに杯数は、30分に1杯くらいが目安だと思いますね。

藤井:ドラマや漫画の中で、「ねえマスター、私つらいことがあって……」みたいな語り口で、酸いも甘いも噛み分けたマスターに人生相談をするシーンがありますよね。しかし、現実のバーでは混み具合によってはずっとお相手をするのが難しい場合もあります。

雨宮:もちろん、時間があればお話を伺いますが、問題の解決まではできないかもしれませんね。なので、期待しすぎないでいただけると(笑)。

阿部:バーテンダーと話をするのもいいんですが、お客様にはまずお店の持つ世界観や空気感を味わっていただきたいですね。鹿山さんのお店は内装がすごくかっこいいですし、藤井さんのところは圧倒的なクオリティのマジックがある。雨宮さんのお店は気軽に飛び込めますし。バー初心者の女性には、その違いをわかっていただけると嬉しいですね。

雨宮:本当は、30代の女性に一番お店に来てもらいたいんです。「30歳までに結婚しなきゃ」「30代のうちに出産しなきゃ」など、30代をいろいろなイベントのリミットだと思い込んでいる女性が多い。でも、そういう世間で言われている“リミット”を超えた時に「ひとりの時間」をいかにうまく使えるか。それが人生をより豊かにするコツだと思うんです。そういう方に、「ひとりを楽しむ場所」として利用してもらえるといいですね。

バーテンダーは“コンサルタント”

藤井さん

──最後に、バー初心者、あるいは一度バーで失敗をやらかして何となく足が遠のいている女性に向けてメッセージをお願いします。

阿部:誰しも失敗はすると思うんですが、失敗しないための対策も必要なんですよね。ですから、「バーで何かをする時には必ずバーテンダーを通すこと」「自分のお酒の容量をわきまえること」を徹底していただければ、トラブルに見舞われることは少なくなると思います。

藤井:バーは楽しい場所なので、その空間にせよ、バーテンダーのもてなしにせよ、思いっきり楽しんでください。他のお客さんに話しかけられて困っているなど、何か困ったことがあったら、目くばせなりなんなり、合図をいただければ。バーテンダーは味方ですよ。

雨宮:バーのことは、わからなくて当然です。バーテンダーという「コンサルタント」がたくさんいるので、遠慮なく聞いてください。

【お店情報】

阿部さん
Light a lamp
西武新宿線下井草駅南口徒歩30秒
杉並区下井草2-44-8ぱすとビル2F
03-3399-7823
営業時間18時〜ラスト

鹿山さん
Ben Fiddich(ベンフィディック)
東京都新宿区西新宿1-13-7大和家ビル9F
03-6279-4223

藤井さん
KOKUWA
東京都港区西麻布4-1-4 西麻布MKビルB1
03-6427-5980

雨宮さん
Bar104
東京都日野市大坂上1-30-20松野ビルB1
042-843-1813  
営業時間18時〜2時  定休日  不定休

(小泉ちはる)