くどうれいんの友人用盛岡案内 〜スポット編〜 #5 shop+space ひめくり

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岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。

この頃は「遠出したら食器を買っていい」ことにしている。そうでなければあまりにも、盛岡に暮らしているだけで欲しい食器の誘惑が多すぎるからだ。岩手をはじめとして東北には、素敵な手仕事の品や工芸品を作っている人がたくさんいる。その魅力を、この街に住む人にも、旅人として盛岡を訪れる人にも等しく伝えてくれるのが、中津川沿いにある赤い屋根のお店〈shop+spaceひめくり〉。

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入店するとすぐに店主の菊池さんのセレクトしたさまざまな雑貨が並んでいるのが目に入る。南部鉄器や漆、ホームスパンはもちろん、陶器、木工、硝子のものもたくさんある。季節に合った商品が並んでいるので、何度脚を運んでもたのしい。実際に手に持って、触って、使い心地や手馴染みを確認してから買うことができるのも素敵な体験。店主の菊池さんに、使い方や作家さんのことを尋ねながら選ぶこともできる。

白状すると、こういう素敵なお店で生活にまつわるものを購入するようになったのはここ数年の話だ。それまではコスパのことばかり考えていて、はいはい、「いいもの」でしょ、わかってるけどわたしの暮らしには背伸びしすぎだし。と、一方的に拗(す)ねていたように思う。たしかに大量生産されている雑貨と比べたら価格はある程度する、けれど、〈ひめくり〉には、目玉が飛び出そうになるような価格のものはないように思う。とても気さくな店内の作りでどの商品も手に取りやすい。高いと思ったとしてもご褒美にと思えば買えるくらいのものが多い。それに、作家さんが作った器に盛ると、自分の作った焼いただけ茹でただけの料理も突然輝きだす。お店で出てきたときのような喜びがあるのだ。“おひたし430円”じゃん!“炭酸水550円”じゃん!と思いながら、自分が選んだ器で日頃の食事や飲み物をたのしむようになったのだから、元は相当取っている。

さて、〈ひめくり〉では書籍の販売もしている。暮らしに必要なお皿と本が一緒に並んでいるのはとてもうれしい。強張った背中をほぐしてくれるような本が多い。

お土産として持ち帰るときわたしがおすすめなのは、この南部鉄器の鍋敷き。もちろんずっしりとしていて硬いから持ち帰るのは大変かもしれないけれど、一緒に帰宅した後あなたを見守ってくれること間違いなし。南部鉄器のものって、家にあると不思議と落ち着くのだ。自分の重心を低くしてくれるような、そんな気がする。わたしももう何度も南部鉄器の鍋敷きを友人にプレゼントしている。

〈ひめくり〉にはポストカードや封筒、一筆箋、ラッピングシートなどときめく文具雑貨もある。

〈ひめくり〉に並ぶものの中でも特に盛岡でしか買えないもの、と言えばこの「プリン同盟」のブローチとバッジであろう。「プリン同盟」とは岩手県内で活動する“なぞのアート集団”とのことで、プリンとアートでつながった人たちの集いらしい。毎回(一体なんなんだ……)と思いながら、しかし強烈な愛嬌がありいちばん欲しい子を選ぼうとしてしまう。プリンの魔力。

そうそう。わたしがはじめて工芸品を自分の食卓のために買ったのもこの〈ひめくり〉なのです。自分への絵本の刊行祝いとして安比塗(あっぴぬり)のお椀を買った。買うときは(わたしが漆の器など百年早いのではないか)と思っていたけれど、そういうことを言って年を重ねていても(いまだ!漆のとき!)と思う日は一生来ないような気がして思い切って買った。器を買うのに年相応などない(というかこの世の「年相応」にはすべて実体がない!惑わされるな!)。

なにより、菊池さんが本当に愛しそうに「使っているとまた風合いが変わってくるんだよ〜」と教えてくれたのがうれしくて、わたしもそんな表情で味噌汁椀を愛でてみたいと思ったのだ。

去年この器を買ってうれしくてうれしくて、宮城風と山形風の芋煮を食べ比べた。手に持ったときの木の温かさ。漆の、黒と茶色の間の風合い、かっこいい!買ってよかった、とすぐに思った。漆のお椀を洗って拭きあげていると「かわいいねえ」と話しかけたくなる。

買ってよかったなあ、と思うものや、あのとき買ったなあと懐かしむことができるものをひとつずつ増やして暮らしたいと思っている。〈ひめくり〉で出会うことができるものはどれも、手に取ればとっておきなのに、生活にしっかり馴染んでくれる。人生には(わたしがえらんだぞ!)と誇らしく思えるものがひとつでも多いほうがいい。どうですか、せっかくだし。なにか残るものを旅の思い出に買っていくのもおすすめですよ。

shop+space ひめくり

住所:岩手県盛岡市紺屋町4-8 TEL:019-681-7475営業時間:10:30〜18:30定休日:木曜、第1・第3水曜ホームページ:http://himekuri-morioka.com/

くどうれいん

作家。1994年生まれ。著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『虎のたましい人魚の涙』(講談社)、絵本『あんまりすてきだったから』(ほるぷ出版)など。初の中編小説『氷柱の声』で第165回芥川賞候補に。現在講談社『群像』にてエッセイ「日日是目分量」連載中。最新刊に『桃を煮るひと』(ミシマ社)がある。